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勇者と共に魔王を倒した相棒は、「勇者は一人で魔王を倒したことにせねばならぬ」と追放されてしまうが、親友のためにド辺境で“勇者”を自称する  作者: エタメタノール
第四章 親友との再会

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第28話 ラディル、親友を殴る!

 半年余りで目に見えてやつれたアレス。

 その原因は過労や病気ではなく毒であり、黒幕にいる可能性が高いのは国王ゴードウィン。

 何かの間違いだと、ラディルは思いたかった。

 だが、同時に「あの国王ならやりそう」「やってもおかしくない」と合点がいってしまう。

 国王にとって勇者アレスは国を盛り立てる上で必要な人材だが、それ以上に邪魔な存在でもあったのだ。


 サーナは顎に手を当てながら、自分の推測を話す。彼女の父を思い起こさせる仕草だ。


「国王はアレスさんを使えるだけ使って、出来る限りそこから出る甘い汁を吸ってから、最後には死んでもらうつもりだったんだと思う。このまま毒で弱らせるか、あるいは弱ったところを狙うか、のどちらかで。死因は魔王との戦いでの後遺症、だなんて発表すれば悲劇性も増すしね。さらに言うとラディルを追放したのは、その時障害になりそうだからってのもあるんじゃないかな」


 ラディルは奥歯を噛み締め、憤る。


「くそっ!」


 ベリネも眉をひそめている。

 領主エドロード、そして国王ゴードウィンは、邪魔者を容赦なく排除しつつ、なおかつ自分は悪者にならないよう立ち回っている。そうした人間を理解しきれず、困惑している。


 しかし、当のアレスは表情を変えていない。

 ラディルはその顔を見て、何かを察する。


「アレス?」


「……」


「お前まさか……食い物に毒を盛られてるのを知ってたんじゃねえだろうな!?」


「……」


 アレスは答えない。

 ラディルは肯定と捉えた。


「なんでだよ!? 毒盛られてるのを知ってて、なんでみすみすっ……!」


 興奮しすぎて、声がちゃんと出ていない。

 一方のアレスは極めて冷静に話し始める。


「陛下が私を疎んじていることは分かっていた。毒のことも、すぐに気づいた。それとなく調べたら、陛下がやらせていることも、すぐに判明した」


 アレスは知っていた。

 主君が、自分に毒を盛っていることを。


「だが、私は使命を果たせば、陛下は必ず私に心を開いて下さると信じていた。そのために、この半年間、私なりに一生懸命働いた」


 勇者アレスの活躍は、旅人などを通じ、辺境にいるラディルたちにも届いた。

 ラディルが“勇者”としてがむしゃらに努力したように、彼もまた“勇者”としての努力を惜しまなかった。


「しかし、残念ながら陛下の私に対する評価は変わらなかったようだ。これはもう、私の落ち度というしかない。私は甘んじて毒を受け入れることにした。だから……お前と会うのも今回が最後となるだろう。お前が“勇者”となってくれて本当に嬉しかった。これでもう私に思い残すことはない……」


 死を覚悟し、穏やかな笑みを浮かべるアレス。

 優美ではあるが、死相が漂うとはまさにこういう面持ちを言うのだろう。

 これを見てラディルはゆっくりと立ち上がった。


「なるほどな。お前は国と国王に忠誠を誓っていた。たとえ向こうに裏切られたとしても、最後まで国に仕え、勇者としての責務を全うしたいってか。実に立派な心掛けだ」


 ラディルがアレスに近づく。

 小さく笑むと、親友を称える。


「俺は親友として、お前の生き方を心から尊敬するし、支持するよ」


「ありがとう……」


 ラディルの目つきが変わる。


「……ってそんなわけねえだろうが!!!」


 ラディルの右拳が、アレスの顔面にめり込み、そのまま体ごと吹き飛ばした。

 アレスの体が壁に叩きつけられる。

 家全体が揺れるほどの衝撃だった。


「ちょっとラディル!?」

「何をしている!?」


 いきなりの鉄拳制裁。

 サーナとベリネは驚き、セネックは青ざめている。

 ラディルは怒りに満ちた眼光をアレスに向ける。


「お前……なんで……」


「ラディル……」


 アレスの左頬が大きく腫れ上がる。

 ラディルは必死になって、自分の言葉を発しようとする。


「お前は……すげえよ。平和のために、魔王を倒して……。国のために働いて……俺が追放される時も……俺のために、怒ってくれた。今も、国王のために、自分は死んでもいいと思ってる……」


