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勇者と共に魔王を倒した相棒は、「勇者は一人で魔王を倒したことにせねばならぬ」と追放されてしまうが、親友のためにド辺境で“勇者”を自称する  作者: エタメタノール
第二章 勇者としての日々

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第15話 ニセ勇者とニセ魔王、現る!

 エラド王国辺境にある、とある町――


 鎧をつけた筋肉質の大男が酒場で浴びるように酒を飲んでいた。


「オラオラァ、どんどん酒持ってこい! 俺は“勇者”だぞ!」


 彼の近くには大きな鼻を持つ、豚のような二足歩行の魔獣がたたずんでいる。


「で、こいつは“魔王”だ! 俺が倒して、部下にしてやったんだ! ガッハッハッハ!」


 “勇者”と“魔王”の迫力に、店主も他の客も怯えている。

 勢いのままたらふく酒と食事を楽しむと――


「あ、あの……勇者様、お代を……」


「おい、お前は世界を救った“勇者”に金払えっていうのか!?」


「いえ、そんな……!」


「あー、食った食った! 行くぞ、魔王!」


「ハイ……勇者サマ」


 “勇者”と“魔王”は代金を踏み倒して、悠々と酒場を立ち去る。

 この横暴な振る舞いに、店主はため息をつくしかなかった。



***



 クワンの町のラディルの家では、ラディルが自分の生い立ちについてベリネに語っていた。

 幼い頃から親友のアレスと共に剣に明け暮れ、アレスに誘われ魔王軍と戦い、ついに魔王を倒した。しかし、国王から辺境行きを命じられ、クワンの町に住み着いた。そして今はサーナを相棒に、王都まで名を轟かせるため、“勇者”として活動していると。


