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ハウンド活動記録  作者: 鳩鳥純
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1章 ④

 街灯が照らす道を一人歩きながら空奏は今日のことを考えていた。

 今までにない動きを見せるのがスターチスだけであればいいが、他のソウルイーターも人と組んで何らかの行動を起こそうとするようなことになれば、それは厄介なことになる。何はともあれ、そういう可能性があるということがわかったことは大きい。多少の危険を冒してでも情報を取りに行った甲斐はあっただろう。

 そんなことを考えながら住宅地を歩いていると、ちょうど突き当りにあるT字路を右から左へ小学生らしき女の子が走っていくのが見えた。

 現在の時刻は午後十時を過ぎている。ランドセルを背負っているが、学校帰りとは考えられない。塾か何か、習い事などの帰りだろうか。それにしても中高生ならともかく、小学生が歩く時間帯ではないと思うが。

 思案している空奏の視線の先でさらにT字路を駆けていく姿が一つ。それはワニほどの大きさもあるトカゲにも似た異形の生物だった。


「幻獣か? いや、そんなことより急いで追うぞ」


 バルドが上空へ飛び、空奏もルウと共に少女たちが走り去って行った方へと駆け出した。

 トカゲの動きは早いとは思えなかったが、少女に追いつくまでそうかからないだろう。すぐに追いつきたいがここは細い道が入り組んでいる箇所が多い。案の定T字路を曲がった先には既に少女たちの姿は無い。


「(空奏、まずいぞ! もう一体別なの出てきて挟み込まれた。あの子行き止まりに入っちまった!)」

「すぐ着く。時間稼いでくれ!」


 上空から見渡していたバルドの焦りが頭の中に届いた。

 塀から屋根へと上り、屋根伝いに一直線でバルドの気配を追う。足元に風を纏わせることで着地したときの衝撃を緩和させながら屋根を飛び移っていく。忍者のようにとはいかないが、これにより極力足音を立てることなく移動することが可能となっていた。屋根に響いた足音で何事かと思った人々に出てこられては困る。もしトカゲの狙いがそちらに逸れたりしたら空奏だけでは守り切ることができない。


「ルウは女の子の横に。背後の警戒怠らないように」

「わかっている」


 バルドの元へ辿り着いた空奏は地面に降りながら少女に近づこうとしていたトカゲに向かって刀を振るう。直前で感知され躱されてしまったが、少女とトカゲの間に入ることができた。ルウは息を切らしている少女の横に着く。怯え、後退りした少女を一瞥してトカゲを見やるルウに、少女は敵ではなさそうだと判断したのかその場にへたり込んでしまった。

 バルドが応戦しているのはゴリラ型の幻獣だった。振り上げる腕の力は周りの空気すら振動させるかのようだが、素早く動き回るバルドを捉えることはできていない。

 下手に異能を使われるのは厄介だ。口を開けて何かを吐き出そうとしたトカゲの顎を下から蹴り上げて狙いを逸らす。近くの塀に降りかかったそれは粘性のある液体だった。すぐに凝固したところを見ると、あれが液状の間に身体に触れないように気を付けなければならないだろう。

 空奏はバルドを諦めてこちらに迫ってきたゴリラの左腕による突きを身体を逸らして避け、追撃してきた右腕を刀で防ぐ。


「…ぐっ。重い」


 通常の刀であればその衝撃に耐えられず折れていただろうが、特殊な金属でできている空奏の刀は傷一つなく主を守った。後ろに飛ばされた空奏はバルドが起こした風で身体を足から掬い上げられて屋根の上へ。すぐさま飛び降りて駆け抜けざまにゴリラの右腕と右足を斬りつける。ルウが飛び出して威嚇した隙に身体の向きを転じ、ゴリラの背後から胸元へ刀を突き刺した。

 すぐに少女の元へ戻ったルウに目をやった時、少女が座り込んでいる壁の上に何者か姿を現した。足元に倒れたゴリラの姿が淡い光に包まれて消える。


「爬虫類が、鳥類舐めんなよ!」


 見ると、自分よりも体格の大きいトカゲの背を掴んで放り投げるバルド。

 幻獣にこの世界の分類は当てはまらないはずなのだが、お互い見た目は実在する動物を模しているからだからだろうか。何故か得意気である。相手を翻弄できているのが楽しいのか、愉快そうな声を出しているバルドは問題なさそうだ。

 空奏が謎の人物に向かって駆け出すと、そいつはすぐさま屋根を伝って逃げ出した。

 追うべきかどうか悩んだ空奏の後ろでバルドが言う。


「さっきのやつ、アニマだな。トカゲ野郎に逃げられちまった」


 見ればトカゲがいなくなっている。幻獣はある程度近くにいないとアニマの中に戻ることができない。先ほどの人物は不利になった自分の幻獣を回収しに来たようだ。

 しばらく周囲の様子を警戒していたものの、新手の心配は無さそうだった。刀を納め、少女の元へ向かう。


「大丈夫かい?」


 膝をついて空奏が声をかけると、恐怖の瞳で震えていた少女は糸が切れたように後ろに倒れてしまう。慌ててその身体を支えると、ひどい汗をかいていることに気づいた。走っていたから、だけではないようだ。顔が赤く、呼吸も荒い。何があるかわからない以上病院に行く必要がある。

 それも幻獣に追われていたという少女だ。普通の病院に置いておくことはできない。

 空奏は端末を取り出して連絡を入れる。二十四時間体制を取っていることはわかっているが、見知ったオペレーターがすぐに出てくれたことに空奏は安堵した。


「科戸くん? 今日は帰られたはずでは」

「幻獣に追われていた子を保護しました。気を失っていて熱もあるようなので、このまま支部まで運ぶのはどうかと思って。浅木さんの指示を仰ぐ必要があると判断しました」

「すぐに人をやります。科戸くんはその子をあまり揺らさないようにしながら今示す地点まで運んでください。頭を打った形跡はありませんか?」

「それは大丈夫だと思います。すぐ向かいます」


 頭部を触って確認してみるも、コブになっていたりはしない。少なくとも発見してからは頭を打ってはいないので大丈夫だろう。

 極力揺らさないようにしながら少女を浅木に伝えられた地点まで運ぶと、すぐに異能事案管理局の救急隊がやってきた。

 幻獣に追われていたとあっては通常の病院に運び込むわけにはいかない。異能者による警備が行われている管理局付属の病院に搬送されることになるだろう。

 空奏は再び浅木に連絡を取り、事の顛末を報告。現在巡回任務に当たっている者たちで捜索、警戒態勢を敷くということだが、当事者である空奏もこのまま帰るというわけにはいかないだろう。一日働き詰めの空奏に浅木は配慮してくれたが、相手を直に目撃している空奏も捜索に当たることにした。


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