表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハウンド活動記録  作者: 鳩鳥純
25/29

5章 ④

「彩那ちゃんを発見。周囲に友魂同盟のメンバーと見られる男女六人。戦闘開始します」


 彩那を追い、工場地帯にある倉庫群へとやってきていた。見晴らしは良くないが、それは向こうも同じはず。琴絵たちの方へと向かっている途中で空奏は彩那を発見した。向こうも空奏を見止めたようで、周囲にいる六人が足を止める。しかし彩那はふらふらと何かに導かれるようにそのまま歩いていってしまう。


「少なくとも彩那ちゃんの意識は無さそうだけど、ラナまでいないのは何でだ?」

「空奏も俺らの実体化を抑える時あるだろ。あれと一緒だ」

「うむ。彩那の意識を操っている何者かが抑えているのだろう。ラナの意識までは奪うことができなかったようだな。そうでなければ彩那まで敵に回っていてもおかしくない」

「……尚更早くラナを解放してやらないと」

「だが、まずは」


 ラナは彩那の力になることができなかったと苦悩していた。彩那の内側から外を見ているだろう彼女は、彩那が操られている現状に再び無力さを感じているかもしれない。

 彩那の周囲についていた六人のうち、五人がこちらに向かってくる。もう一人は誘導役として彩那を急かすようにしている。この五人を突破してからでなければ彩那の元へ向かわせてはくれないだろう。


「浅木さん、今更ですけど遠慮する必要は?」

「ありません。彼らの裏は調査が終わっています。各種犯罪歴についても洗い終えていますので。あるテロ組織の下部団体にあたっていたことも判明しています」

「物騒なところまで手を出してたものですね。わかりました、ありがとうございます」


 浅木の了承を取りつけ、空奏は腰に下げた刀を抜いた。相手は銃を持っている者も二人いるが、幸いにもこの辺りは遮蔽物が多い。琴絵の力を仰ぐまでもなく対処することができるだろう。


「小銃の射線に気を付けろよ」

『わかっている』


 ルウとバルドの返事と共に空奏は駆け出す。

 建物の陰に隠れてから小さな出っ張りを利用して建物の上へ。ルウがバルドの支援を受けて五人の元に突っ込み、先日彩那を追っていたのと同じゴリラの幻獣を呼び出した一人の喉元に噛み付いた時、空奏は屋根を利用して五人の背後を取った。

 倒れるゴリラの幻獣とそのアニマを視界の端に捉え、あの時は逃がしてしまったが今回は逃がさずに済みそうだと空奏は独り言ちる。

 バルドが足元から風を巻き上げて小銃を逸らすのに合わせて背後から小銃を持っていた女を切り捨てる。その女を蹴り飛ばし、ルウの元へ向かおうとしていた男を牽制。男が足を止めたのに合わせてルウが一旦離脱した。

 すぐさま空奏へ発砲しようとしたもう一人の銃口は、バルドが飛びついて抑えられた。無理やり撃とうとした流れ弾に当たらないように気を付けながら空奏は距離を詰める。

 気づいたバルドが離れたと同時に銃口を斬り飛ばし、返す刀で持ち主を斬る。

 同じように流れ弾を躱していた残りの二人が距離を取って態勢を整える。焦って飛びかかってはこないが、逃げるつもりもないらしい。上空を旋回し始めたバルドに視線をやり、ルウが戻って来たのを確認して空奏は口を開いた。友魂同盟の二人に問う。


「逃げないのか?」

「ここで逃げたら、あっちでそいつらに会わせる顔がねえだろうが」

「……随分と肝が据わってるな。若いのに、もうそういう覚悟ができてるのか」

「俺らはわかっててこっちの世界に身を置いてるんだよ、科戸空奏。生半可な覚悟してるやつは友魂同盟にはいねえよ!」

「そうか。それは、悪いことを言ったな。方向性はともかく、その覚悟を疑ったのは謝る」

「……」

「その意気は認めるが、あの子は返してもらうぞ」


 残るは男女一人ずつ。武器の類は出していない、そして幻獣も姿を見せないことからイクシスと判断していいだろう。

 女が腕を上げると、不可思議に揺らぐ刃が生成された。振り下ろすと同時に刃は空奏たちに向かって一直線に迫る。降りてきたバルドが空奏の前で制止すると、バルドは風を起こしてそれを相殺した。


