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勇者と共に魔王を倒した相棒は、「勇者は一人で魔王を倒したことにせねばならぬ」と追放されてしまうが、親友のためにド辺境で“勇者”を自称する  作者: エタメタノール
第二章 勇者としての日々

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第14話 魔王の娘、勇者たちとの暮らしを楽しむ

 魔王の娘ベリネがラディルの家で暮らすようになった次の日の朝。

 ベリネがベッドで目を覚ますと、すでにラディルとサーナは起きていた。


「あ……二人とももう起きてたのか」


「俺たちの朝は早いからな。おはよう」ラディルが笑う。


「おはよー!」サーナも手を振りながら挨拶する。


「お、おはよう」


 戸惑いつつ、ベリネも挨拶をする。

 彼女からすれば、朝起きたら誰かに挨拶されるなど、本当に久しぶりのことである。


「朝食にしよう。パンとカボチャのスープだ」


 三人で食卓を囲む。

 一通り食べると、ベリネは「ごちそうさま」をする。


「あれ? もういいのか?」とラディル。


「沢山用意したのに」サーナも残念がる。


「ああ、美味しかった」


「魔族はたくさん食うだろ。戦ったから、俺は知ってるんだぞ」


「……いや、十分食べている」


 食後は、どうにかラディルが修復したソファに、膝を抱えてちょこんと座っている。


 その様子を見て、ラディルはサーナに話しかける。


「まるで借りてきた猫だな」


「うん……もっとくつろいでくれていいのに」


 ラディルが座るベリネに近寄る。


「おいベリネ」


「ん?」


「もっと、くつろいでもいいんだぞ」


「いや、十分くつろいでいる」


 あくまで遠慮がちのベリネ。


「そうだよー!」


 サーナも加わる。


「ここを自分の家みたいに……ううん、自分の家だと思ってくれていいんだから!」


「そういうことだ」ラディルもニヤリとする。


「二人とも……」


 ベリネもようやく緊張がほぐれたように微笑む。


「ありがとう。それじゃ、くつろがせてもらおうかな」


 ラディルとサーナは上手くいった、という風に見つめ合った。


 一時間後――

 ベリネはソファに寝転がりながら、本を読んでいた。

 さらに横になったままクッキーを頬張り、紅茶を飲む。


「アハハ、面白いなこの小説」


 そのあまりのくつろぎぶりにラディルとサーナは唖然とする。


「なぁ、勇者」


「なんだ?」


「この小説途中まで読んで一度中断したいから、ページ折ってしおりにしていいか?」


「いいわけねーだろ!」


 ラディルはしおりを渡す。


「横着しないで、ちゃんとこれ挟め!」


「ん、すまんな」


「いくらなんでも馴染むのが早すぎるよ!」


 サーナもツッコミを入れる。


「そうか? だって、くつろげって言うから……」


「いや、俺たちも悪かったよ。すまなかった。だけど、もうちょっとこう、上手にくつろいでくれると助かる」


「そうだな……。とりあえず、ソファに寝転がるのはやめておこう」


 ベリネが姿勢を正したのを見て、「言えばちゃんと直すタイプだな」とラディルとサーナは安心した。


 そのまま本を読むベリネに、サーナが声をかける。


「あのね……」


「ん?」


「あなたのこと“ベリネちゃん”って呼んでいい?」


 ラディルは慌てた。

 いくらなんでもそれはまずい。相手は魔王の娘、魔族としてのランクは高く、プライドも高い。“ちゃん付け”など絶対許さないはず。


「この私をちゃん付けだと!?」


 やはりベリネは目を鋭くした。


「ご、ごめんなさ……」


「サーナさえよければ……かまわんぞ」


 直後、頬を赤らめる。


「いいの!?」


「ああ、ちゃん付けなど初めてだからな。うん……」


 ベリネは照れ臭そうに右手の拳を唇に置いた。


「いいんだ……」


 意外な結果に、呆気に取られるラディルだった。


 朝は借りてきた猫のようなベリネだったが、午前中にはすっかり馴染んでしまった。



***



 午後、町長の息子ダニエル・バーグがやってきた。

 この半年の間、ラディルは勇者活動の一環として、時折彼に剣を教えている。


「今日もお願いします!」


「おう、じゃあ庭の方に来てくれ」


 ダニエルに木剣で素振りをさせる。


「えいっ! えいっ!」


「もっと腰を入れて! 腕だけで振っても剣に重さは乗らないぞ!」


「はいっ!」


 普段はひょうきんなラディルだが、剣の指導の時はやはり厳しい。

 ダニエルもよくついてくる。元々剣が好きだったのもあるが、腕を上げて妖刀に操られた過去を払拭したいというのもあるのだろう。

 やがて、休憩時間となる。


 ベリネがコップに入った水を持ってきた。


「ラディル、水だ」


「おお、ありがとう」


「そっちの……えぇと、ダニエルも」