 アレスは黙って聞いている。


「だけどさ、“お前”はどこにいるんだよ? お前の人生はどこにあるんだよ!? こんな他人のことばかり考える人生で、本当に満足か!?」


 アレスはうつむいたままだ。


「お前は……“勇者”じゃねえ!」


「……!」


「お前がホントに勇者だったら、悪いことしてる国王に立ち向かう勇気も持ってるはずだぁ! だからお前は勇者じゃねえ!」


 すると、ラディルの目から――


「ラディル……!」


 大粒の涙がこぼれ、アレスもショックを受ける。


「だから……頼む! “勇者”になってくれ! 俺はお前に死んで欲しくねえ……! 頼む……頼む……頼むぅ……」


 両膝と両手をつき、うなだれるラディル。嗚咽まで漏らす。

 アレスもこんなラディルを見るのは初めてだった。


 修行がどんなに辛くても、魔族がどんなに強くても、たとえ国王に追放されても、ラディルはいつもの調子だった。いつもの調子で笑っていた。

 生真面目なアレスにとって、それがどれだけ羨ましく、救いになったことか。

 そんな彼が初めて見せる涙であった。


 誰も言葉を発せずにいたが――


「アレスさん」


 サーナだった。


「ラディルの言う通りだよ。あなたがこのまま死んだところで、王は反省しないし、この国だってよくはならない。本当に王国のことを思うなら、あなたは死んじゃいけない」


 そして、アレスを指差す。


「もし、このまま安易に死を選ぶなら、ラディルの相棒としてあたしはあなたを許さない。墓石にツバ吐いてやるんだから」


 頬を腫らした顔で、アレスがふっと笑う。


「さすがはラディルの相棒……はっきり言ってくれる」


 先ほどまでは死んでいた目に光が宿る。


「その通りだ……私は“勇者”ではなかった……。自分にもやりたいことはあるのに、それから目を逸らし、国や王のために働く自分を演じ、逃げていたんだ……。その方が楽な生き方でもあるからな……。だが、私はやっと自分の気持ちに気づいた。もしも、まだ間に合うなら、まだ出来ることがあるなら……」