「ハッ。俺ら相手に風の刃とは笑わせてくれる。本当の風の使い方ってもんを教えてやるよぉ!」


 バルドが羽ばたくと突風が巻き起こり、女を吹き飛ばした。

 壁に背中を打ち付けた女はそのままずるずると崩れ落ち、動かなくなる。


「おいおい、それで終わりかぁ?」

「完全に悪役のセリフだな。しかも小物っぽい」


 ルウの指摘と空奏の物言いたげな視線にバルドが嗤う。

 何だか昂ってきているようだ。似たような異能であることが対抗心に火をつけたのだろうか。

 女が軽く吹き飛ばされたことに驚く男に向かって空奏が肉薄する。男はどこからか両手に取り出した鎌で応戦するものの、弧を描く刃は空奏を捉えることはできない。

 男の方は物質から鎌を創り出す能力の様だ。壁や地面に手を付けると手には鎌が生成されている。それを近接だけでなく投擲にも使う戦い方は修司と似ている。

 だが一度手を物質に接触させるという工程がある以上どうしても隙が生まれてしまう。その隙をカバーしながらも空奏の刀を防いでいたのは高い実力を持つ証拠だろう。

 中途半端に地面に鎌を生成することで地面に棘のように設置する男は時間稼ぎも兼ねているのだろう。空奏の攻撃をいなし、躱すだけで反撃から追撃のチャンスがあったとしてもそれを逃して深追いはしてこない。

 空奏も時間をかけるつもりはなかった。

 女がよろめきながらも立ち上がったのを見て嬉々として今度こそ決着を付けようと勇むバルドだけが空奏の幻獣ではない。


「なっ、ガハッ!?」

「ルウのことを失念したな。一対一ならいいものを持っていたのに、残念だ」


 男の首に牙を突き立てたルウが男の身体を放り投げる。空奏はその遺体に軽く頭を下げ、勝負にならなかったらしくつまらなそうな顔をしているバルドの元へと向かった。

 女が気を失っただけなのを確認し、倉庫の中にあったロープで縛る。血は出ていないため、昏倒だろう。記憶が飛んだりしていないことを祈ることにする。


「浅木さん、状況は?」

「申し訳ありません。彩那さんは見失ってしまいました。鈴村さん、柊さんの両名が応戦しつつ河地さんが行方を追っている形です」

「すぐに俺たちが追います。見失った地点をください。そこから匂いを辿ります」

「お願いします。……送りました。現在、鈴村さんたち周囲に対する人払いは済んでいます。しかしそちらに対し相手方の増援が続いているため、思うように動くことができていません。しかし現状戦線は維持できているため、こちらは誰か動けるようになった者が向かう予定です。」

「わかりました。琴絵たちならそうそう崩されることはないでしょうし、大丈夫かと」


 端末の示す彩那を見失った地点へと向かうため、浅木との連絡を切ろうとした。

 その時だった。

 それは強化された聴覚が拾い上げた、何かがぶつかる音

 引き寄せられるように振り返った空奏の目に映ったのは、倉庫群の中でも一際大きな建物。

 そして上空へ向かって伸びる透明な何かを空奏の目は捉えた。

 空奏はとっさに走り出した。


「……聞こえた。あの子の呼ぶ声が」

「声だと? バルド聞こえたか」

「声って彩那のだろ。俺には何も」

「科戸くん?」

「浅木さん、河地さんを琴絵たちの援護へ。俺は彩那ちゃんの元へ向かいます」

「なっ、一人でですか!?」

「彩那ちゃんを外に連れだせる可能性は低いと思います。スターチスたち相手に、外から狙える位置にうまく誘導できる自信はありません。河地さんが屋内でも問題ないのはわかっていますが、今の状況で河地さんの利点を潰す必要もないでしょう。それなら、琴絵たちを援護してもらった方がいい。各自終わったらすぐ俺のところに来るよう伝えておいてください!」


 今のは間違いない。

 彩那がラナと共に的当てをしていた時に聞いた音。水が的に当たって弾ける時の音が聞こえた。建物までの遠さからか、響くような大きな音ではなかった。だから気のせいと言われればそこまでかもしれない。

 薄く伸びたそれも、この暗さではよく見ることはできなかった。

 しかし、だからこそ空奏には気のせいだとは思えなかった。

 そこであの子が待っていると確信していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