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勇者と共に魔王を倒した相棒は、「勇者は一人で魔王を倒したことにせねばならぬ」と追放されてしまうが、親友のためにド辺境で“勇者”を自称する  作者: エタメタノール
第二章 勇者としての日々

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第17話 奇病の正体を暴け!

 御者をこなす青年トマスが三人に振り返る。


「もうすぐモルビス村です」


 モルビス村は、ラディルたちが住むクワンの町から馬車でおよそ半日かかる。

 クワンの町を出たのは昼過ぎなので、まもなく日没を迎えようとしていた。


 すると、村がある方向から歩いてくる青年がいた。


 大人しそうな顔つきで、どこかおどおどしているような印象を受ける。

 しかし、それなりに腕力はあるようで、多くの荷を背負っていた。


 ラディルがトマスに尋ねる。


「あの人は? 村の人か?」


「いや、あの人はそうじゃないですね。“虫売り”のセネックさんです」


「虫売り?」


「各地を渡って、珍しい虫や綺麗な虫を見せたり、売ったり……という商売をしてるようです」


「へえ、そんな商売もあるのか……」


 初めて知る商売にラディルは感心した。


 さて、そんな虫売りのセネックとすれ違うと、いよいよモルビス村が見えてくる。

 モルビス村はクワンの町に比べるとずっと小さい。

 人口は50人にも満たず、小さな家が点在するだけの村。

 そして、そのうちの七割ほどの村人が今は熱にうなされているという。


 患者は村の集会場にまとめて寝かされている。

 トマスの案内でそこへ向かう。


 木造の集会場の中では、30人以上の村人が横たわっていた。


「う~ん……」

「あー……」

「だるい……」


 ここ数日、こんな状況が続き、皆仕事もできていないとのこと。

 想像よりもひどい光景に、ラディルの顔にも汗が浮かぶ。


 トマスの元に村長がやってくる。

 村長の名前はチャーリー・サイド。白髪で白い髭を蓄えた老人であった。


「おお、これはこれはあなた方がお医者様でしょうか」


 ラディルも頭を下げる。


「いえ、俺は“勇者”でして……」


「勇者?」


 ラディルは自分がクワンの町で便利屋のような仕事をしている“勇者”だと説明する。

 医者ではなく勇者が来てしまったことに村長は少し落胆もしていたが、村のために誰かが来てくれたというのは嬉しかったようで、歓迎の姿勢を見せる。


「あたしはサーナ! ラディルの相棒よ!」


 サーナも元気よく自己紹介をし、ベリネも――


「私はベリネ。魔族だ」


「へ……魔族……?」


 ラディルが慌てて訂正する。


「違うんです! 家族! 俺の家族みたいなもんでして! この子ったらちょっと滑舌が悪くて……」


「ああ、そうじゃったか。村がこんな状況なのでもてなしはできませんが、ゆっくりしていって下され」


 上手くごまかせたので、ラディルがホッと一息つく。危うく病気どころではない騒ぎになるところだった。


「頼むぜ~」


「すまん。つい……」


 反省しつつ、ベリネは微笑みを見せる。


「だが……“家族”と言ってもらえたのは嬉しかった」


 ラディルもニヤリとする。


「そうかい。それはなによりだ」


 さっそくラディルたちは熱にうなされる村人を診て回る。


「うーん、風邪っぽいが……」


「風邪でみんなこんな酷くなる?」とサーナ。


 専門家ではないラディルもサーナも、当然なんの病気かは分からない。


「ベリネはどうだ?」


 ベリネも左右に首を振る。


「すまんが、力になれん。魔族はそもそも病気にならんのでな」


「え、マジで!?」


「いいなぁ~。あたしも魔族に生まれたかったかも」


 ラディルとサーナは素直に羨ましがる。

 魔族は人間に比べて肉体が強靭である。菌やウイルスが感染し、危害を加えることはできないのだろう。


 結局この日三人は何も出来ず、村長に用意してもらった家に泊まることとなった。

 その家に向かう最中、ラディルがある気配に気づく。


「それにしてもこの村……虫が多いな」


 ベリネも同意する。


「この村には家畜もいるからそのせいではないか?」


「うっとうしいな……風烈斬!」


 ラディルが軽く剣を振るうと、周囲に風が巻き起こり、飛んでいた羽虫が全滅した。


「これでよし、と」


「剣術って便利だねえ」


 サーナがつぶやく。


 村長に用意してもらった家では、食事も提供された。

 モルビス村は畜産が主な仕事なので、ジューシィな肉料理などが出てくる。

 ラディルとベリネは「来てよかったな」などと喜ぶが、サーナに「遊びに来たわけじゃないんだよ」と言われ、反省していた。


 三人は仲良く“川”の字となって眠り、モルビス村での夜は終わった。



***



 翌朝から、ラディルたちは村の調査を始める。

 とはいえ、ラディルはこんな調査などしたことがない。


「何をやればいいんだ? 俺たちは医者じゃないし、薬を作れるわけでもないし……」


 サーナは冷静に答える。


