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知らなかった感情には、困惑するものです。

 短い時間で、かなり濃い話をしているなぁ。

 俯瞰的な視点でレオノーラ様とハルカさんをみていると、そう思えてきてしまうのです。


話が深まっていけば感情の起伏も激しくなってしまうのは自明の理。

絶賛真っ赤になった顔を両手で隠しているレオノーラ様を見ればそれは理解できるものでしょう。


しかし結構長い時間話し込んでいますけど、我がご主人様は退屈していらっしゃらないでしょうか。

きっとお庭にいるでしょうし、侍女長たちがお相手をしてくださっているでしょうから心配はないでしょうが、あの気にしいの子が不安に思わないわけがありません。


とりあえず私だけでもあの子の元に帰りましょうか。

そう思ってドアを見るのですが、さすがに私の届く高さではノブに手が届くわけがありません。


これは、開けてもらないといけませんね。でも尻込みしてしまうなぁ。

 それにこのドアですよ。爪でも立てようものならどれだけの損害があるのか、考えただけでもゾッとしてしまいますよ。


 おっかなビックリ、そろっと肉球でポンとドアを叩いてみますが、開くわけないですよね……あぁどうしましょうか。


 そう思った刹那、身体がフワリと持ち上げられ、視界が開けていきます。


 私がドアと悪戦苦闘している間にレオノーラ様も正気を取り戻されたのでしょう。

 先ほどまでの取り乱された表情はどこに消えたのか、いつも通りの凛々しいものに戻っていらっしゃいます。


 お二人とも立ち上っていらっしゃるところを見ると、そろそろエルフリーデのところに戻るみたいですね。


「で、では……戻りましょうか?」

「えぇお供いたします。アーレンベルク様」



 馬車から降り、少し離れたところで待っていらっしゃる御者さんに会釈をしながら、お屋敷の中に入っていきます。

玄関からお庭まではそんなに離れているわけではありませんが、少し話すくらいの時間はあります。

 不意にレオノーラ様が立ち止まり、こちらに振り返り思い出したように呟きます。


「お兄様から聞いた時はにわかには信じられませんでしたが、今日貴女にお会いして胸の痞えが取れた思いです」

「お手を煩わせ申し訳なく思います。しかし私などはただの街娘ですので」


 この言葉はハルカさんなりの遠慮の言葉だったのでしょうか。

 しかしこの言葉はレオノーラ様の何かに引っ掛かったのか、みるみると視線が冷えていくように感じました。


 これはハルカさんも予想をしていなかったのでしょうか。顔色はきっと変わっていないと思いますが、私を抱く腕が少し強張っているように感じます。


 これは、すごいお怒りになるかもしれませんよ。




「……ねぇグライナーさん」


 しかし私の予想とは裏腹に、レオノーラ様から発せられた声は非常に穏やかでした。


「彼女と、貴族と関わりを持つのならば、一つ覚えておきなさい」

「……」

「慎み深い態度は美徳かもしれません。しかし度が過ぎれば、貴女の周りにいる人間を貶めることになるのです。それをゆめゆめ、お忘れなきように」

「忠告、痛み入ります」


 ハルカさんの言葉を聞くと、そうですかと一言だけ口にして踵を返し歩いていくレオノーラ様。


 さすがはレオノーラ様。もう人の手だったら拍手したいくらいに立派です!


