私が見ることのできない、彼女の苦悩。
あれからそんなに時間は過ぎていないと思っていた。
わたしは中庭の大きな木の下に腰掛けてぼんやりと空を眺めていた。おそらく陽の光が消え失せ感覚がなくなってしまったからだろうか、そんなに長い時間ぼんやりとしていないとおもっていたけれど、もう何時間もぼんやりとしていた気がする。
レオノーラ様から気持ちを伝えられた。
初めてあの子を拒絶してしまった。
ハルカさんに気持ちを告げられた時と同じくらいに心にくるものがあったけれど、どこかときめくものを感じてしまい、嬉しく思えたのも本当のところだった。でもさっき、レオノーラ様の言葉にどう返したら良いか分からずに途方に暮れてしまった時、わたしを揺り動かそうとしてくるあの子に、わたしは苛立ちを打つけてしまった。
励ましてくれようとしていただけだった。わたしの顔をあげさせて、しっかりとレオノーラ様を見なさい。きっとそんな意味がある行動だった。
でもあの時のわたしはそれを分かってあげられていなかった。ただどうしたら良いか分からなくて、あの子のことを鬱陶しいと思ってしまった。そして声を荒げた。
茫然とした。何をやっているのだと、そればかりが頭を占めた。
「……頭が追いつかないよ」
自分でしてしまったことなのに、訳がわからない。
その時、自分の頬が濡れていることに気付いた。
知らぬ内に涙を流していたのだろうか。わたしは乱暴に袖で頬を拭ってまたぼんやりと空を眺めた。なんとなく手持ち無沙汰だったからだなんてそんな横柄なことを言うつもりはない。ただただ何をしておけば良かったのか分からなかったのだ。
黙りこくっているのは好きじゃない。でもお喋りなのも好きではなかった。考えなしのわたしだから自分の短慮さが露呈するもの辛いし、軽薄すぎるように見られるもの嫌だった。
でもそれは自分を良く見せたいからと言う動機に全てが帰結していく。
それに引き換えあの子はどうだっただろう。わたしのことを心配してくれて、助力をするために行動してくれていた。
常に状況を見て的確な行動をしてくれるあの子に比べれば、どこまでもわたしは見劣りしてしまう。恥ずかしくて、恥ずかしくて仕方がないよ。
「ずっと分からないフリしてた……」
ポツリと声が漏れた。でも遠くから聞こえてくる学友たちの喧騒にかき消えていった。楽しそうな声、少し疲れた声、食事を楽しむ音。沢山の音がわたしの耳を楽しませようとしているけれど、そんなことを気には出来なかった。煩わしく思えてしまうくらいだ。
ぼんやりと頭上に視線を移す。
全く気がついていなかったけど、今日は満月。月が真円になる夜だった。今は少し薄いベールに隠れてしまっているけど、あの顔はどうにも気に入らない。わたしの気付いていない内にずっとわたしの醜態を見ていたのだ。
「こんなのは、わたしは望んでなかったのに……」
それを睨みつけながらまた呟く。
「なんで、こんなこと……」
口をきつく結びながら、更にさらにきつくそれを恨めしく睨みつける。また醜態を晒しているって笑っているように思えたけれど、それすら気にならないくらいに思えてくる。そして雲が割れていき、その顔をくっきりと見せ始めた。
ハッキリと顔を見せてもわたしの心はその像を露わにはしない。
それでもずっと見ていた。
月だけが、わたしを見ていた。
愚かなわたしをずっと、月だけが見つめ続けてくれていた。




