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それもなんだか不可解です。

 ガタガタと馬車が音をたてて進んでいきます。

 エルフリーデの膝の上で感じるその揺れは心地の良いもので、うつらうつらと舟を小出しまいそうになります。


 最近睡魔がすごいんですよね。あ、いつものことだろうというツッコミはなしでお願いしますね。



 しかし今日のハルカさんにはビックリしましいましたよ。一気にエルフリーデに詰め寄っていくんですから。

少し冷静さを欠いた行動だったと思うのですが……まぁこの鈍感さんにはこれくらいがちょうど良いのかもしれませんね。



 膝の上の私を撫でながらそう呟くエルフリーデも、今日の一連の騒動にグッタリしているのでしょうか。手つきに疲れがにじみ出ています。


 まぁ致し方ないことですよ。今は私で癒されてくださいな。


「ちょっとびっくりしたなぁ」


 うむ、やはりエルフリーデもそう思っていましたか。

 まぁそうでしょうね、だって貴女とハルカさんでは、接する上での『前提』が違うのですから、どうしようもない隔たりがあるのは仕方のないことですよ。


 そう思いながら、彼女にされるままジッとしていたのですが、不意に彼女が呟いた言葉に、思わず乱暴に身体を起こしてしまいました。



「でも、これってわたし……目的達成してるんじゃない?」


 な、何を言っているんですか、この子!

 いくら私がこの子に甘いと言っても、目的を知っている私としては、同意しかねる発言ですよ。


 ハルカさん、ごめんなさい……やっぱり貴女の思いは全然伝わっていないみたいです。


「……だ、言ってくれてたよね? 側にいてくれるって。これってさ……」


 それは貴女の思っているものとは違うものですよ。

 いや、早計はよくありません。しっかりと発言を聞いてから判断をするようにしなくては。幾ばくかの期待を視線に乗せて、彼女を見つめます。



「もう、ライバルって認めてもらったってことじゃない?」


 うん、可愛い。そしてとんでもないおバカさんですよ、この子。

明後日の方向に思考がぶっ飛んでいるんですよねぇ。どうしたものでしょうか。


「でも今日のハルカさん、おかしかったよねぇ」


確かに今日は私もビックリしましたけど。でもあんなに分かりやすい行動だった上に、今回は言葉にまでしてくれたんですけどねぇ。


なんで理解してあげられないのかなぁ……理解が出来ないのか。

 無粋にそれを説明してしまうのも面白くないので、もう少し見守ることにしましょう。


 でもまぁ、この鈍感さは本当に治してあげないと……鈍感なのは周りまで不幸にしますからね。


「ちょっと侍女長さんに相談してみようかな」

そうですね。年長者に相談するのも良いですけど、侍女長さんはエルフリーデの子を好きすぎますからね。


あらぬ誤解を受けないことを願っておきましょうか。



 お、丁度良い所で馬車が停まりました。どうやらお屋敷まで戻ってきたみたいですね。


 続きはお部屋で話そうかと呟きながら私を抱いたまま、馬車から降りていこうとしたエルフリーデでしたが、パタっとその動きが停まります。


「ん? この馬車って……え? 今日っていらっしゃる予定じゃなかったよね?」


 そ、そうですよね。サプライズでいらっしゃることは良くありますけど、必ず私たちはいる時にいらっしゃっていたはずなのです。


 こんなタイミングでいらっしゃっているのは初めてじゃないですか?


