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私が見ること出来ない、彼女の黒すぎる感情。

 忌々しい女の手を引き教室から去っていく麗しの姫君の背を見送りながら、私は思わず笑みを溢していた。



 これから彼女たちに起こるであろうことには、正直不快感がある。


 そしてそれが終わった後、あの女がどれほど苦悩に見舞われるかと言うことに興奮していたのだ。



 それらを思い浮かべるだけで、何故か全身を震えが駆け抜けていった。



 あぁ、あの女がどんな顔をして思い悩むのか……楽しみでたまらない!


 そしてレオノーラ様! きっと最後には貴女はきっと哀しみの淵にいらっしゃるでしょう。その時に私が手を差し伸べれば……あぁ、もう少し! もう少しで全てが終わる! 全てが終わればすぐにでも貴女のお側に参りますわ!



 どんどん気持ちが昂ってきたせいか、ニヤけ顔が治らない。少しずつではあるが周囲の視線が気になってきて仕方がない。私は学園内では避けられる存在ですからね。致し方ないところであろう。



「でも、あれから結構な時間が経っているはずなのですがね……」



 懸念しなければならないことがあるとすれば、未だにレオノーラ様は私のことを警戒していることくらいだが、それは瑣末事として処理することができるだろう。弱っている時につけ込むことが出来れば良い。そのタイミングさえ見誤らなければいいだけのことだ。


 いけない。考え込みすぎるのは良くないのだ。適度に頭をすっきりとさせなければ目まぐるしく動く状況に対応することは出来ない。


 軽く伸びをしながら、頭上を見上げる。ピンと身体を張利、一気に緩めてやれば簡単にリフレッシュができる。適度にこうしてやれば思考が整ってくるから、私はこれを習慣にしている。




「何れにしても、もう一押しあれば……」



 よし。後は座して待つことしか出来ないが様々な準備はしておかなければならないか。


 ニヤリ顔がようやく治り始めたのを実感しながら、そろそろ自室に戻ろうかと思い立ち上がったタイミングで、完全に見飽きてしまった顔が私の目の前にやってきた。



「……姉さん」


「あら? テオじゃない。どうしたの?」



 正直この顔を見るとため息が出てしまう。


 猪突猛進を絵に書いたような性格。そのくせ一歩を踏み出す度胸がなく、かつプライドがあまりに高い。


 とことん私とは性質の違う人間だ。


 双子であるはずなのにここまで違いが出てくると言うのも面白いものではあるが、それが身内となれば鬱陶しいことこの上ない。それを意識してしまったから、自分の邪魔にならないようにしてやればいい。



 きっとテオはそれに気付いていないだろう。


 いつまでもそんなおバカな弟でいて欲しいものだ。



 そんな弟が今日は神妙な顔をしている。



「……話がある」


「畏まって気持ちの悪い……そう言えば噂になってたわよ」



 形容しがたい違和感がある。しかし瑣末ごとだ。


 あえて返答に含みを持たせることで、相手自ら話をさせよう。出来れば……そう、あの忌々しい女とグライナーとの話をさせよう。



「だろうね。我ながらバカだったと思うよ」



 返答はあまりにあっさりしていた。


 憤慨しながら自分の感情と、その時の状況をゴチャ混ぜにしながら話すのが普段のテオなのだが、今回は全くそんな素振りを見せていない。



 どこか達観したような、雰囲気が変わったように思う。



「でもこれで考えていた通りになりそうで安心したわ。ありがとうね、テオ」



 しかしそんなことは関係ない。はっきり言ってしまうと、テオがあの女とグライナーの間に割って入ろうとすれば何かが起こる。それだけ起こしてくれれば、私の中でテオの役目は終わっているのだ。



 あえて、目一杯の皮肉を込めてテオにそれを投げかける。



 言葉を受け取り、一体どんな表情をするだろうか。それを思うと少し笑みが溢れてしまう。


 悔しそうな顔? 怒り顔? 泣き顔? さぁ、テオ……何よ。なんでそんな顔をしてるのよ。



 テオの表情は私の思い描いていたものではなく、どこか寂しさを感じさせるもので大人びているようにも感じさせた。



「……姉さん、もう私は姉さんに協力出来ないよ?」



 咳払いをしてから、テオが尋ねるように呟く。


 物知り顔が気に入らない。あぁ、今まで手玉にとっていたはずの弟が私の考えにない言葉を口にしていることがあまりに気に食わない。



 しかしそれでも打ち負かす言葉など山ほどあるのだから。



 さぁ、ここからが本番ですよ。



 悲しそうなテオの顔を真っ直ぐに見つめながら、「そもそも」と一言。これまでの軽い言葉ではなく、あえて相手に重くのしかかるような言葉を送ることにます。



「貴方は自分のやりたいようにしていただけでしょう? 我が弟ながら、情けないとは思いますけどね」



 あぁ、目に浮かびますよ。テオの瞳が困惑の色に染まっていくのが。そして何も言えずに子供の時のように顔を伏せて悔しそうな顔を見せる筈だ。



 だが、テオはポカンと私の顔を見つめるだけだった。



「……そうか、そう言うことか」


「テオ? 何よ、その顔は」



 正直信じられない。また考えにない反応を見せるテオに私は辿々しくなってしまう。



「何よ、一体何が言いたいのよ、貴方は!」



 何がこの子をこうさせたのか。逆に困惑してしまう私をよそにテオは冷静なまま、


「そんなのじゃ、姉さんも彼女に足を掬われるよ」


と、そんな皮肉を残し、身を翻して去っていった。




「何よ、おかしな子ね」



 口ではそう呟いたが、腹ワタが煮えくりかえる思いであったことは言うまでもない。ここまで想定外のことをされてまともでいろと言うのはさすがに無理がある。



 しかしテオがあんなに冷静な物言いが出来ていた訳……少し理解できたような気がする。



 なるほど。『あの子』に話の一つでも聞いてもらったんだろう。


 不思議とあの子に色々と話をすると、考えがまとまってくれるような気がするのだ。私も中庭の木の下で話を聞いてもらった時、ずいぶん助けられたように思う。



「あの子……あの子に何が出来たとしても、この流れは変えられないわ」



 そう。所詮あの子はただのペット。話は聞けても助言も何もできようはずがないのだから。



「でも、そうね。注意は怠らないようにしないと……」



 念には念をとは良い言葉だ。


 どのような状況になったとしてもうまく立ち回れるようにしておかなければ。



 再び表情がニヤリと歪んでいくのが分かる。



「さて、どうなることやら」



 まぁ、どう転んだとしても……



「あぁ、楽しみで仕方がないわ」



 私に都合の良い結果にしかならないのは明かなのだから。




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