「ありがとうございます!」


 ダニエルがラディルに耳打ちする。


「ラディルさん、あの人は?」


「ベリネって言うんだ。俺の……遠い親戚かな」


 まさか「魔族」「魔王の娘」とは言えないので、嘘をついてごまかす。

 後で口裏合わさなきゃな……ラディルは空を見上げた。


「と、とても可愛いですよね!」


「うん、まあ」


 人間形態のベリネは程よい長さの金髪で、透き通るような青い眼を持ち、文句なしの美少女といっていい。

 少し冷めた雰囲気も、その魅力を引き上げるのに一役買っている。

 ダニエルも、ベリネが気になっているようだ。


「アプローチしてみようかな……」


「やめとけ。あいつは君の手に負える女じゃない……」


「そうなんですか?」


 ゆっくりとうなずくラディルを見て、ダニエルもこの芽生えた思いはしまっておくべきだと悟ったようだ。


 一時間ほどの鍛錬が終わり、ダニエルは帰宅する。


 その直後、ベリネがラディルを呼ぶ。


「勇者、あのダニエルという男、私をちらちら見ていた。もしかして私に好意を抱いているのか?」


 ベリネはダニエルのそわそわした挙動に気づいていた。

 これにラディルは感心する。


「魔族でもそういうの分かるんだな。お前は可愛いし、あの年頃の青年が気になっちゃうのは無理ないよ」


 すると、ベリネは――


「もしプロポーズされたらどうしよう!?」


「は?」


「いや、あのダニエルが私を好いていたら、プロポーズしてくる可能性もあるだろう。魔族の身で人間と結婚はできんし、なんとか傷つけないよう断りたいのだが……」


 いきなりプロポーズしてくる奴なんかまずいないから安心しろ、と言いたかったが、ラディルはぐっとこらえる。なんとなく失礼になってしまうような気がした。


「言われてから考えればいいんじゃないかな」


「そうだな! そうしよう!」


 ベリネはほっとしていた。


 様子を見ていたサーナがラディルにささやく。


「もしかしてベリネちゃんって……天然?」


「かもな」



***



 ベリネに町に慣れてもらうために、三人で散歩をすることにした。

 この町ですっかり有名になったラディルがベリネを引き連れていると、やはり大勢の目を引く。

 中にはこんな町民もいる。


「あれラディルさん? その子、ひょっとして彼女?」


 そのたびにラディルは「遠い親戚だよ」と説明する。

 こう返すと時には、「あんたには不釣り合いな美人だもんなぁ」などとからかわれ、ラディルは腰の剣を抜こうとする仕草をする。こんなやり取りもできるぐらいに、ラディルはこの町に馴染むことができた。


 ラディルたちが暮らす町の東から、商店が立ち並ぶ西へ。

 ここでは三人は食べ歩きなどをして楽しむ。

 ベリネは肉と野菜を包んだクレープが特に気に入った様子で、三つも平らげた。


「すまん、食べすぎたか?」


「いいや、ウチは意外と金があるからな」


「そうそう! あたしがやり繰りしてるおかげでね!」


 家計を圧迫していないと知り、ベリネは胸をなで下ろした。


 町の北に行くと、ラディルが居合い斬り“林静斬”で切断した切り株が鎮座していた。

 立派な切り株で、町の新しい名物スポットとなっている。


「腰をかけるのによさそうだな。座ってもいいか?」


 どうぞとラディルが言うと、ベリネは切り株に腰かける。


「うむ、いい樹だ……」と年輪を撫でる。


「ベリネちゃん、そういうの分かるの?」


「ああ、なんとなくだが分かる。この樹はこれほど大きくなるまでに、様々なものを見てきたのだろうな。今は切り株になっているが、そのことに感謝している。そんな風に感じられる」


 ラディルは驚いた。

 魔族は魔獣や魔物の類を従わせることができ、人間より自然とは相性がいい。

 しかし、切り株の“感謝”まで感じ取ることができるなんて――魔王の娘ゆえか、あるいは本人の素質か、ベリネの内に秘めた非凡さに目を見張った。


 しばらくはラディルが大樹を斬ったエピソードで盛り上がる。

 そろそろ帰ろうかとなった時、ラディルはふとベリネが座っていた箇所を見た。

 すると――


 芽が出てる……。


 さっきまではなかったはずなのに。

 もしかして、これもベリネの力なのだろうか。

 ラディルが考えていると、サーナに「帰ろうよー!」と呼ばれ、そのまま帰路についた。


 家に帰る頃には日が暮れて、三人は夕食を取り、就寝時間となる。


 寝室にはベッドが二つあるが、そのうちの一つに、サーナとベリネが並んで眠っている。

 まるで仲のいい姉妹のようにも見えて、急いで三つ目を用意する必要はなさそうだ。

 今日は楽しい一日だった。

 一人起きているラディルはテーブルで酒を嗜みつつ、遠くにいる親友に向けて独りごちた。


「アレス……。俺、とうとう魔王の娘と一緒に暮らすようになったぜ。しかも結構いい奴なんだ」

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