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迷った後、弱さを理解したあと。きっと見えるものがある。

 逃げ出してしまった。


 本来であれば側にいてあげなくてはいけなったはずなのに、それが出来なかった。



 彼女の、エルフリーデの側にいるのが辛くて、気付けば私たちの側から去っていくレオノーラ様の背を追いかけていた。



 不甲斐なさが自分の頭の中を占めていく。


 一歩足を進めていく度に、何もしてあげられないのだと理解していく。



 そして『何もしてあげられない』のではなく、『自分が理想とするエルフリーデ』になるように、それを押し付けていたのだと理解させられた。




 正直に言おう。ずっと分かっていた。


 いつもエルフリーデのことで動く度に自分のエゴばかりを押し付けていたと言うことを。



 そしていつもいつも、私の中の『犬の型』をした何かが『人の型』の私に言うのだ。


 お前のやっていることはあまりに自分勝手なことなんだぞ?


 お前は物語の外にいるつもりなのか? お前はまだアニメでも見ているつもりになっているのか?



 これは、お前が自分のために選ばなければいけないものなんだぞと。



 今更になって、それに気付くだなんて思わなかった。


 出来ればずっと気づかないままでいたかったのだ。


 それこそ本当にただのペットのようにしてればよかった。



 でもそれも私のエゴだ。それが分かっているから何も出来なくなる。





 ついぞ進めなくなってしまい、廊下の途中で私は立ちすくんでしまった。



「……そばにいてあげなくて良いの?」



 まるで私の動きを察したように、こちらを見ずにレオノーラ様が呟く。


 背を向けたままなのに凄いな。そんな必要のない感情がふと頭を駆け巡っていくけど、すぐに洪水のようにエルフリーデのことが頭をも妙げてくる。



 無理ですよ。今の私じゃあの子のそばにいることは出来ません。


 こんなにも自分勝手な私が、あの子のために何が出来るって言うんですか。



 あぁ、ヤキモキする。伝えたいのに。言葉に出来たら良いのに。いつも遠回りしながらじゃないと考えを伝えられない。




「―――しょうがないじゃない?」




 どう言う意味だろう? こちらに振り返りながらそう呟いたレオノーラ様の頬には一筋、水の通り過ぎた跡が見て取れた。


 何故貴女が泣いているの? その理由が分からず、振り向く彼女の足元に近付き身体を預けその表情を見つめる。



「押し付け合うしかないじゃない! 無理にでも、無理にでも分かってもらうしかないじゃない!」



 言葉を紡いでいく度に大きな瞳からとめどなく溢れ出す涙。



「自然と理解してもらえるなんて擬弁よ。それが出来るのなんて、神様くらいだわ!」



 今まで見たことのない言葉の吐露だった。


 さっきも感じていた、エルフリーデへの気持ちを言葉にした時も冷静ではないと感じていたけど、今はそれの比でないくらいにレオノーラ様は声を荒げている。



「言葉で伝えられたって、それは本当に届いているって言えるの?」



 ドキリと、一瞬その言葉に私の胸が高鳴った。私がずっと思っていたこととは逆の言葉。


 私は『言葉さえ使うことができれば』とずっと思っていた。




「分からない……私、分からない」



 ゲームのようなバロメーターなんてない。目に見える確かなものなんて一つもない。言葉にしたってそれが伝わっているかなんて、全く分からないのだ。



「でも、止まらないのよ。好きが止まらないのよ……」



 少し違うように思う。レオノーラ様は心のどこかでもう止まってやらないと決意しているのではないか。でも迷いは消えないから、だからせめて最後に今こんな弱々しい姿をみせているのだ。



 全ては、この言葉を自分の中で確固たるものにするために。


「エルフリーデさんを好きだって、気持ちが止まらないのよ」




 しかし彼女の涙は止まらない。



「ねぇ。私、おかしいよね?」



 自分には親の決めた人がいるのにと。


 自分は彼のためにこれまで生きてきたのにと。



 それがエルフリーデとの出会いで少しずつ変わって、そして今、全てがエルフリーデに染め上げられてしまった。



 止めなくてはいけない。抱いてはいけない感情なのだと、彼女の理性的な部分がささやき続ける。



 でも……



「でも、もう止められないの……あの人が、エルフリーデさんが好きなのよ」




 最後にそう呟いて、抱きしめてくれる温もりが少し痛い。


 こんなにも暖かなのに、彼女は自分の中に確かなものが見えなくて涙を流している。



 いや、もしかするとずっと彼女は涙を流していたのかもしれない。




 それにも気付いていなかった。自分が嫌いだ。


 言葉にできることを羨ましく思っていた。傲慢な自分が嫌いだ。




 でも少なくとも、少なくとも



 彼女の温度を感じている今だけは、温度を交わしている今だけは




 全部を飲み込んで彼女に寄り添っていたい




 この気持ちだけはなんの飾りもなく



 なんの偽りもなかった

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