 一路お部屋に戻るのを取り止め、玄関で急顔を浮かべていた家令のおじさまに声をかけると、やはり私たちの想定通り。


 これは、今日はもう一波乱ありそうな予感がしてきましたよ。




 家令のおじさまにお礼を述べて、私たちは足早に廊下を歩いていきます。

 目指すはいつもの場所なのですが、流石にもう日暮時。肌寒く感じる時間帯ですし、待たせすぎていないかというところも気がかりです。


 しかし私の心配は杞憂だったようです。


 ようやくお庭に到着する頃には、エルフリーデも肩で息をしている状態。

 お庭のいつもの場所に目を向けると、そこからは「はしたなくってよ」という声が聞こえてきます。

その声に呼吸を整え、佇まいを直しながら、声の主に歩み寄っていきます。



「……ご機嫌よう、エルフリーデさん」

「あ、ご機嫌麗しゅうございます。アーレンベルク様」

「……」


 私たちの帰りを待っていたのはレオノーラ様。いつもお話をするテーブルで、お茶に口を運んでいました。

 特におかしなところのない、いつも通りの挨拶。ですが温和な雰囲気であったレオノーラ様の表情が突然に硬く厳しいものになります。


 厳しいというよりも拗ねていると言ったほうが良いでしょうか。

 おそらくこれは……先日のお願い事を守れていないからですかね?


 エルフリーデもそれに気が付いたらしく、モゴモゴとなりながら答えます。


「あ、えっと、レオノーラ様」

「えぇ。ご機嫌よう」


 エルフリーデの言葉に満足げな笑みを浮かべるレオノーラ様。私もお庭の芝生の上に降り、ペコリと彼女に向かって頭を垂れる仕草をとります。

それに彼女も、「今日もお利口ね」と微笑みながら、優しい手つきで頭を撫でてくださいます。

 それのなんと心地よいものか。おじいさまやエルフリーデのものとは一味違う優しいものでした。

 うむ。でも彼女がこうする時って、大体エルフリーデにどう話をするのか迷っている時と知っているので、素直に喜べないのですが。


「今日はいったい何処に行ってらしたの? と聞くまでもないですわね」

「えっと、ハハハ……」


 不意にかけられた言葉に愛想笑いを浮かべるエルフリーデ。

 いつもなら素直にハルカさんに会いに行っていたというのですが、今日の出来事を思い出したのでしょう。どうにも歯切れのない返答になっています。


 その返答にため息をつきならがも、エルフリーデに椅子に腰掛けるようにレオノーラ様は促します。


「何かおかしいですわね……」

「いえいえ、今日も楽しくお話ししてきましたよ。話し込んでしまって、少し疲れてしまっただけですから」


 怪訝な表情を見せるレオノーラ様に必死に言い訳をするエルフリーデは、思った以上に焦っているようです。


 すぐにでも露呈してしまいそうな言い訳を並べているのですが、レオノーラ様の表情を見ていればそれも無駄なことと悟ったのでしょう。違う話で誤魔化そうと思ったのでしょう。



「それよりも、長らくお待たせしてしまいました、よね?」


 でもこれって、墓穴ですよ。

 どんな返答が返ってくるかなんて、すぐに分かるはずなのに。



「えぇ、そうですね。どれくらい待っていたかしら……」


 そう呟くレオノーラ様に怒りの表情は一切見えませんが、その言葉にビクリと身体を震わせたエルフリーデ。


「そ、それは本当に!」

「でも存外、待つと言う行為も悪いものではないですね」


 謝罪を口にしようとしたエルフリーデを尻目に、笑顔を浮かべながらそう思い返すレオノーラ様。



 なんでしょう、普段なら「人を待たせるなんて無礼ですよ!」なんて小言の一つでも返ってこようものですが。

今日のレオノーラ様は、ハルカさんと同じように少しいつもとは違うようです。


「ど、どうしたの? なんだか今日はおかしくない?」


 ま、まぁ……おかしいとは言いませんが。

 確かにいつも以上に温和というか……そこまで身につけちゃったら本格的にヒロインみたいになってしまいますよ。


 ……願ったり叶ったりです、グヘヘ。



「なんです? ヒソヒソと!」

「な、なんでもないですぅ! ごめんなさい!」


 目の前でコソコソとされれば怒りますよね。さすがにこれには私も謝罪のしようがないところですが、さすがにこれ以上は話が進まないと考えてくださったのか、今度はレオノーラ様からこちらに話を振ってくださいました。



「で、今日はハルカさんとどんなお話をしてきたの?」

「えぇ、そうですね……今日は」



 ここからなんですよね。

 もう少しここで考えながら話してくれてさえいれば良かったのですが……



あ、ちなみにこれから起こることは私にとっては非常に良いことなのですけどね。





 でもこれもエルフリーデにとっては良いきっかけになるはずですので、見守ることといたしましょうか。



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