推しと同好会を設立しました
「お! 今日もしっかりと来てるね」
「当たり前だろ……。それで今日は何するんだ?」
今日も放課後、俺はコンピューター部改め映像研究会の部室となった教室にいた。
「今日はね、同好会の申請をしようと思ったんだよ」
そう言うと同好会設立申請書のようなものをチラ付けさせている。
「まだしてなかったのか?」
「そうなんだよね。部員は二人以上だから良いとして、後は顧問の先生なんだよね……」
「顧問か……」
ぶっちゃけ俺は先生方とは仲が悪いわけでは無いが良いわけでも無い。
「優等生なんだから先生とのコネとかは無いのか?」
「あきくんは優等生を何だと思っているの……? まあ一人いるんだけど……」
「流石優等生」
「調子いいんだから……」
「それでその顧問候補の先生は誰なんだ?」
「国語教師の佐藤心春先生」
「あー、あの小柄な先生ね」
佐倉先生は一年生の現代文を担当している新人教師で、身長が148センチと小柄でその愛くるしい姿と、生徒と誰隔てなく接する性格で生徒から絶大の人気を誇っている。あだ名は『天使先生』と呼ばれている。シンプルだが佐倉先生を表すにこれ以上適切なあだ名は無い。
「よくそんな秋津さんと真逆な人と関係が持てたな?」
「真逆は余計よ……。佐倉先生によくプリントとか運ぶの手伝ってるときに少し話すぐらいだけどね。佐倉先生優しいからきっと顧問になってくれると思う」
「これが人の優しさに漬け込む悪魔ですか……」
「何も言い返せないのが悔しいわね……」
そして俺たちは佐倉先生が職員室へ向かうのだった。
「「失礼します」」
「一年五組秋津沙羅です。佐倉先生はいらっしゃいますか?」
「はいはいー? 呼びましたかー?」
少しの間を置いてから奥の方から佐倉先生が出てきた。
「佐倉先生少し相談というかお願いがあるんですが宜しいですか?」
秋津さんはいつもクラスで見せる氷の女王モードで接している。
「良いですよ。お願いですか? 何か隣の織本くんも関係ありそうですね。 秋津さんに限って課題を忘れるわけ無いですし……? んー?」
佐倉先生は秋津さんの相談内容を当てようと首を捻っている。
「全部違いますよ佐倉先生。ちょっとこれなんですけど……」
そう言うと同好会設立申請書を見せる。
「映像研究会ですか……? あっ! もしかして顧問になってほしいとかですか?」
「そうなんですよ……。映像研究会の顧問になってくれませんか?」
「良いですよー」
「本当ですか!? ではこの紙に名前とハンコを押して貰えませんか?」
「それは良いですけど一つ私からもお願いをしていいですか?」
「お願いですか……?」
「おもいよー。うすぐらいよー。ほこりくさいよー」
「そんな事言ってるなら手を動かせ!」
俺たちは今何してるかと言うと、佐倉先生に授業なので使うプリントが置いてある資料室の掃除を命令されたのだ。
「佐倉先生の鬼ー! 悪魔ー!」
「天使先生になんて事言ってんだ! さっさと手を動かせ!」
「怒る所そこー?」
資料室は狭い部屋の割に所々にプリントの山が乱立しており、少し体が触れてしまったら全て崩れてしまいそうだ。資料室はほこりが凄いので窓を開け空気の循環と床に積もっているほこりを放棄で掻き出している。その時に秋津さんに邪魔なプリントを運ばせているのだがさっきから音を上げてばかりだ。
「見てられないな……。ほら変わるから秋津さんはホコリ掻き出して」
「いやこれ本当に重いんだよ! 変われるなら今すぐ変わりたいぐらいにはね!」
「はいはい……。それ持つから……」
そう言って重たいプリントを持とうと秋津さんに近づいた瞬間だった。
「あっ」
「え……? キャっ」
俺は何かに足を取られ秋津さんを巻き込みながら転んでしまった。
転んでしまった衝撃で沢山のプリントが落ちてくる。
「痛たたた……。すまん大丈夫か……?」
俺は押し倒してしまった秋津さんを確認する。
「あ……、えっと……、大丈夫……」
何故か秋津さんは頬を赤く染めていた。
「本当か? どこか怪我とかしてないか?」
「大丈夫だから……。それよりも早く退いて……」
「――ッ! すまん今退く」
今更ながらとんでもない体制になってた。俺が秋津さんに覆いかぶさるような形になっていた。
通りでそんなに恥ずかしそうな訳だ……。
「あきくんの馬鹿!」
「すまん! わざとじゃなかったんだ! このとおりだ!」
あの後すぐに退いて、資料室の掃除を済ませたのだがさっきから秋津さんはずっとこの調子だ。
さっきから俺渾身の土下座にも全く反応してくれない。
「あのー、少しは許してくれませんかね……?」
「もうちょっと気をつけてくれないかな? 普通にあんな格好クラスの人とかに見られたら黒歴史どころの騒ぎじゃないんだからね!」
「本当に申し訳ない……」
「次からは気をつけてよね!」
「分かりました……」
さっきから俺は平謝りだ。
「おー。綺麗になってますね」
「あ、佐倉先生……」
丁度良い時に佐倉先生が顔を覗かせた。
「どうしたんですか、二人の間の空気が悪い気がするんですけど?」
「まあ織本くんと少しあっただけです……」
「そうなんですか? 青春してますねー」
「青春とかではないです!」
佐倉先生の言葉に秋津さんは珍しく顔を赤くして反論していた。
「可愛いですねー。ちょっと秋津さんには縁の遠い物だと思っていたんですけどね」
「そうですね。秋津さんには程遠いと思います」
「ちょっとあきくん! 佐倉先生だって変な事言わないでください!」
「うふふ。可愛いですね。まあ今回はありがとうございました。後は私が申請しておくのでもう帰っても大丈夫ですよ」
そうして少し秋津さんと一悶着あったが無事同好会が申請されたのであった。