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何だかお話のジャンル、変わってません?

 弱き者がピンチに陥った時には必ずヒーローが現れる。


 なんてベタベタな展開なのでしょうか。



 ですがそんな展開ほど、私たちの心を熱くさせるモノはないと、私はそう思えるのです。でもたまにいますよね? 「在り来たりな展開だなぁ」とかって言ってしまう人たちが。



 しかし! そんな人たちに対し、私はあえてこう申し上げましょう!





 ご都合主義だと笑わば笑え!


 お約束ほど、アツくなるものはないんですよ!




 いつかどこかで耳にしたそんなセリフ……まさか自分が考えてしまう日が来るなんて。


 そんなことを考えられるところを見るに、私もかなり冷静さを取り戻しているみたいです。



 それほどまでに姿を見せてくれた彼女が、あまりにも頼もしく思えてしまったのです。





 そう。私がテオさんに牙を向けた瞬間、私を抱き留めてくれたのはハルカさんだったのです。



 まぁ通りすがりに目に入ってと言ったところでしょうか。足元に転がる書物を見るに、どこかへの移動中だったように見受けられます。


 もしかするとずっと私たちの様子を窺っていたのかな? なんてそんなおかしな想像をしてしまいましたが、そんなことをする人がわざわざ私の暴走を止めに入ってくることなんてあり得ませんよね……きっと、うん。そうですよね?




「ハ、ルカさん」



 痛みに耐えるエルフリーデの声からも彼女への絶対の信頼が伝わってきます。


普段から『ライバルになりたい!』などと言っているだけあって、ハルカさんのことをよく見ているエルフリーデですから、こんな時のハルカさんがどれだけ頼りになるかと言うことは身に染みて理解しているのです。



 そんな事情を全く知らないテオさん。


 しかし突然姿を見せた彼女の姿に驚きを隠せない様子でした。




「―――貴様」



 テオさんは一言そう呟き、掴んでいたエルフリーデの腕を離した瞬間、頭に一つの考えがよぎりました。動くなら今しかない、と。




その刹那、動き出す影が二つ。




「―――ッ!」



 ザンと脚が地を蹴り、突進せんと進む私。


 一歩踏み込む音もなく、瞬きの間にテオさんとの間合いを詰めるハルカさん。



 この二つの影に怯んでしまったのか。後退ってしまうテオさんの表情は信じられないものを見る表情をされていましたが、女性に対してそれはあまりに失礼だろうだなんてそんなことを考えながらも、二人の間に割って入ります。



 エルフリーデの肩を抱いて自分の方に引き寄せるハルカさん。その二人の前に立ちながら、テオさんに威嚇の呻き声を上げる私。



 うむ、何とも格好良い立ち姿ではないですかと自画自賛をしてみます。



「グライナー……貴様」


 そう呟きつつ、ジロリとハルカさんを睨みつけるテオさん。先ほどの怯えた表情を見せた後ではさすがに何の威圧感もありませんよ。



 それがテオさんの持ち味なのです。


 ヘタレなのですが見栄っ張り。自信家なのですが、どうにも実力が追いつかない。



 何とも残念なのがアニメを視聴していた人には受けていた、と言うのが遠い記憶の中にあります。


 まぁ私はあんまり好みではなかったんですけどね。




 そんな彼を眺めつつ、思わずため息をついてしまう私。


 ですがテオさんの方すら全く見ずにいる人がこの中に一人。



「腫れてらっしゃいますね。おかわいそうに」



 ハルカさんはエルフリーデの腕をさすりながら、そう一言呟いていらっしゃいますよ。さながら二人に空間と言ったところでしょうか。



さすがにこの状況ではやめていただきたい。


まぁ甘々な空間を作り出すことに文句なんて言いませんよ? 普通の状況でこの光景が展開されていれば、私としても良いもの見られたなぁって思えますから。




 でもねぇ、今目の前でこんなにも怒り顔をしている人がいては堪能出来ませんよ。




「貴様……私の邪魔を!」



 さすがに自分が無視されていると理解したのでしょう。後退っていた足を無理やり前に進めながら怒りに身を任せて怒号を放とうと深く息を吸い込む仕草を見せますが、



「ーーー」



 ヒステリーな響きが私たちの耳に届くことはありません。



 私たちに投げつけられたのは、先ほどまでのものをさらに色濃くした怯えた眼差しでした。



 えぇ、えぇ無理もないですよ。テオさんがこんな風になってしまうのも。私も正直、背後から発せられる威圧感に言葉を失っているくらいなのですから。



「そうです、そうやって黙っていて下さい」



 背後からはまるで囁くような、そしてあまりに冷淡な言葉。


普段の彼女からは想像も出来ないほどのそれに、その場にいた私でさえも身を固くして背後を見ることすら叶いません。



 しかしテオさんのことなど考えることもなく、ハルカさんはマイペースにエルフリーデの心配をされている様子。



「……大丈夫ですか、エルフリーデ様?」


「え、えぇ。だ、じょうぶです……」


「それは良かったです、早く手当てをしましょう」



 うん。今すぐにでも振り返って繰り広げられる光景をこの目に焼き付けおきたい! そんな邪な感情が私の中を駆け巡っていきます。


一方テオさんを一瞥したハルカさんは冷たい視線を向けただけで特にそれ以外のことには興味がない様子。完全に小物と思われているのでしょうか、これにはテオさんに同情してしまいます。



