ドクター、国境の街へ向かう。 終
ドクターは、十人の治療やリハビリを終え最後の患者の元に向かった。
最後の患者の病名は椎間板ヘルニアだった。椎間板ヘルニアとは、髄核が漏れ近くの神経を傷付ける事で痛みが出る病気だ。
この患者は歩くことが出来ないくらい痛いらしく健診の際もベットに寝かされたまま健診に来たくらいだ。
ヘルニアの手術くらいはドクターにとっては簡単な事だったが、この患者の場合は傷付けてはいけない神経が近くに有りそれを傷付けてしまうと最悪は下半身不随になってしまう恐れがあったので日を改めて手術を行う事としていた。
患者の元に着き、簡易手術室を準備して患者の手術許可を貰った。勿論、手術中に間違って神経を傷付けてしまえば下半身不随となる事が有りますと説明した。
まぁ元々この患者は歩けないくらい酷いので、悩む事なく、お願いしますと言っていた。
手術のリスクが有るとはいえ、手術するのは世界一の医者で有るドクターだ。誤って神経を傷付けてしまう確率は、ほぼゼロだ。
ドクターは、患者を固定し麻酔をかけ手術に入った。手術は一時間くらい・・・ いや世界一のドクターなら三十分程だ。
内視鏡の挿入口を電気メスでサッと切り、内視鏡を入れて行く、髄核が漏れている箇所にサッとたどり着き、神経を傷付け無い様に処置を施す、処置はあっという間に終わり内視鏡を取り出した、そして挿入口の傷を縫い合わせ手術は終了した。
その時間は、十五分だった。手術を立ち会った村長も唖然とする速さだった。
「これで麻酔が切れれば直ぐに歩ける様になりますよ」
「えっえー」
ドクターからの直ぐに歩けますよと聞いた患者はビックリして声を上げた。腰は部分麻酔で動かなかったが、手と足は動き少しバタバタしていた。
「はい、手術も成功しましたので走ったり跳んだりしなければ普通に歩いても良いですよ!」
「本当ですか! そんなに直ぐに歩ける様になるなんて思ってもいませんでした」
手術を受けた患者は、少し涙ぐんでいた。腰が痛く動けなくなってから一週間も経っていたからだ。このまま動けなくなる事も覚悟していた男はとても喜んでいた。
そして隣にも泣いてる人がいた。それは村長だった。腰が痛くて動けなくなっていた、男は村長の息子だったのだ。実はドクターが一番緊急性が、高いと判断した患者は村長の息子だったが、村長は息子は後回しにして他の村人を優先してくれとドクターにお願いしていたのだった。
そして、麻酔が切れ村長の息子は無事に立ち上がり歩いた。
「ドクターさん! ありがとうございます!」
「ドクターさん、この御恩は必ず返します」
「村長さん。医者として当たり前の事をしただけですので御恩なんて無いですよ! では村長さん明日の朝早くに出ますので先に失礼しますね」
ドクターは、医者としての喜びを噛みしめ宿に向かった。帰路の途中少し振り向いたが村長と息子は抱き合いながら喜んでいる様だった。
これにて、ドクターの医療中毒症状から発端した集団健康診断は幕を閉じたのだった。




