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勇者と共に魔王を倒した相棒は、「勇者は一人で魔王を倒したことにせねばならぬ」と追放されてしまうが、親友のためにド辺境で“勇者”を自称する  作者: エタメタノール
第四章 親友との再会

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第26話 ラディルとアレス、二人の勇者の再会

 ラディルたちが領主エドロードの罪を暴いてから、およそひと月が経った。

 事件による混乱もようやく収まり、ラディルたちもいつもの生活を取り戻しつつあった。


 ラディルは午前中のトレーニングを終えて、家の中に入る。


「ふぅ~、いい汗かいた」


 サーナがコップに入った水を差し出す。


「はい、どうぞ」


「お、悪いな」


 ラディルはタオルで汗を拭きつつ、水を一気に飲み干した。

 生き返るような気分になる。


 キッチンからはトントントンという音が聞こえる。


「今日はベリネが料理作るのか」


「うん、最近お料理に凝ってて、今日もはりきってるみたい」


 キッチンを覗くと、エプロンをつけたベリネが野菜を切っている。


「へえ~、いい手つきじゃん」


「私もサーナに色々と教えてもらったからな」


 しかし、ベリネの持っている刃物は――


「え、それ妖刀!?」


「うむ、こっちの方が切れるのでな」


 ベリネは妖刀を包丁代わりにしていた。

 妖刀は文句も言わず、包丁になっている。


「妖刀……お前もずいぶんな扱いになっちまったな」


『へへ、ベリネさんには逆らえないっすからねえ』


 妖刀は魔道具。ベリネは魔王の娘であり、魔族としては最高峰の格にある。

 “魔”としての格があまりにも違い過ぎた。

 包丁にされようが、髭剃りにされようが、文句は言えない。


『でも包丁になるのもいいもんですね。なんかこう、作る楽しみを味わえるっていうか……』


「ならいいんだけどさ」


 ベリネの料理を楽しみにしつつ、ラディルはソファに座る。


「しっかし、領主をブッ倒したのはいいけど、俺たちの生活がそう激変するもんでもないな」


 サーナは小銭を数えつつ答える。


「そんなもんでしょ。でもラディルは間違いなく有名になったと思うよ」


「かなぁ? いやぁ~、俺も有名になっちまったか」


 しまりのない笑みを浮かべるラディルを見て、サーナは「言わなきゃよかった」とつぶやく。

 程なくしてベリネが昼食を持ってくる。

 肉と野菜がたっぷり入ったオムレツである。

 妖刀で作った料理であるが、味は上々だった。


「おお、美味い!」


「うん、美味しいよ! ベリネちゃん!」


 絶賛され、ベリネも安堵するように息を吐く。


「よかった……!」


 何事もなく昼を終えたが、この日、ラディルは非常に大きな出来事に遭遇することとなる。



***



 ラディルたちが胃の中に入れたオムレツも落ち着いてきた頃、家のドアがノックされる。

 サーナが「あたしが出るよ」とドアを開ける。


 そこにいたのは――


「失礼。ここにラディル・クンベルが住んでいると聞いたもので」


 金髪にして碧眼、肩には赤いマントを羽織り、銀色の鎧をつけた威風堂々とした青年であった。

 サーナは思わず息を呑んだ。


 ソファに座っていたラディルが入り口に振り向く。


「サーナ、どうし……!」


 ラディルが固まる。


「アレス……!? お前、アレスか!」


「ああ」


 来客――勇者アレスはニコリと笑った。


「あれぇ!? お前なんでここに!?」


「お前の名前が王都まで届いたからな……こうして酒を飲みに来た。よく約束を果たしてくれたな」


「お前こそ、よく来てくれた! さ、上がってくれ!」


「お邪魔するよ」


 親友アレスとの再会を喜ぶラディル。

 いそいそと椅子を用意したり、テーブルの上を軽く片付けたりする。


「だけどさ、お前……ちょっと痩せた?」


 アレスの顔は、ラディルの記憶より頬がこけていた。

 心なしか血色もよくない。


「ああ、ちょっと痩せたかもしれないな。“勇者”というのも何かと気苦労が多くて」


「……だろうなぁ! 多いよな、気苦労! 勇者だもんな!」