「待て、グライナー! まだその女との話が終わっていないのだ。横槍を入れるな!」



同情したばかりなのにその一言? ちょっと! さすがに神経を疑ってしまいますよ?


 これには私もただじゃおきません。


先ほどの感情に任せたものではなく、理性的に諫めてやろうと考えた瞬間、再び私たちを取り巻く空気が先ほどのものよりも更に冷ややかなものへと変質していきます。




「……その女?」



 呟いたのはその一言。ですがこれだけははっきり分かるのです。



 今この瞬間、ハルカさんの中でテオさんと言う人物が興味のないモノから『許してはいけない者』に変わったと言うことを。



 もうこうなってしまっては犬の私ができようことなど何もない。今はただ状況を見守ることしかできないと数歩下がって場所を開け、エルフリーデの横に立ちます。



 その動きに「偉いわね」と呟き、頭を撫でる彼女の手つきからは優しさはあれどいつもの丁寧さは感じられません。



「そう呼んで何が悪い? 自身を顧みないその女が悪いのではないか!」


 テオさんが挑発するように笑うと、一瞬身震いを見せるエルフリーデ。その笑みはもはや恫喝していると言った感じでしょうか。さすがに好きにはなれないやり方です。



「怒りに任せて手をあげた上に、その女呼ばわりですか。貴族様もたかが知れますわね」


「貴様……貴様! 貴族である私にその様な口を!」



 売り言葉に買い言葉とはまさにこのことでしょう。


 逆にハルカさんの言葉に挑発され声を荒げるテオさんはエルフリーデにしたのと同じように、彼女の右肩を掴み上げます。



「―――くだらない。本当に、くだらないですね」



 掴まれていることなど関係ないと、冷淡な視線を向けたままハルカさんは続けます。



「身分を振りかざしてでしか人に何も言えないのですか? そうなのであればその口を閉じていなさい。私は早く彼女の手当てしたいのです」



 そう言い放って、自身の右肩に置かれたテオさんの腕を簡単に払い除けます。



 しかしその行動は更にテオさんのプライドを汚すには十分だったのでしょう。



「……黙れ、黙れぇ!」



 怒号を上げるとテオさんの腕が大きく振り上げる。拳を突き出すようなものではなく、駄々っ子のように強引に腕を振り下ろすような動きでした。ただ数歩、ハルカさんは横方向に軽やかに動き両の拳を固く結び左拳を一度だけ、前に突き出す。響く乾いた音はその拳の速さをありありと示していますまるでそれは稲光のよう。


彼女のスカート姿と繰り出される拳闘の動きは結びつけるには難しいものがあります。しかしこうやって目の前で繰り広げられていては信じざるを得ません。



ここにも彼女が『ときめき☆フィーリングハート』の最強キャラクターである所以を感じさせます



 しかし同年代であると言っても、男性と女性の体格差では拳を見舞ったとしてもわずか一撃だけでは完全に動きを止められようはずもありません。



このままでは力任せの振り下ろしが彼女を襲ってしまう。



 想像したのはそんな最悪の未来。直視をしたくないと目を背けるエルフリーデを尻目に、私は彼女の、ハルカさんの動きから目を離せずにいたのです。



 突き出されていた左腕の返りが遠心力を生み出し、力を受けた腰の回転は鋭さを増していきます。それに連関するように、一瞬だけフワリとスカートが翻ります。



「シッ」



 翻る布とは全く相反する鋭い音がハルカさんの口から漏れ、同時に弾けるような鈍い音が私たちの鼓膜を叩くと同時にテオさんが膝をついてその場に蹲ってしまわれます。



「ぁ……」



 続けて響く声にならない声。


 ハルカさんの足はテオさんの左脇腹を正確に打付けられていました。彼女の右足は瞬きの間に引き戻され、次の動きに備えてるように見えます。



 正直私は戦いだとか、そんなものにはとんとうといと言う自信があります。ですがハルカさんのこの流れるような動きは一朝一夕で身に付けることが出来ないだろうと言うことが想像に難くありません。



 ただそんな努力の跡すら感じさせず、ただ飄々と力を抜きつつこう呟きました。




「これは正当防衛、ですわよね?」

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