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きっと似ているから嫌いになれない。

 項垂れるエリカさんとそれを励ますテオさんを残し私も一匹、教室を後にしていた。


 エルフリーデが教室から去って行ってから優に二時間は経過していただろうか。高い位置にあったお日様も、夜に向かって少し首を傾げ始めている。

本音を言うならばもう少しの間、彼女の様子を見ておいてあげたかった。けれど、テオさんに促され私は外に出ていくことになりました。


『少しは私に任せてくれよ』


 そう口にする彼の頼もしさと言ったら、数日前とは全く違う人物に思えるほどでした。今のテオさんであれば任せても問題はないだろうと思い廊下に出てきたのですが、肝心のエルフリーデの姿はやはり見とめることが出来ません。


 さて、どうしましょうか。

 エルフリーデの様子から、今日全部に決着をつけることはしないでしょう。しっかりと伝えるべき人を一堂に介して思いを伝えるのを選ぶはずです。



 となってくると……やはりエルフリーデはあそこにいるかな?



 歩を進めていくに連れて喧騒から離れていく。授業がお休みになったこともあってか、普段なら教師の声や学生たちの語り合う声が聞こえてくるものですが、今日はそんなこともなく、ただ静寂だけが廊下を占めていた。


 珍しい。素直にそう感じた。ここだけが学園から切り離されてしまったんじゃないかと錯覚を覚えるほどの静けさだ。


 ……いや、案外その理由は考えるまでもないのかもしれない。


 教室からかなり歩き、私は中庭のお気に入りの場所にたどり着いた。


 心の底から落ち着くことが出来る場所のはずなのに、どこか緊張感を覚える空気がこの場を支配しているのはどう言うわけだろうか。まぁその理由はベンチに腰掛けている彼女の表情を見れば簡単に理解できることなのですが。



 木陰から漏れてくる陽の光をじっと睨みながら、エルフリーデは緊張に耐えるような顔をしていた。私が近寄って行っても全く気付くこともなくずっと視線を上に受けている様子を見るに、今日やるべきことはしっかりと果たしたのでしょう。後待つのは本番だけと言うことでしょう。


 今からこんなにも身体を強張らせていたらしょうがないでしょうに。少しはリラックスしなさいよ。そう考えながら、彼女に短く鳴き声で呼びかけると同時に、いつものように彼女の足元に寝そべります。


 私の動きがどこかおかしかったのでしょうか、クスクスと笑いながら腰掛けていたベンチから立ち、わざわざ私と同じように地面に腰を下ろします。


 やっぱりこんなところが貴族らしくないと言うところなんですがね。今更行っても仕方がないかもしれませんが、とりあえず呆れたと言わんばかりのため息だけは吐いておきましょう。


 そんな私に「もう、今更じゃない?」なとど言いつつ、彼女は笑顔を見せてくれます。やはりこんな笑顔が一番良いではないですか。昨日までの彼女を考えればこんな柔らかい表情を見せてくれているのは嬉しいことです。



「エリカさんのところにいたの?」


 不意にエルフリーデが尋ねてきます。

 この言葉には少しカチンときてしまいましたが、私は短く鳴き声を上げて彼女を恨めしく見つめます。


「そうだよね、ちょっとやり過ぎたよね」


 やっぱり自分でも分かっているんじゃないですか。

 誤魔化すように私の頭を撫でる手つきも、どこかいつもよりも優しく感じるのは少しは私に申し訳なさを感じてくれているのでしょか。


 それならば良し……とはなりませんけど、でもエルフリーデの気持ちを考えるとそれを咎めることは出来なくなってしまう。


「やっぱりさ、ハッキリさせときたかったんだよ」


 そう一言呟いて、また考え込むように陽のさす中庭をぼんやりと眺めるエルフリーデ。


入学してからこっち、エリカさんとテオさんを起因に様々なトラブルに巻き込まれてきました。なかなか友人と呼べる人たちを作る事も出来ず、一時は皆から敬遠されるなんて事もありました。それを思い出すと結構な事をされたなと思い返されます。


 今更ながら思うのですが、これってアニメの中ではハルカさんがされていた事なんですよ。そう思えば、ハルカさんをそんな目に合わさなかったと言うことは誇って良いのかもしれません。


そしてそれを裏で手を引いていたのって……


「きっとさ、わたしもエリカさんも同じなんだよ」


 そう、アニメの中ではレオノーラ様を筆頭に、エリカさんとエルフリーデがそれを扇動していた。


「本当なら同じ脇役だよ? 何もしなかったらわたしたちは性格の悪い脇役だよ。それがわかってるからさ、エリカさんのこと嫌いになれなかった」


 それはどうか分かりませんし、私だってエリカさんのことは嫌いじゃないですよ……


でも貴女はどうにかしようとしていたじゃないですか? 頑張ってきていたじゃないですか? その発言は自分の努力を貶めるものですよ!


 これだけは何がなんでも伝えるんだ。彼女をびっくりさせてでも、これだけは伝えないといけないんだ。


 しかしどんなにエルフリーデのスカート裾を引っ張ろうと、唸り声をあげようと彼女は反応をすることなくぼんやりとしながらこう呟きます。


「わたしだけ卑怯だよ」


 何を、言ってるんですか?


「だってさ……わたしにはさ、貴女がいるんだよ? それだけでこんなに違うんだから……」


 そんなの……そんなの関係ない!

 最初は歪んでいたかもしれないけれど、今の貴女は違うじゃないですか!


 なんで、こんなことも分かってくれないの? 私じゃもう伝えきれないですよ。



「やっぱり、わたしは卑怯だよ」


 再びエルフリーデの言葉は宙に舞っていく。

 この言葉もまた受け取り手が不在のまま……ちがう、受け取り手である私はそれを認めることのできないまま音の波が消えていく。


「……カロリング様、少しよろしいでしょうか?」


 突然私たちの目の前に老齢の男性が現れ、こちらに話しかけてきます。


「あぁ、殿下の家令の方ですよね?」 


 私も見たことがある。私たちが出会った頃からウェルナー様のお世話をされていた方だ。

 学園に入学してからはあまり話す事もなくなりましたけど、佇まいも話し方もかなりしっかりされた方だと言う印象があります。


 そんな彼が一体どうしたのでしょう? でも彼が私用でエルフリーデに声をかけてくることなんてないはずです。


 そうなってくるとやはり……


「殿下が私を呼んでらっしゃるですか?」



 いずれにしても大事な時のために、ここで彼女の気持ちを盛り下げる出来事が止まってよかった。


 しかしウェルナー様は一体どんな用向きなのでしょうか?


 今の私には終ぞ分かりませんでした。

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