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勇者と共に魔王を倒した相棒は、「勇者は一人で魔王を倒したことにせねばならぬ」と追放されてしまうが、親友のためにド辺境で“勇者”を自称する  作者: エタメタノール
第二章 勇者としての日々

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第11話 町に迫る巨大怪物!

 ラディルがクワンの町に来てから半年もの月日が流れた。

 ラディルは少女サーナを相棒とし、“勇者”として活動し、クワンの町ではすっかりラディルの名も定着してきた。

 ――といっても、魔王を倒した勇者としてではなく、“町の頼れる勇者”というニュアンスではあるが。

 ラディルも自分が魔王を倒した一人であることは積極的に宣伝するつもりはないので、これでよいと感じている。

 勇者ラディルの名が王都にまで届けばそれでいいのだから。


 晴れた午後、自宅の外で稽古をしているラディルにサーナが仕事を持ってくる。


「ラディル! 近所のおばさんが漬物石運んで欲しいって!」


「よっしゃ、任せとけ!」


「報酬は漬物だって!」


「マジかよ、サイコーじゃないか!」


 辺境ではキャベツなどの野菜を漬け物にする家庭料理が定着している。土壌がさほど肥沃ではないので農作物は貴重で、少しでも長く食用にしたいという事情があり、塩漬けなどの保存方法が発達したためだ。

 南部出身のラディルにとっては新鮮な味で、すっかり好物になっている。

 もはや剣に関係ない仕事も引き受けるようになっているが、ラディルとしては楽しかった。


 この頃になると、たまたま町に立ち寄った旅人からこんな話を聞く。


「俺は王都から来たんだがね。勇者アレスって人、すごい人気だねえ。みんなの前で演説してキャーキャー言われて……王女様ともいい仲だって噂もあるし、そのうちエラド王国の王様になっちゃうかもね」


 アレスも勇者として頑張っているようだ。

 俺も頑張らなきゃな……とラディルは漬物石を運ぶ。


「ありがとうねえ」


 おばさんに感謝され、ラディルは笑みを返す。


「いえいえ! 勇者ってのはみんなの役に立つ存在ですから!」


 家に帰り、サーナと共にもらった漬物を食べる。

 シャキシャキとした歯ごたえがたまらない。


「うめ~!」


「ホント! おいしいね! ウチでもやる?」


「おう、やろうやろう!」


 ラディルはクワンの町での生活をすっかり楽しんでいた。

 大きな事件こそないが、人々の役に立てていることに生きがいを感じていた。


 ところがこの日の夕方、一人の町民が血相を変えて、彼の家に駆け込んできた。


「ラディルさーん!」


「ん? なんだい?」


「大変だ、町に魔物が迫ってる!」


「魔物? ああ、俺がすぐ片付けてやるよ」


 辺境には魔物や魔獣も多い。

 とはいえ、大半は獣に毛が生えた程度のもので、魔族や魔王を相手にしてきたラディルにとっては楽な仕事である。


「いや、今回ばかりはラディルさんでも危ないかも……」


「え?」


「とりあえず行ってみようよ!」


 ラディルとサーナは町民に案内され、魔物が見えるという場所まで向かった。


 すると、ラディルの目は凍り付く。


「なんだありゃ……!?」


 巨大な岩の怪物が、ズシンズシンと町に迫ってきている。

 体長は10メートルぐらいあるだろうか。

 もしあれが町の中に入ってきてしまったら、とんでもない被害が出る。


「あれは……“ロックビースト”か」


 驚きつつ、ラディルは怪物の正体を分析する。


 ロックビーストとは、主に岩山に生息する魔物である。

 四足歩行で、石や岩を食べて成長し、成獣は体長2メートル近くにもなる。

 とはいえ、人里にやってくることは稀で、魔物の中ではさほど人間に害はない部類に入る。

 エラド王国を南北に分断するラモン山脈にも多数生息しているが、人間が被害を受けたという例は数えるほどしかない。それも人間の側から刺激してしまったせいというのがほとんどである。

 それがなぜ、あんなに巨大化してしまったのか。

 まして、山を下りて町に襲いかかってきているのか。

 ラディルは色々と考えるが――


「なんも分からん!」


 “考えるだけ無駄”という結論に達した。


「まー、あんなもん町に入れるわけにはいかんしな。とりあえず迎え撃つしかないか……」


「大丈夫?」とサーナ。


「ああ、見物しててもいいぞ」


「うん、じゃあそうする」


 ラディルのすぐ後ろで巨大ロックビーストを見上げるサーナ。

 この半年間の共同生活で、彼の剣を信頼しきっているからこそできる芸当である。


「グオオオオオオオオオオッ!!!」


 迫るロックビースト。

 ラディルは冷静に待ち構える。

 確かに規格外の巨大さであり、戦いにおいて巨大さは強さを示す。

 だが、ラディルが戦ってきた相手に、この程度の魔族はいくらでもいた。


「こういうデカイ奴はやっぱり……」


 ラディルは剣を地面に突き刺し、力を蓄える。


「おおおおおおおお……!!!」


 極限まで力み、両腕にも血管が浮かび上がる。


「わっ……ムキムキ」


 サーナも目を丸くする。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……!!!」


 さらに力むラディル。


「力みすぎて、血管切れないようにしてねー」


「気をつけまーす!」


 サーナの軽口で良い感じにリラックスできたところで――


火砕斬かさいざんッ!!!」


 溜めに溜めた力を開放するように、一気に斬り上げる。


 その威力は、巨大ロックビーストを真っ二つにした。

 サーナも大きく口を開けて、驚いている。ラディルを信じているとはいえ、衝撃的な光景だったようだ。


「決まった……が」


 ラディルはまだ油断していない。

 ロックビーストは岩を食べて成長するが、それは体そのものが大きくなるというより、岩と同化していくイメージである。

 体内の核を潰さねば、鎧を斬ったようなものに過ぎず、倒せない。


「ここからは小刻みに斬っていく!」


 ラディルの剣が冴え渡る。真っ二つにしたロックビーストをスパスパと彫刻でも作るように斬っていく。

 やがて――


「出来上がり!」


 ロックビーストはすっかり小さくなってしまった。

 山のような魔物だったのが、イノシシ程度になってしまっている。


「ちっちゃくなっちゃった!」


 サーナも驚いている。


「どうしてあんなでかくなったのかはさっぱり分からんが、暴走してただけっぽいからな。命は取らないでやるよ。さっさと帰りな」


 普通サイズになり、暴走も収まったロックビーストは大人しく山に帰っていった。

 その姿はどこかラディルに感謝しているようでもあった。


「優しいねえ、ラディルは」


「まぁな。これで少しはBPビーピーを稼げたかな?」


「なに? BPって?」


「勇者ポイント(Brave Point)の略。これが貯まると勇者としての格が上がる」


「変なポイント作らないでよ!」


 見事、巨大ロックビーストを退けたラディルはさらにクワンでの名声を高めた。

 剣の腕前は知っていたが「こんなに強いとは思わなかった」という人間もいた。


 そして――


 これを遠くから見つめる者がいた。

 ふわりとした金髪の、10代後半といった見た目の美しい少女だった。


「あのロックビーストを倒すとはな……。奴が“勇者”だとするなら、今度は私が奴に挑んでやる!」

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― 新着の感想 ―
[一言] >勇者ラディルの名が王都にまで届けばそれでいいのだから。 こういうところがラディルのカッコいいトコですね.。.:*♡ 「近所のおばさんがイケメンのご案内をして欲しいって!」 「任せとけ!」…
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