「……ってことで、俺はクワンの町で頑張ってるわけ」


 ベリネがうなずく。


「なるほど、勇者アレスとお前で、父を倒したわけだ」


「そういうこと!」


「そして、お前だけ追放されてしまったと」


「そういうこと!」


「つまり、アレスとやらが真の勇者で、お前はニセ勇者と」


「違う! 俺は本物なの! ガチ勇者なの! 魔王倒したの!」


「じゃあなぜ、お前だけ追放されるんだ。二人とも勇者として迎えられねばおかしいではないか」


 ベリネからすると、ラディルの受けた仕打ちが全く理解できないようだ。

 少なくとも魔界では、成果を上げた者、すなわち強い者が蔑ろにされるようなことはなかった。


「それはまぁ、そうなんだが……国の事情ってやつさ」


「ますます分からんな。お前を丁重に扱ってやった方が国のためになりそうなものだが」


 首を傾げるベリネ。ラディルは上手く答えることができない。


「まあいい。で、アレスとやらはちゃんとやってるのか?」


「ああ、大活躍してるらしい。あいつの話はこっちまで伝わって来るよ」


「向こうにお前の名が届くといいな」


「何年かかっても届かせてみせるさ!」


 ラディルが拳を握り締めるのと同時に、サーナがやってきた。


「大変だよ、ラディル! ベリネちゃん!」


「どうした?」


「今買い物から帰ってくる途中で聞いたんだけど、この町の酒場に“勇者”が来てるんだって!」


「勇者が!?」


 自分は今ここにいる。つまり、酒場にいる勇者は自分以外の勇者――アレスとしか考えられない。

 そのアレスが辺境まで足を運ぶ理由は一つしか考えられない。

 ラディルの顔に笑みが浮かぶ。


「ついにアレスの耳に、俺の名が届いたか……!」


 さらにサーナは――


「それと“魔王”も来てるみたいだよ!」


「魔王が!?」

「父が!?」


 二人が驚くのも無理はない。

 魔王は両者にとって因縁深い相手である。

 ラディルからすると、親友アレスがかつて倒した魔王と一緒に酒場で飲んでいる、という奇妙すぎる光景を心に描いてしまう。

 あいつ、忙しすぎて仕事が嫌になって魔族に寝返ったのか、などととんでもない想像までしてしまう。


「どういうことなんだ……?」


「私にも分からぬ……。父が復活したとでもいうのか……?」


 頭の中が疑問符だらけの二人に、サーナが一言。


「あれこれ考えるより、実際に行ってみた方が早いんじゃない?」


 ラディルとベリネは「それもそうだ」とうなずき、酒場に向かうことにした。



***



 クワンの町の西、商店が並ぶ地帯にある酒場。

 カウンター席とテーブル席がある、オーソドックスな酒場である。

 クワンの大人たちの憩いの場であり、ラディルも時折利用する。

 さて、そこにいたのは――


「おい、酒持ってこい! この勇者様によォ!」


 アレスとは似ても似つかぬ、品のなさそうな大男だった。

 傍には豚のような魔獣を連れている。


 ベリネが尋ねる。


「あれが……アレスなのか?」


「いや全然違うし」


 ラディルも目を白黒させている。

 あれがアレスだとしたら、変貌しすぎにも程がある。

 まあ、別人なのだが。

 今度はラディルがベリネに尋ねる。


「あいつの傍にいる奴……あれは魔王か?」


「いや……ただのオークだろう」


 酒場にいる勇者と魔王は、大男とオークであった。

 あまりにも拍子抜けする結末だった。


 酒場の客の一人が説明してくれた。


「あの男、急に酒場に現れて“俺は勇者”だなんて言って、酒をたらふく飲んで……一体何者なんだろうな?」


 サーナが男の正体を推理する。


「あれはいわゆる偽者だね。勇者の名を騙れば、サービスしてもらえるし、もし信じてもらえなくてもあの腕っぷしで何とかしてきたんでしょ。たちの悪いゴロツキだよ」


 大男は勇者でもなければ、アレスやラディルとゆかりのある人間でもない。

 有名人を騙って、甘い汁を吸いたいだけのゴロツキのようだ。

 ラディルは両手の骨を鳴らす。


「なるほど、だったら俺が懲らしめてやるか」


 ニヤリと笑うと、ラディルが大男に話しかける。


「おい、そこのデカ勇者!」


「あん?」


「実は……俺も勇者なんだ。ラディル・クンベル。この町じゃ結構名を知られてる」


「ハァ? まさか、てめえニセ勇者か?」


 偽者に偽者って言われたくねえよ、とラディルは心の中でこぼす。


「ニセっていうかガチ勇者なんだけど……んなことはどうでもいいや。景気よく飲んでるが、お前金持ってるのか?」


 大男が笑い出す。


「金ぇ? 俺は勇者だぜ? なんでそんなもん払わなきゃならねえ?」


 ラディルはため息をつく。こういう奴がいると“勇者”の品格がどんどん落ちる。


「だよな。金が払えないなら、酒場で皿洗いでもしてもらうことになるが……」


「なるほど、てめえは用心棒ってわけか。いいだろう、表出ろ! 勇者の力を見せてやる! 魔王、お前も来い!」


「ブヒ!」


 豚のような魔獣オークも応じる。大男の命令通り、本人も一応“魔王”を演じるつもりらしい。

 魔獣は基本的には人間の敵といえるが、力のある人間が魔獣を使役する事例も数は少ないものの存在する。

 もっともこのケースでは、結局人間に迷惑をかける事態になってしまっているが。


 ラディルは一人で相手をするつもりだったが、ベリネが声をかける。


「向こうの自称“魔王”は私にやらせてくれ」


 ラディルはこの提案に乗る。


「それいいな。勇者対勇者、魔王の娘対魔王、の構図になる」


「そういうことだ」


 酒場の外にある通りで、二対二が行われることとなる。