 アレスは顔を上げる。


「私は今度こそ……“勇者”になりたい!」


 ラディルの顔がぱぁっと明るくなる。


「アレス……!」


「ラディル、今のは効いたよ」


 アレスが殴られた頬をさする。


「わりぃ、本気で殴っちまって……」


「だが、その後のサーナの言葉の方が効いたよ。いい相棒を持ったな」


「俺には過ぎた相棒だよ」


「私も自分の墓にツバを吐かれるのはゴメンだ。花を手向けられるような生き方をしたい」


 サーナは笑い、ベリネも見守るような笑みを見せる。


 アレスがセネックの方を向く。


「セネック君」


「は、はいっ!」


「私はどのぐらい蝕まれている? どのぐらい生きられる?」


 セネックはすぐに答える。


「もし、このままのペースで毒を盛られていたら一年……といったところでしょう」


「では、このままなら?」


「内臓にダメージがありますので、十年生きれるか……というところではないかと」


 再び場の空気が重くなる。

 アレスの体が毒に蝕まれていることに変わりはない。

 しかし、アレスは奮起する。


「元々は命をかけて魔王を倒そうとした身だ! それだけ生きられれば十分だ!」


「ああ、そうだ! アレス! その意気だ!」


 ラディルも続く。

 すると――


「あのぉ……」とセネック。


「なんだよ、セネック?」


 ラディルが今いいところだったのに、という顔をする。


「今言ったのは毒を蓄積したままだったら、という話であって……要は毒を抜ければいいんですよね?」


「そりゃそうだけど……一度体内に入っちまった毒を抜くなんて……」


「出来ますよ、僕」


「へ?」


 セネックがあまりにあっさり言うので、ラディルは呆気に取られる。


「僕が飼ってる虫には体内の毒を抜けるやつもいるんです。もちろん、毒の種類にもよりますが……アレスさんが蝕まれている毒は抜ける類のものだと思います」


 別に誇るでもなく、淡々としているセネック。

 呆然としていたラディルだが、すぐに顔を歓喜に変える。


「さすがセネック! 村一つ滅ぼしかけただけのことはある!」


「滅ぼすつもりはなかったですよ!」


「とにかく、さっそくアレスを治療してやってくれ!」


「分かりました!」


 セネックは一度自宅に戻ると、“ドクスイビル”というひるを大量に持ってきた。

 薄い紫色で、一匹一匹が人差し指ほどの大きさをしている。

 アレスを半裸にすると、体の至る部分に蛭を張り付けていく。


「こんなので、本当に大丈夫なの?」


 サーナは顔を引きつらせる。


「ええ、大丈夫。美味しそうに吸ってますよ」


 うっとりと笑うセネックはどこか楽しそうだ。

 本当に虫が好きで、自分の虫が役に立つことが嬉しいのが分かる。

 大量の蛭に顔をしかめつつ、サーナはアレスに尋ねる。


「アレスさんは大丈夫なの? そういうの」


「得意ではないが……魔王を倒した身からすれば、どうってことはない。なぁ、ラディル?」


「いや、俺は苦手なんだけど」


「え……」


 ラディルに即否定され、アレスが唖然とする。


「ベリネちゃんは?」


「魔界には私より大きい虫も沢山いたからな。この程度の虫は可愛いものだ」


「ひええ~」


 人間よりも巨大な蛭を想像し、サーナが青ざめる。


「よく吸ってくれるなぁ。さすが僕が育てた蛭だ!」


 セネックはなぜか興奮している。


「お前、やっぱり本性は危ない奴なんじゃ……」


 ラディルに指摘され、慌てて否定するセネック。

 家の中に笑い声が響く。


 一時間ほど吸わせ、セネックが全ての蛭を回収する。


「完璧……とは言えませんが、だいぶ毒は抜けたはずです。いかがですか?」


 アレスは腕をぐるぐると動かす。


「うん、いくらか体が軽くなった。体内にあった重しが取れたような気分だ。今ならラディルにも勝てそうだよ」


「いや、はえーよ。病み上がりに負けたら、さすがに俺の立場がねーわ」


 すかさずラディルがツッコミを入れる。

 セネックによると毒で受けた肉体のダメージは大きく、体力を戻すには数ヶ月はかかるとのことだった。

 しかし、アレスからはそんな弱みは感じられない。体の回復はこれからだが、心は十分回復している。

 サーナがにこやかに笑う。


「アレスさんが元気になったら、場の空気も明るくなったね。ここらへんがやっぱりラディルとは違うんだろうねー」


「おい、サーナ。ますます俺の立場が……!」


 ラディルはがっくりしてしまう。

 しかし、嬉しかった。

 死を選ぼうとしていた親友を立ち直らせることができたことが――

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― 新着の感想 ―
[一言] おおお! セネックさん大活躍です\(^o^)/ でもぉ。 >「アレスさんが元気になったら、場の空気も明るくなったね。ここらへんがやっぱりラディルとは違うんだろうねー」 ラディルさんの扱い…
[良い点] セネック大活躍!そういえば蛭は実際に治療に使われているそうですね。 [気になる点] 悪い王でも忠誠を誓うというのは家臣としては鑑なのでしょうが、それは勇者ではないですね。ラディルの言葉が通…
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