 ラディルは不意に生じた胸騒ぎを心の中に押し込め、アレスをリビングに案内する。

 親友同士、テーブルに向かい合って座る。


「来るなら、事前に手紙でもくれればよかったのに」


「ハハ、お前を驚かせたかったものでな」


 親友の茶目っ気がラディルの心に染みる。


「いつまでいられるんだ?」


「あまりゆっくりもしてられないんだ。明日には帰らないと」


みじかっ! ……まあ、しょうがないか! 一日だけでも嬉しいよ!」


「ありがとう……」


 ラディルは高いテンションのまま、アレスのことを同居する二人に紹介する。


「こいつはアレス! 俺の親友で、今をときめく勇者様だ! 剣の腕は俺と互角……いや、ほんのちょっぴり俺が上かな」


 ラディルはおどけてみせる。

 親友の来訪が本当に嬉しいのだろう。


「よろしく」


 アレスも礼儀正しく頭を下げる。

 サーナはワンピースの裾を持ち、挨拶する。


「あたしはサーナと言います。ラディルの相棒です!」


「相棒……?」


「サーナはこの町に来て早々、辻斬り犯呼ばわりされた俺を助けてくれたんだよ。それからもずっと俺を助けてくれてる」


 これを聞いてアレスは微笑む。


「そうか、そんなことが……。サーナさん、ラディルを助けてくれてありがとう」


「やだ、“さん”だなんて。サーナでいいよ」


「そうか。サーナ、これからもラディルを助けてあげてくれ」


「はーいっ!」


 サーナは元気よく返事をした。


「こちらは?」


 アレスがベリネの方を向く。

 ベリネは言葉に詰まる。“正直”に自己紹介をしていいのか、逡巡する。

 だが、ラディルは目配せしつつ、


「アレスなら大丈夫だ。こいつに隠し事はしたくない」


 と告げる。


「うむ、分かった」


 ベリネはうなずく。


「私はベリネ。魔王の娘だ」


 これまでは穏やかだったアレスの表情が強張る。


「魔王の娘……!?」


 魔王は長きに渡り、エラド王国を荒らした宿敵である。

 人一倍の愛国心を持つアレスであれば、魔王の娘を警戒しても無理はない。

 すかさずラディルが補足の説明を入れる。


「いや、違うんだ! ベリネは悪い奴じゃなくて……いい奴で、俺の味方なんだ」


 アレスは少し考えた後、頬を緩ませる。


「ラディル、お前がそう言うのなら、私も彼女を“いい奴”だと思うことにしよう」


「ありがとよ、アレス」


「しかし、逆に彼女からすると、我々は父親の仇ということになる。そのことについては何の問題もないのだろうか?」


 アレスからの問いにベリネは首を横に振る。


「私は魔界を追放された身だ。お前たちが父を倒したことに、なんの恨みも持っていない」


「ならばよいのだが……」


「ちなみにベリネが魔王の娘って知ってるのは、俺たちぐらいのもんだから、そこは内緒にしておいてくれ」


「分かった。胸の中にしまっておこう」


「アレスさんはラディルよりずっと口が堅そうだから、安心できるね!」


 サーナが茶々を入れると、ラディルは悔しそうにうめき、皆が笑った。


「今度はお前の話を聞かせてくれよ」とラディル。


「いいとも」


 アレスは“勇者”として、政治、外交、遊説、調練、幅広く活動していることを明かした。

 魔王の脅威を国内で収めてみせたアレスは、諸外国の注目の的だった。

 今やアレスはエラド王国の“顔”といっていい。

 「魔王を一人で倒した勇者アレスを広告塔にする」という国王の目論見は見事に当たった形となる。


「すっげえ頑張ってるんだな! そりゃやつれもするか。だけど……あまり無理するなよ」


「ああ、分かっている……」


 ラディルとしてはアレスが来てくれたことは嬉しいが、アレスの過労ぶりが見て取れるので、少し引っかかる部分もある。

 和やかで楽しい時間は、どこかぎこちない響きを奏でながら、過ぎていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ベリネちゃんが料理が得意なのは意外でした。 >『でも包丁になるのもいいもんですね。なんかこう、作る楽しみを味わえるっていうか……』 いいのかそれで!妖刀君(笑) >「アレスさんはラディル…
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