井戸マッチョ
B…ボケ T…ツッコミ
B「先生よく来てくれました! この家です、バケモンが出るのは!」
T「この家ですな。なるほど、重苦しい空気を感じます」
B「この家の徐霊を、先生にお願いしたいのです!」
T「おやおや、マッチョな体格をされているのに、バケモンは恐いのですか?」
B「いやお恥ずかしい」
T「ははは、バケモンが相手ではせっかくのマッチョも形なしですな。ではこのビデオカメラで撮影しながら家の中を調べましょう」
B「撮影しながらですか?」
T「多いんですよ。悪い霊がいると言っても信じない方が。だから撮影した映像を後日お見せして、いま霊が映りましたけど、お気づきになりました? と、説明させて頂くんです」
B「な、なるほど!」
T「では家の中に入ってみましょう。おや? 奥から人の声が……奥様ですか?」
B「あッ、やはり先生にも聞こえましたか」
T「何がです?」
B「今の声ですよ! この家には私達以外誰もいませんから、中から声がするはずないんです!」
T「えッ!?」
B「いやさすが先生です。さ、もっと家の奥にどうぞ!」
T「は、はははッ。で、では失礼して。むッ、この部屋から気配を感じます。う~む、あの押し入れの中が怪しい! いいですか、開けますよ?」
B「は、はい!」
T「いちにの3で開けますからね? いちにの3! はいッ! むッ、これはいかんッ、閉めます! バシッ!」
B「あッ!?」
T「ふうッ、お気づきに……なりましたか?」
B「は、はいッ! 押し入れの中から青白い手が伸びてきて、先生の首をつかもうとしてましたッ!」
T「えッ!?」
B「でもさすが先生だ! ギリギリのタイミングで戸を閉めましたね!」
T「ど、どうやら貴方にも、多少は見えているようですね?」
B「先生ほら、次はあの鏡を見て下さい!」
T「おや、あの鏡がなにか?」
B「あのですね! あの鏡を見ていると……」
T「しッ! 静かに! むむむ、はいッ! お気づきに……なりましたか?」
B「はい先生! いま邪眼達磨が目を開く寸前でした! ギリギリで目をそらすとはさすが先生だッ!」
T「はい……? 邪眼達磨?」
B「今鏡に映っていた達磨ですッ! 見ていると閉じてた目を開くんですけど、それを見たら強烈に呪われる恐ろしい達磨ですッ!」
T「ととと、当然分かってましたよ! 嫌な気配を感じたから目をそらしたんです」
B「お見事です先生ッ!」
T「で、では……軽く探りも入れましたし、今日の所はこの辺で引き上げましょう」
B「待って下さい先生! この家で一番ヤバいのは井戸なんだ! 井戸を見ていって下さい!」
T「い、いいい、井戸ですかッ!? ででで、では後日、お見せ頂くということで!」
B「こっちです! こっちですよ先生ッ!」
T「ちょ、手を引っ張らないで! 待って、この家なんかおかしい! 後日、後日にしましょう!」
B「ほら、アレです! あの井戸です!」
T「ふひいいッ!? い、井戸の周りの空気がすっごい嫌な感じで揺れてる~ッ!?」
B「先生、やはりお気づきになりましたか! ほら、井戸の周りでマッチョが円陣を組んでるでしょ!?」
T「え! 井戸の周りにマッチョ!?」
B「そうです先生! アレが井戸マッチョです! ほら、もっと近くに寄って! ほらもっと!」
T「ひッ! お、押さないで! あ、あの……井戸マッチョってなんです?」
B「いやだなあ先生! 井戸マッチョといえば井戸に近付いた人間と肩を組み、ワンチームッ! って叫んで仲間に引きずりこむマッチョの霊に決まってるじゃないですか!」
T「うひゃあーーーッ!」
B「あッ、逃げちゃダメですよ! ほらもっと井戸の近くに!」
T「や、やめて~ッ! そ、そうだ、バケモンなんて本当はいるわけがないッ! 録画した映像を確認すればわかるッ、なにも映ってるはずがないッ!」
B「えッ、どうしたんです先生?」
T「さ、再生スタート! 玄関……ほら、女の声なんて聞こえない! 押し入れ……青白い手なんて映ってない! 鏡……邪眼達磨なんていない! 井戸も……マッチョなんて映ってないッ! ほらッ、ほらッ!」
B「確かに誰も……映っていませんね」
T「そう、誰も映って……あ、あれッ? ど、どうしてあんたがどこにも映っていないんだ?」
B「お気づきに……なられましたか」
T「ま、まさか……井戸マッチョ!?」
B「お気づきに……」
T「よよよ、よせッ! 肩を組むな~ッ!」
B「さあ先生も」
T「やめろ~ッ! 私は井戸マッチョになんて絶対にならないッ! なるものか~ッ!」
B「ワンチーーームッ!」
T「アイアム井戸マッチョーーーッ!」