第31話 二人の勇者、王都へ到着!
馬車が王都に向けて走る。
道路もだんだん整備が行き届いたものになっていき、辺境から国の中心部に来たのだな、という実感が湧く。
「もうすぐ王都だ……」とアレス。
「ちょっと緊張してきたな」唇を舐めるラディル。
ラディルは後部座席のサーナに振り返る。
「なぁサーナ、これから王を断罪するにあたって何か策はあるか?」
「ないよ」
サーナはあっさり答えた。
「……ない!?」
ぎょっとするラディルにサーナはくすりと笑う。
「だってこっちは天下の勇者が二人揃ってるんだよ? 今更策なんか練る必要あると思う?」
「た、確かに……!」
「あとはもうラディルたち次第だよ」
「そうだな。その通りだ」
サーナは続ける。
「国王だってバカじゃないから、アレスさんが辺境に行って、ラディルを連れて戻ってくることぐらいはすでに掴んでると思う。しかもクレア様まで連れて。これはもう、国王に宣戦布告してるようなものだよね」
「ってことは、いきなり攻撃してくることもありえるか?」
「ううん。まずは手厚くもてなしてくれるんじゃないかなぁ」
「えっ、ってことは無条件降伏か!?」
「んなわけないでしょ! なんで今までの流れで国王が無条件降伏するのよ!」
サーナに手厳しく指摘され、ラディルはしゅんとする。
「とにかくラディルは堂々としてりゃいいのよ。勇者なんだから!」
「ああ……俺、勇者だし堂々としてる!」
子供のような口調のラディルに、サーナはため息をついた。
「ちょっと心配になってきたかも……」
***
夕方までもう少しという頃、馬車が王都に入る。
クワンの町と比べ、建物が密集して並び、道路も美しく整っている。当然、人通りも多い。
だが、辺境暮らしにも慣れてきたラディルの目には少々うるさくも感じてしまう。
家が雑多に並び、人通りもまばらだったクワンの町が恋しい。
とはいえ、サーナとベリネは――
「わー、ベリネちゃん。人が多いよ!」
「うむ……何かお祭りでもやっているのか?」
王都に来たのは初めてだったので、新鮮に映ったようだ。
馬車はまもなく王城に到着する。
城の周囲では、兵士がずらりと並んでいた。
王国の高官がラディルたちを出迎える。
「アレス様、クレア様、皆様、お待ちしておりました。陛下から丁重に出迎えるよう、仰せつかっております」
「ありがとう。陛下にはよろしくお伝えしてくれ」
アレスが代表して応じる。
まずは手厚いもてなし。サーナが予想した通りの展開である。
「それとクレア様、勝手に城を出たことを陛下がご心配なさっております。すぐに自室にお戻り下さい」
「嫌ですわ。わたくしはアレス様たちと一緒にいます」
「陛下の厳命ですので……」
ここは従ってくれ、の意でアレスがうなずくと、クレアはやむなく従う。
「分かりましたわ」
「ありがとうございます。それとアレス様たちには別室を用意しておりますので、本日はこちらへどうぞ」
ラディルたちは客室に案内される。
城内の一室に過ぎないのだが、ラディルの家の何倍もの広さを誇る。
床には絨毯が敷かれ、大きなベッドが四人分並び、壁には絵画が飾られている。
「見てベリネちゃん、ベッドふかふか!」
「おおっ、本当だ! ウチのペラペラなシーツとは大違いだ!」
高級ベッドに目を輝かせるサーナたち。
「おいおい、お前ら、たかがベッドに……」
ラディルがベッドを触る。
「ふっかふかぁ!!!」
一瞬でベッドの虜となってしまった。
その後、宮廷の使用人によって食事が運ばれてくる。
メニューは柔らかなパン、白身魚のソテー、鶏のポワレ、野菜を使ったポタージュ。
ラディルは豪勢な食事に唾を飲み込みつつ、顔をしかめる。
「これ……毒が入ってるんじゃねえか?」
「いや、陛下ももう私が毒に気づいたことに気づいてるはず」とアレス。
「なんだかややこしいな」
「今更毒を盛るような真似はせんだろう」
アレスは食事に毒は盛られていないと判断する。
念のため、鼻のきくベリネが匂いを嗅ぐ。
「異物が入ってるようなことはなさそうだ」
「じゃあ、せっかくだしいただきますか」
四人は食事をした。
最初は敵地の食事なんて、という態度だったラディルたちだったが――
「なにこれ、うんめえ!」とラディル。
「はぁ~……美味しい」サーナは恍惚とした表情である。
「これが王の食べる料理というものか……!」ベリネも驚嘆する。
ラディルがアレスに尋ねる。
「お前、勇者として毎食このレベルの食事をしてたのか?」
「まぁな。正確に言うと、グレードはもっと上だった」
「正直こんな美味いなら、毒盛られても許しちゃうかも……」
洒落にならない冗談を口にするラディル。
とはいえこれも、アレスが毒から回復できたから言えることなのだが。
食事を済ませると、四人は軽く体を拭き、白い寝間着に着替える。
夜が更ける頃には全員ベッドに入った。
ラディルとアレスは眠る時も剣を傍に置き、神経を研ぎ澄ませていたが、部屋に暗殺者が送り込まれるようなことはなかった。
***
次の日、ラディルたちが支度を整えると、部屋に使いの人間がやってくる。
「アレス様、皆様、国王陛下がお待ちです。謁見の間までどうぞ」
「分かった」とアレス。
「俺らはオマケか」
「うむ……“皆様”でまとめられてしまった」
ラディルとベリネはご機嫌斜めの様子だ。
「ぼやかない、ぼやかない」サーナがなだめる。
使いの人間についていき、絨毯が敷き詰められた通路を進む。
「あちらが謁見の間です。国王陛下はすでに玉座にいらっしゃいます」
使いの人間が来られるのはここまで。
宝石が散りばめられた巨大な扉が鎮座する。
あの中で国王が待っているのだろう。
ラディルにとっては「お前はいなかったことにしたいから、辺境に行ってくれ」と言われた場所である。いわば“始まりの場所”といえる。
ラディルとアレスが横に並び、先頭で扉に手をかける。
扉は巨大だが、軽い力で押せば開く仕組みになっている。
ラディルは一瞬立ち止まってから、こうつぶやく。
「よし、入ろうか」
扉を押し開く。
勇者二人、勇者の相棒の少女、魔王の娘が謁見の間に入室する。