 そう。彼女は実は良識的な人物なのです。

これはアニメ本編を見ていては気付くことができなかったことですが、実際に彼女の振る舞いや言動を耳にして私はそう思い至り、同時に彼女に好感を持ちました。


 しかし何でアニメの中では悪役になんてなってしまったのか……元々の彼女の性格ならばそんなことをするはずはないのに。




「あ、お二人とも!」


 おっと、少しぼんやりとしてしまいましたね。気がつくとお庭にまで戻ってきており、ハルカさんが優しく地面に降ろしてくださります。


 ここはいつも通りに行きましょうか。

 ゆっくりとエルフリーデの側まで歩いて行った私は一言帰ったよという意味を込めて、甘えるように鳴声をあげます。


「もう、一人は退屈だったよ?」


 それは悪いことをしてしまいましたね。

 きっとあの人たちを二人きりにしてしまうと、行ってはいけないところまで話が進みそうなきがしたんですよ。

 ……まぁ野次馬根性を出してしまったことは否定しませんが。



「え、えぇ。申し訳なく思います」

「まったく、子供ではないのですから少しくらいは待てるでしょうに」

「も、申し訳ございません!」



 本当に、言葉一つでも三者三様と言いましょうか。

 すぐに謝罪するエルフリーデに、少し怒った表情を見せるレオノーラ様。ハルカさんに至ってはただただ礼儀正しいお辞儀をするのです。


 まぁ噛み合っていないようでどうにかなっていく。

 これでいいじゃないですか。



よし、今日はおしまい!……いえいえ、これで終わるなんて。そうは問屋が卸しませんよねぇ。


多分ですけど、ここからが面白いところなのですから。



 お怒りのレオノーラ様に慌てふためくエルフリーデを見つめる、ハルカさんの表情。



 ねぇ。この眼に、この表情に違和感を覚えない貴女ではないでしょう。レオノーラ様?



「―――ッ!」

 レオノーラ様が声にならない声を上げて少し仰反るような仕草を見せます。

 これにはエルフリーデも驚いてしまったのでしょう。レオノーラ様に走り寄って彼女の肩に手を置いて様子を見ています。


「ど、どうしましたか!」


 突然自分に身を寄せてきたエルフリーデにビックリしているのでしょうが、しかし彼女の視線はハルカさんから動くことはありません。


「アーレンベルク様?」


 次にエルフリーデの口から漏れたのは不安そうな音。この声に決心したのか、レオノーラ様はキッと表情をこわばらせます。


「ちょ、ちょっと! こちらにいらっしゃいな!」


 音の響きがキツく鼓膜を叩きます。

 これには目の前のエルフリーデもビクリと身体を震わせて数歩後ずさってしまわれます。


 エルフリーデの様子にしまったという表情を見せるレオノーラ様ですが、もう後には引けない様子。乱暴な歩みでハルカさんに近づいたレオノーラ様は彼女の腕を引き、お庭の少し離れたところまで引っ張って行かれました。

 これは穏やかではないですね。エルフリーデは気になりますが、私も彼女たちの後に続く事にしましょう。


 お庭の少し隅の方、少し離れているのできっとここからの会話はエルフリーデには聞こえないでしょう。

レオノーラ様はようやくハルカさんの腕を離して、彼女を睨みつけています。


「なんでしょうか?」


 引かれた腕が少し痛かったのか。掴まれた腕をさすりますが、不機嫌な様子は見せず、平静を保たれています。


 しかしこの平静さもレオノーラ様をイラつかせるということを、ハルカさんは理解していないようでした。

 表情の表すままに、喧々とした言葉をぶつけていきます。


「ちょっと! あの表情は何ですの!」

「というと?」

「あ、あのようにイヤらしい!」

「おかしな表情にでもなっていましたか。勘繰りすぎではないでしょうか?」

「わ、私の目は誤魔化せませんわよ!」


 追求するレオノーラ様ですが、さらりと躱されるハルカさん。さすがにこのような対人のやりとりはハルカさんの方が一枚上手のようです。

しかしここで引かないのがレオノーラ様。必死に言葉を選びながら、一言一言絞り出していきます。


 でもね、私から言わせてもらうと……


「貴女の眼……」

「つまり『レオノーラ様と同じ』でしたか?」

「そ! そんなことありませんわ!」


 そうなんです。ハルカさんとレオノーラ様がエルフリーデを見るときの表情って、実はすごく似ているんです。


 これを以前、ハルカさんは『嗜虐心がくすぐられる』と表現していました。

レオノーラ様ものはそうではないと思いますが、ハルカさんから見れば同じように見えて然るべきものなのでしょう。


 だからこそ、はっきりと彼女はこう告げるのです。


「いいえ、違わないと思いますよ」

「……!」


 キッパリとしたその物言いは深く彼女に突き刺さったのでしょう。

 驚きで言葉が出なくなってしまっているのでしょうか、口はうごけど音にはならない状態が続きます。


「わ、私は……」

「感情など人それぞれです。どんなものを胸の内に抱いていても構わないでしょう。そこに身分の差など、考慮に入れる必要はございませんわ」



 一方ハルカさんはもう止まることはありません。

 多くの人間と接し人の機微に聡いとしても、まだまだ彼女もエルフリーデたちと同じ年齢なのです。次第に口にする言葉に熱がこもり始めます。



「ただ私は、彼女のどんな面でも愛おしく思うことができる……ただ、それだけなのです」

「わ、たくしは……」


 ……あれ? これもうゴール?

