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魔王にも隠したいものはある

初めての投稿なので、温かい目で読んでいただければ幸いです。

「それでは、これより継承の儀式を執り行う」

初老の白髪の男が高らかにそう宣言し、周りは「おぉ」とざわめく。

皆がいるこの部屋は、そんな儀式なんかとはかけはなれた現代風の作りをし

ている。

「前へ出てくるのだ、アウル・ハードリット」

呼ばれた俺は、部屋の隅から真ん中へと歩み寄る。

みんなの視線が痛いな。

「ほら、あの方が例の……」

「あのお方だったのか……通りで寵愛されていたわけだ」

「でも、あまり良くないお家らしいわよ」

「ふん、みすぼらいい分際で生意気な」

厳粛な空気に包まれるはずのこの部屋からは、口々に色々なことを言っている人の声が聞こえる。

少し中世の感じを思わせるようなレンガ造りの()()や、少し暗めの部屋に()()()()()()()()を出そうとしているのか紫色のスポットライトは、継承と言うよりは生贄を思わせる。

「どうして、こうなった……」

黒い賢者を思わせる似合わない服装をした男は興奮したように祝詞を大声で叫ぶ。

その声とは対称的にその前立つ俺の顔は曇るばかりだった。

「あのお方が亡くなられた今、我らのような血のたぎる者共を、誰がまとめようものか!」

「なんであんたが演説するんだよ……」

苦々しい顔でぼそっとつぶやく。

様々な感情が自分の中を渦巻き、今にも潰れそうだった。

彼がこんな状況に立たされる事の発端は、1年前にまで遡る。

忘れもしない、あの日だ。


魔王が崩御したという話は、まだ公表されていなかったにもかかわらず、瞬く間に町中に広まっていた。

それはもちろん俺も例外ではない。

「おい、聞いたかよ、あのお方の話」

「あぁ、聞いたよ。っていうか、もう街中で知らない奴の方が珍しいだろ」

「そうだぜ、そっちの方が珍しい。でも、次の統一者は誰のなるんだろうな」

みなの話は魔王が御したこと、次の魔王は誰になるのかということ。このことでもちきりだった。

「なんでみんな、あんなことばっかりに興味があるんだろうな」

俺は苦々しい顔でつぶやく。

『携帯』という、遠くまで声の届けることの出来る技術が確立されたって言うのに、ちっとも噂が耐えることがない。

むしろ、噂の方が人気なくらいだ。

「お前、なんてこと言ってんだよ。なりたくねえのか? 統一者に。おお前にもその可能性はあるんだぜ」

「それはそうかもしれないけど……」

幼なじみのアレスの言葉に一応同意はする。確かに、魔王という立場はなかなかにそそるものがある。

「でもやっぱり、あんまり興味は無いかなぁ」

俺は今のところ、やりたいことが山のようにある。

魔道技術の研究とか、農業をもっと豊かにするだとか、そういうことのためには魔王なんかに時間を割いてる余裕はない。

俺は一息つこうと近くにあったコップから水を飲もうとする。

「ホントかよ。多分モテると思うんだけどなあ。お前の大好きなあの子とかな。……名前なんていうんだったっけ? アリスちゃんだったか」

俺は思わず含んでいた水を吹き出した。

大きく咳き込み、アホなことを言ってくるアレスに叫ぶ。

「ばっ……アイツは、関係ねぇだろ……」

そうならいいなあ。

そんな考えが頭の隅から波のように広がっていき、俺の語気は徐々に弱まる。

「んー、ほんとかなぁ」

わかっている上でニヤニヤとこっちを向いているアレスをどう殴ってやろうかと指南する。

すると、いつの間にか見知らぬ誰かに囲まれていた。

「だーかーら、関係ねぇて……」

「ん? どうした……」

アレスは周りの異常にはっと息を飲み、口をつぐんで険しい顔をする。

「そう、警戒しないでくれ」

見知らぬ男たちの中のひとりがそう声をかけてくる。

「いきなり人を囲んでおいて、何が警戒しないでくれだよ」

「警戒してくれの間違いじゃないのか、アレス?」

「何を言うか。怪しいところなんてひとつもないだろう」

さっきとは別の、なんとも言い難い黒スーツの男が声をあげる。

「んなわけあるか! スーツのおっさんたちに囲まれたら誰でも警戒するだろ!」

「な、なんだと……初めて会う相手にはピリッとしたスーツでと……」

「どこの合コンだよ!」

「我々と合コン……まさかあなたにはそのような趣味が……!」

「ちげぇよ、何でそうなる!」

 思わず声を荒げて反論してしまう。

 空は少し曇りだす。

「そうだぜ、こいつに限ってそんなわけあるかよ。こいつには心に決めた相手が……」

「お前はもうややこしいから喋るな……」

 話をややこしくしようとする友人をしり目に、目の前の男たちの方をさらに警戒する。

 こいつら、どこをどう取っても怪しすぎるだろ……

「まあ、そんな話はあとでにして……」

「こんな茶番二度としてたまるか」

 まだこんなことをしようとしているのかよ。

 そこまで考えた時、自分たちの周りが昼間であるにもかかわらずあまりにも静かすぎることに気付いた。

「おい、何をしたんだ」

「はて、何のことでしょうか?」

「とぼけるな。この時間帯にしては人通りが少なすぎる。気付かないとでも思ったか」

 威圧的な態度で問いかける。

 ここでようやくアレスも気付いたようだった。

「ほんとだて、人が少なすぎ……」

 アレスは何かしゃべろうとしたが、彼の言葉が最後まで外に出ることはなかった。

 バサッという音と共に、アレスは地面に倒れる。

「アレス!?」

「催眠の魔術です。これから話すことは人に広まってしまってはいけないことでしたので」

 悪びれもせず、催眠をかけた男は告げる。

「それなら、何故俺がアレスといるときに狙ってきた」

「本来ならばそうしたいところでしたが、かなり急がなければならなかったことですので、やむを得ず」

「ちっ」

 思わず舌打ちをしてしまう。

「まあまあ、そう怒りをあらわにしないで頂きたい」

「友人に魔術にかけておいて、どの口をきいてやがる」

 駄目だ、どうしても怒りが前に出てきてしまう。

「先ほど話しておられたでしょう。次の統一者なるものは誰になるのか」

「何だと?」

 何でそんなことまで知っているんだ。まさか、ずっと聞かれてたのか……

「我らが統一者様が亡くなられたことは知っているでしょう。公表はしていませんが、人の口に戸は立てられませぬ」

「あぁ、それがどうした」

「あなた様に決定いたしました」

「は?」

読んでいただき、ありがとうございます。改善点など、気になったところはどんどんと教えてください。

お願いします。

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