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第3話 ラディルvs野盗集団

 30人ほどの野盗に囲まれた馬車。

 乗客たちはみんな怯えている。


「全員馬車降りろや!」


 野盗のリーダー格の命令で、全員が馬車から降ろされる。

 リーダー格は右目に眼帯をつけた、筋肉質な男だった。


 うなだれる乗客たち。

 勇者が魔王を倒し、やっと平和になり、乗合馬車で色んな町に行ける……という矢先に野盗に狙われるとは。

 ツイていないにもほどがある。


「オラ、ちゃっちゃと金出すんだよ!」


 リーダー格が怒鳴りつける。

 命あっての物種である。乗客らは大人しく金を出す。


「どうぞ……」

「どうか命ばかりは……!」


 皆が素直に金を渡すので、野盗たちは気をよくする。


 ただし行商人だけは――


「金はいいですけど、商品だけは! 商品だけはぁ! これがないと……」


「ダメに決まってんだろ! 全部よこすんだよ!」


「ひいいっ!」


 収奪は順調に進み、野盗の一人がラディルに目をつける。


「おい、そこの! お前も金を出すんだよ!」


「俺?」


「そうだよ! 早く出せ!」


 催促され、ラディルは金貨袋を出す。

 王国から辺境で暮らす生活資金としてもらったものだ。

 贅沢さえしなければ、数年は食べていける額である。


「お? 冴えねえツラのわりに持ってんじゃねえか! 全部よこせ!」


「やだ」


 ラディルはあっさり言ってのけた。


「これは俺の新天地での生活資金なんだ。なんでお前らなんかにくれてやらなきゃならねえんだよ」


 ラディルの言葉に、野盗たちの頭に血が上る。


「なんだと~!?」


「お前らが問答無用で命を狙うような輩だったら叩き斬ってたところだが、まだ真っ当な道に引き返せる。それに俺はこれから新天地で新生活が待ってるから、殺生しようって気分じゃねえんだ。見逃してやるからとっとと失せろ」


 追い払う仕草をしつつ、ラディルが睨みつける。

 すでに金を渡した者たちは生きた心地がしない。


「ナメてんのか!」


 一人がサーベルでラディルに斬りかかるが、あっさりと剣で弾かれる。


「ううっ!」


 ラディルが只者ではないと見抜いたリーダー格が命令する。


「少しは腕に覚えがあるみてえだな。だったらお前ら全員でかかれぇっ!」


 野盗たちが襲いかかってくる。が、アレスと共に魔族に挑み、魔王を倒して帰ってきたラディルにとっては鈍い動きである。スローモーションに見えてしまう。


 剣は抜いているが、向かってくる連中を柄での打撃で次々ノックダウン。


「これで10人ぐらい倒したか? だけど、まだ結構数がいるな」


 ラディルは剣を背中まで振りかぶるように上段に構える。

 あいつ何かする気だぞ、と野盗たちがざわつく。


「お前らなんかに見せる技じゃないが……特別に見せてやる! ――風烈斬ふうれつざん!!!」


 そのまま凄まじい速度で剣を振り下ろす。

 突風が巻き起こった。ラディル以外の全員が思わず目を閉じてしまうほどの風だった。


「な、なんだ!?」


 風が収まると――野盗全員の衣服に切れ目が入っていた。


「ゲェッ!?」


「風烈斬……大勢の魔物に出くわした時は重宝したな」


 ラディルが使える“四つの技”の一つ。

 高速で剣を振るい、突風を起こし、生じる風の刃で多数の敵を切り裂く。

 彼が使う技としては、最も広範囲に影響が及ぶ技である。


「今この技を使えるのは俺ともう一人だけ……。師匠は亡くなっちまったからな」


 剣を納めるラディル。

 超人的としかいえない剣技に、野盗たちは腰を抜かしている。


「で、どうする? 続きをやるのか、やらないのか?」


 ラディルに問われ、野盗たちは観念する。

 あれほど居丈高だったリーダー格の男もすっかり青ざめている。


「……金はいらねえ。もちろん全部返すよ」


「それと?」


「もう悪いことはしねえ……心を入れ替える! マジだ! あんな技見せられたら、もう悪さなんて……」


「あとは?」


「あとは……って」


「俺たちに謝れよ! それが一番先だろ!」


「そ、そうだった! すまなかった! すみませんでしたぁ!」


 一目散に逃げ出す野盗たち。

 ラディルが御者や乗客に振り返ると、みんなポカンとしている。


 ヤバイ、やらかしたか?

 恫喝みたいなことしちゃったし、もっと勇者らしく「悪いことはやめたまえ!」なんて言うべきだったかも……と反省する。


 馬車は再び動き出し、町に向かって走り出した。


 この間、馬車内は終始沈黙していた。

 気まずすぎる……とラディルは思った。


 まもなく馬車はモンテの町に到着し、ラディル以外の乗客は全て降りることとなった。


 そして、降りた人たちは辺境に向けて走っていく馬車をいつまでも見つめ続けた。

 老夫婦が唸る。


「さっきの剣技が凄すぎて、話しかけることもできなかった……あの人は本当に勇者だったのかもしれんな」

「ええ、驚きました……」


 母子も呆然としている。


「なんだったの、あの人……」

「あのお兄さん、ホントに勇者だったんだ……」


 行商人がつぶやく。


「しくじったなぁ。サイン貰っておけばよかったかもしれねえな……」



***



 ラディルを乗せた馬車は辺境への入り口、山岳地帯に入る。

 ラモン山脈という山々がエラド王国を南北に分断するようにそびえ立っており、かなりの難所である。

 しかし、御者の腕前は見事なもので、難なく越えることができた。


 山脈を抜ければ、そこは辺境である。


「お客さん、まもなく『クワンの町』に着きます。そこが終点ですよ」


「クワン……か」


 辺境に来ること自体が初めてのラディルはもちろん来たことがない。

 不安もあるが、お気楽な性分であるラディルにとっては楽しみの方が大きい。

 剣を白い布で磨きつつ、到着に備える。


 クワンの町の入り口で馬車が止まる。


「着きましたよ~」


「ありがとう」


「ありがとう、はこちらですよ。野盗を追い払って下さって……。代金もタダで結構ですよ」


「いや、こういうのはきっちり払っておきたい主義なんでね」


 代金を払うと、ラディルは外に降り立った。

 ちゃんと払った方が辺境での暮らしがいいものになる。そんな気がした。


 ここが“辺境”か、と少し思いを馳せる。

 そして、あえて大声を出した。


「よーし、俺はここで“勇者”になるぞー!」

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― 新着の感想 ―
[一言] ラディルカッコいいぞ!! でも... >「しくじったなぁ。サイン貰っておけばよかったかもしれねえな……」 思いっ切り吹いちゃいました(笑) みこと
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