 いやいやダメですよ、ハルカさん。レオノーラ様は『自分でも気付いていない』というのが一番の強みでもあるんですから。それを気付かせるような言葉を言ってはダメですって!


 ずっと傍観をし続けていた私でしたが、気が動転してしまい、ハルカさんの足にすがりつくようになってしまいます。


 私の慌てふためきように、自分も柄にないことをしていると考え直したのか、咳払いを一つ、ハルカさんは落ち着きを取り戻していらっしゃいます。


「まぁ、そうですね。突然このような話をしても困惑するだけでしょうね」


 そうそう、そうですよ。レオノーラ様にはまだ早過ぎるのです。

 もう少し、後すこーし時間をかければもっと良い感じになるんですから、もう少し我慢してください。


 でも、届かないものですよね。


「ねぇ、アーレンベルク様。私、貴女様のお顔を拝見した時に直感したんです」


 私の、人の言葉を喋れない私の気持ちなんて。



「きっとこの人も、『私と同じだ』って。貴女も、彼女のことを……」


 あぁ、言っちゃった。そこまで言えばレオノーラ様も気付いてしまう。

 事実、ハルカさんの言葉を受けた彼女の頬は、馬車で話していた時とは比較にならないほどに赤くなり明らかに冷静さを失っている様子を示しています。


「……そ、そんなことない、友人として私は!」


 勢いで言葉を放ってもそうではないと、そう思ってしまっては言葉も詰まってしまう。

 そしてコントロールもできなくなってしまった声量で投げ出した言葉はさすがにエルフリーデの耳にも届いています。


 遠くからこちらの様子を伺っていたエルフリーデも、その声にのっぴきならないものを感じたのか、こちらに走り寄ってきました。


「ちょ! 如何されたんですか? 大丈夫ですか……アーレンベルク様?」


 つい先ほど見たものと同じ光景。

 ですが、ハルカさんに言われた言葉がどうしても引っかかり、エルフリーデを真っ直ぐに見ることはできないレオノーラ様。


「……違う」


 その消化不良の感情の置き場に困ってどうにかしないという気持ちばかりが逸ってしまう。そして彼女が選んだ結論は……


「―――違います! 私は!」

「え、えぇー……」


 まぁ逃げるになるわけです。



「これは、藪を突き過ぎたかもしれませんね」


 本当にね! もう少し手加減してあげて欲しかったですよ。


 でもあまりに急ぎ足で進んでしましましたね。これはどこかで修正しないといけないかもしれませんね。

 ムムムと考え込んでいると、走り去ったレオノーラ様を茫然と見送っていたエルフリーデがようやく声を上げます。


「ちょっとハルカさん、アーレンベルク様に何をしたんですか? 意地悪したんですか?」

「そんなことはありません」

「じゃぁ、何であんなに取り乱してしまわれて……」


 さすがにレオノーラ様のことが心配なのか、姿を探すように何度も振り返るエルフリーデ。本当はすぐにでも自分だけで追いかけたいのでしょうが、ハルカさんのことも置いたままではいけないと考えているのでしょう。


「とにかく、一緒にアーレンベルク様をお迎えにいきましょう?」

「んー」

「ハルカさん?」


 エルフリーデなりに折衷案を出したつもりのようですね。

 迎えにいくことも選択の一つではありますが、レオノーラ様を混乱させている原因はこの二人なわけです。


今、行ったところでもっと話がこじれるだけですよ。



「……そう、貴女もそう思うわよね」

 ……! 不意にハルカさんと視線が合います。


「エルフリーデ様、謝罪の必要はありません。これはアーレンベルク様の、個人的な問題ですわ」


 まさに私もこれを言いたかったのです。この察しの良さを、さっきのレオノーラ様との会話の中で発揮してくれればよかったのに。


 ですがそれに我がご主人様は納得するはずもないのです。


「個人的って……じゃぁ、私はどうしたら、良いんですか?」


 ただその言葉だけを吐き出して、ずっとレオノーラ様が走り去った後を見つめています。




 こればかりは確かに、他人が介入して良い問題ではないでしょう。

 何れにしてもエルフリーデさん、貴女に関わる問題なので、心しておいた方が良いですね。



 さて、どうなることやら……少し心配になので、私は私の特権を最大限に活かす事にしますよ!




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