 ラディルvs大男。

 ベリネvsオーク。


 大男は自信たっぷりの様子である。


「おい魔王! あの女は任せたぞ! 一発でぶっ飛ばしてやれ!」


「ブヒヒ……ワカリ、マシタ……」


 オークが顔を歪めて笑う。

 人間の女に負けるはずがないと思っている。

 しかし、残念なことに、ベリネは人間ではなかった。


 ベリネがオークを青く冷たい目で睨みつける。


「やめておけ」


「!?」


 その一瞬で、オークは感じ取っていた。

 圧倒的な格の差を。

 戦えば間違いなく負ける――いや、死ぬと。


「私は……お前を殺したくない。さっさとこの町から立ち去れ」


「……!」


 オークの顔面から汗がにじみ出る。

 あるじである大男が「早く戦えよ!」と促しても戦おうとしない。

 そして、大男の方を向く。


「ワルイ……オレ、ニゲル!」


「は!?」


 オークは逃げ出してしまった。

 魔族と魔獣、同じ“魔”を冠する種族同士、オークはこれ以上ベリネと対峙することに耐えられなくなった。

 強さも、生物としての格も、完全に相手が上なのだから。


 ベリネはオークを殺すことにならなくて済んだと一息ついた。


「ベリネちゃん、やるぅ!」


 サーナが褒めると、顔を赤くして照れる仕草を見せた。


 戦うまでもない、と言わんばかりの鮮やかな勝利を見せたベリネ。

 ラディルもこれに対抗しようとする。


「よし、俺も……」


 ラディルが大男を睨みつける。


「やめておけ。俺は……お前を殺したくない」


「うっせえ!」


 大男は問答無用で斬りかかってきた。

 得物は大刀だいとうで、長く分厚い刃を誇る。ラディルはそれをひょいとかわす。


「あっぶね!」


 サーナがからかう。


「ラディルにはベリルちゃんみたいな迫力が足りないね~」


「俺じゃダメかよ。さすが魔王の娘ってところか……」


 ニセ勇者を戦わずして追い払うことはできなかったので、ラディルは剣を抜く。


「しゃあない、いっちょやるか!」


「よくもオークを逃がしやがって……あの女ともどもブッ殺してやる!」


「殺せるもんなら、やってみな」


 ラディルは剣を真横に構える。

 この構えの名は――


山堅斬さんけんざん……!」


「なんだその構えは?」


「パワーに自信があるようだからな。この構えを崩せるか試してみな。それとも怖くて、攻められないか? ゆ・う・しゃ・さ・ん」


 ラディルの挑発に大男はあっさり乗った。


「殺す!!!」


 決して口だけではない。

 力と速さを伴った剣が、ラディルに襲い掛かる。

 しかし、そんな猛攻でも、ラディルの構えを打ち崩せない。


「なんでだ!? 全然崩れねえ!」


「この程度じゃ無理だ。俺がこの構えを取ったら、悪魔騎士の猛攻ですら寄せ付けなかった」


 ベリネが反応する。


「悪魔騎士……!」


 悪魔騎士は、彼女ですら敵わない最上位の魔族である。

 さすが父を倒しただけのことはある、と感心する。

 もちろん、大男は悪魔騎士など知る由もないが。


「だが、守ってばかりじゃ勝てねえぞぉ!」


 守りを崩せず、今度は大男が挑発する。


「分かってるよ。俺の攻撃はここからだ!」


 大男渾身の一撃を受け流し、そのまま回転する。

 そして、カウンター!

 これが山のように動かず、必殺の一撃を叩き込む“山堅斬”!


 猛烈な勢いで放たれた一撃は、大男の首筋に寸止めされた。


「俺が止めてなきゃ……お前の首はポーンとすっ飛んでたな」


「うぐ……!」


 大男も決して愚鈍ではない。敗北を悟り、大刀を落とす。


「いいか、二度と勇者を騙るな。今度同じようなことやったら、次はマジで首飛ばすぞ」


「は、はい……!」


 うなだれる大男に、ラディルが告げる。


「で、どうするんだ」


「大人しくこの町を去って……」


 これにラディルは怒る。


「ふざけんな! 散々飲み食いした分、働いてからだろうが!」


「はいぃぃぃぃ!」


 すると、先ほどのオークが戻ってきていた。

 オークは大男に近づく。


「オレ、イッショニ……ハタラク」


「オーク……!」


 ニセ勇者とニセ魔王。大男とオーク。

 共にあちこちの町で無法な飲み食いをした者同士、小悪党なりの絆が生まれていた。

 経歴を聞くと、所詮はチンケな荒くれ者。“勇者”を騙って無銭飲食する以上の悪さはしていなかったようなので、ひとまず水に流すことにした。


「ああ、そうそう。デカイの、お前の名前は?」


「ワレス……ワレス・ブリカです」


 ニセ勇者である大男の名前は“ワ”レスだった。

 名前だけはアレスに似てるじゃねーか、とラディルは心の中で突っ込んだ。


 ワレスとオークの二人は酒場で雑用係として働くことになった。

 しばらくはこの町に住みつくことになるだろう。


 ニセコンビを退治した二人をサーナが拍手して称える。


「二人ともかっこよかったよ! もう最高!」


 サーナのまっすぐな称賛に、ラディルもベリネも締まりのない照れ笑いを浮かべる。

 これを見て、サーナは少し呆れる。


「二人とも本物なんだから、もうちょっとしゃんとしてよね」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ますます分からんな。お前を丁重に扱ってやった方が国のためになりそうなものだが」 それな。 かと言って口封じの暗殺者を差し向けてくるでもないし(来ても返り討ちに遭うのがオチだが)、対応が…
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