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小さな春の謎4

僕はかるくため息をつきながら、現世ありせに近づくと、彼女の細い肩をゆすった。


「ほら現世起きろ、もう夕方だぞ」


 何度も肩をゆすったが、現世の目が覚める気配は全くなかった。僕は先ほどよりも深いため息を吐くと、彼女の部屋の隅に置いてある冷蔵庫の扉を開けると、ガラナを取り出し、彼女の耳元でペットボトルのふたを開けた。


 すると、プシュッと言う音と共に、先ほどまでの深い眠りがウソのように、彼女はパッと目を開いた。そしてがばっと起き上がると、辺りをきょろきょろと見まわし、僕の姿を見つけると、口を開いた。


「……バク君おはよう」


 いまだに眠いのか、現世は本来なら大きいであろう瞳を半分だけ開け、困り眉をさらに下げてあどけなく笑った。


「おはようって、もう夕方だぞ。後、下の名前で呼ぶなっていつも言ってるだろ」


 僕はむすっとした口調で言った。そう、僕は自分の名前が嫌いなのだ。僕の本名は日下部夢食くさかべばく、夢を食べるからバクだそうだ。何を考えてこんなとんちきな名前を付けたのか両親に聞きたいところではあるが、残念ながら僕の両親は既にこの世にいない。


 僕の苦悩などまるで伝わっていないようで、現世はきょとんという顔をしている。


「……?バク君はバク君でしょ?」


「まぁもういい加減なれたけどさ。ほらガラナだよ」


 僕はそう言ってガラナを彼女に渡す。僕もこちらへ引っ越してくるまで知らなかったのだが、北海道にはガラナという飲み物が販売されており、眼前で目を輝かせている現世の好物でもある。


「毎度思うんだけど、よくそんな薬みたいな味の飲み物飲めるよな」


「……おいしいもん」


 現世はすねたような口調でそう言うと、ぷいと顔をそむけた。そんな仕草や彼女の顔立ちは中学生と思えるほどには幼いが、実のところ彼女は僕より一つ下、つまり高校三年生なのである。もっとも高校には通ってはいないが。


「……それでバク君どうしたの?いつもは夜ご飯の時に来るのに」


「現世、お前に依頼だよ」


 現世は残ったガラナを一気に飲み干すと、僕を見た。その瞳は先ほどよりも少し見開いており、興味を持ったことが出会って間もない僕にもわかった。


「……詳しく話して」


 僕は現世の座っているベッドの近くにある椅子に座ると、昼に柏崎から聞いた内容を彼女に伝えた。


「それで答えだすのにどれくらいかかりそうだ?」


「……多分簡単な依頼だから五分くらいで大丈夫」


 現世はそう言うや否や、ベットに再び倒れ込むと、5秒もしないうちにすぅすぅと寝息を立てて寝始めた。


 僕は彼女が寝たのを見届けると、彼女の部屋の簡単な掃除を始めた。掃き掃除と、少しのごみをまとめたところで時計を見るとちょうど5分経っていた。僕は再び彼女が寝ているベッド近くの椅子に浅く座ると、目を閉じた。1、2分ほどたつと体の四肢から力が抜けていくのを感じ、そうして僕の意識は落ちていった。


 再び目を覚ますと僕は真っ白な空間の中にいた。そんな真っ白な空間の中に、ポツンと小さな1つの家だけが存在していた。


 僕はその家の扉をノックし、扉を開けた。そこには不機嫌な顔をした現世が座っていた。ただ、先ほどの現世の様子とは全く違っていた。髪もぼさぼさではなく、瞳も猫のように目を見開いていた。


「遅い!」


「無茶言うなよ、お前と違って僕は5秒じゃ眠れないんだからさ」


 そう——、ここは現実の世界ではない、僕が今いる空間は現世の夢の中なのである。

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