「考えてみて? あたしはお医者じゃないけど、病気が突然降って湧いて来るような存在じゃないってことぐらいは分かるよ」


「どういうことだよ」


「つまりね、絶対この村に原因はあるってこと。きちんと調べたり、聞き込みをすれば、何か見えてくるかもしれないよ」


 サーナの言葉にラディルとベリネは感心する。


「さすがサーナだ!」

「サーナといれば、私も何とかなるような気がしてきたぞ!」


「あたし、そんな大したこと言ったつもりないんだけど!」


 年上の二人から自分がリーダーかのように頼りにされ、サーナは呆れてしまう。


「でもま、はりきっていこうか!」


 三人は村じゅうを調べ、元気な村人からの聞き込みを行う。

 ところが、食糧や井戸に問題はなく、村人からもこれといった証言は得られなかった。

 どうやら食中毒の類ではないらしい。


 昼近くになり、三人は休憩する。

 村の中には座るのにちょうどいい石がいくつも並んでいた。


「病気の原因になりそうなもの、ないなぁ~」


 ラディルが嘆く。

 サーナは何か考え込んでいる。

 そして、ベリネが鼻を揺らしている。


「どうした、ベリネ」


「いや……妙な匂いがするのでな」


 サーナがラディルを睨む。


「まさか、オナラしたんじゃ……」


「してないしてない!」


 ベリネは匂いを嗅いでいる。


「いや、そういう匂いではないな……。決して悪い匂いではない」


 ラディルとサーナも鼻をクンクンさせるが、何も感じ取れない。


「全然分からん……」


「ベリネちゃんは魔族だから、あたしたちじゃ嗅げないような匂いも感じられるんだろうね」


「なるほど……確かに鼻が利く魔族はいたな。俺とアレスが奇襲したのに、とっくに居場所がバレててさ。あやうく返り討ちになるとこだった」


 ラディルが魔族との戦いを思い出しつつ、しみじみ語る。

 すると、サーナが――


「ねえねえベリネちゃん、あたしはどんな匂いがする?」


「ん? サーナの匂いか?」


 ベリネが仔犬のようにサーナの周囲を嗅ぎまわる。


「サーナはいい匂いがするな。とても柔らかくて、誇り高くて、知的な匂いだ」


 ラディルも面白がって話に加わる。


「俺はどうよ?」


「ふむ……」


 ベリネがラディルをクンクンする。


「汗臭い」


「え!?」


 ショックを受けるラディル。


「私にしか分からぬレベルだろうが、汗の匂いがする。日頃剣を振り回していることが多いから、汗が体に染みついてるのだろう」


「マジで……? ちゃんと風呂入ってるし、この村来てから運動らしい運動はしてないのになぁ……」


「別に落ち込む必要はないだろう。それほどの鍛錬をしてきたということなのだから。武人らしくて、とてもいいと思うぞ。さすが、私の父を倒した男だ」


 ベリネは朗らかに笑う。

 すると、二人の様子がおかしいことに気づく。


「どうした、二人とも? そんなにニヤニヤして」


 ラディルもサーナもにんまりとしている。


「いや、自分の匂いを褒めてもらえるってなんかいいなって……。自分の存在そのものを肯定されてる感じがして……」


「それ分かる! またお願いね、ベリネちゃん!」


「あ、ああ」


 匂い診断が妙に好評だったので、少し困惑するベリネであった。


 ここでサーナが――


「ああ、それとね。ベリネちゃんのおかげでようやく分かってきたよ、病気の正体」


 いきなりの真相解明に、ラディルとベリネは同時に驚く。


「どういうことだよ!?」

「教えてくれ、サーナ!」


 サーナはふふんと顎を上げると、語り始める。


「ラディル、この村には虫が多くなかった?」


「ん? ああ、ちっこいのがチラホラいたな。俺らに来たのは全部風烈斬でやっつけてやったけど」


「虫にはさ、毒があるやつもいるよね。例えば蜂みたいに」


「いるな。子供の頃、蜂の巣突っついちゃって酷い目にあったことあるし」


 サーナがベリネに振り向く。


「そして、虫ってフェロモンっていう物質を出して、お互いに連絡し合ったりするらしいの。こっちに餌があるぞーとか、敵がいるぞーとか。そのフェロモンって人間には分からないけど、いい匂いがするんだって」


「いい匂い……私が感じたのはそのフェロモンだということか!」


「そうそう! ……それで、もしそのフェロモンを作れたりしたら、虫を自在に操れると思わない? ね、なんだか事件の輪郭が見えてきたでしょ!」


 得意げに話すサーナだったが、ラディルとベリネはきょとんとしている。


「え、と……俺には見えてないんだけど……」


「私も……」


「ちょっとぉ、しっかりしてよ!」


 サーナが頬を膨らませる。


「とにかく、サーナには病気の正体が分かったってことか。だけど、村人たちを治せないと、解決にはならないぞ?」


「大丈夫だよ。あたしの考えが正しければ、早ければ今日中に村人の病気はすっかり治ると思う」


「……へ?」


 ラディルはサーナに全くついていけていなかった。

 サーナさん、後は全てあなたにお任せします、という気分だった。

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