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ハウンド活動記録  作者: 鳩鳥純
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5章 ③

 翌日も朝からやる気を出していた彩那だったが、空奏が仕事で行かなければならないとわかると途端に意気消沈してしまった。

 申し訳ないと思いつつも仕事は仕事。友魂同盟の動きを完全に掴めているわけではない以上彩那を外に出すわけにもいかないので、部屋で大人しくしているように伝えて空奏は支部を離れた。


「外部との接触を断ってるのは彩那ちゃんに悪いよな。遊びたい盛りなのに」

「仕方あるまい。何があるかわからない以上、支部の中で局員以外との接触を断つのが一番だ。私たちが早期解決するしかない」

「空奏も身体が戻ったことだし、あとは情報が来ればすぐにってところだろ。気抜かないようにしねえとな」

「よし、さっさと片付けよう。暗くならないうちに時間が取れれば、訓練場で練習を見てあげたいし」


 真面目な顔で気合いを入れる空奏をルウとバルドが見ている。

 その目は『そんなだから修司からお父さんしてると言われるんだ』と言っている様だった。

 今日の空奏は単独での行動となっている。複数個所に戦力を分散させる必要があったため、獣化を使わない前提ではあるがルウとバルド合わせて三人での行動が可能である空奏はハウンドのメンバーとしては一人での作戦行動となっていた。

 とはいえ、現在割り当てられている役割は異能による犯罪で負われているイクシスの捕縛。

 空奏は万が一戦闘が過激化された場合の戦闘要員として呼ばれているだけだった。早いところ片づけてしまいたいとしても、空奏が勝手な行動を取るわけにはいかない。局員による包囲は終わっているため、あとは相手に投降を訴えるのみとなっている。余計なことをしなくとも、じき終わるだろう。


「抵抗してくるかな」

「そりゃあするだろうさ。そうじゃなけりゃ犯罪に走ろうとは思わねえだろ」

「あまり時間を取られるようならこちらに要請がかかるだろう。どちらにしても奴に未来は無いが、早めに投降してもらいたいものだ」

 空奏が動く、つまりハウンドが動くということはその武力行為は容認される。そしてその場合、犯人の身柄拘束に拘る必要は無くなるのだ。

 今回は犯人が異能を使った犯罪を行ったということが判明しているため、状況によってはその無力化が認められている。そして新たな犠牲者を出すことを避けるため、その手段は問われない。そのためのハウンドだ。

 それほど、異能を使った犯罪は重いことなのだ。


「科戸くん、いま少し取れますか?」

「はい。待機中ですが、今は大丈夫です」

「では手短に」


 浅木からの連絡は友魂同盟のメンバーに対する尋問の途中経過報告だった。彼らは一様にスターチスが関わっていることは知っていた。実際に対話をしたことがあるのは熊井と他数名だけということで、捕らえたメンバーの中にはスターチスと接触した者はいなかったという。

 友魂同盟は人類全てが異能を使えるようになること、異能を自由に使うことのできる社会とすることを目標として動いているようです、と浅木は言った。


「病院でのこととか、真逆のことを行っていることに早いところ気づいてほしいものですね」

「科戸くんの言うとおりだと思います。これが若さなのでしょうかね」


 友魂同盟のメンバーは若い層が多い。まだ若い部類に入るであろう空奏は一緒にされたくはないが、若くないと言われるのも嫌なので少し口ごもった。

 その後、無事犯人は管理局の局員たちにより取り押さえられ、空奏の出番はないままこの件については終わりを迎えた。

 そして連続殺人グループの隠れ家に突入するため応援が欲しいという情報が入ったため、空奏は急遽次の現場へと向かう。


「なんだ、今日はやけに忙しじゃねえか」

「もしかして、不調で休んでた分を一気に回されてる感じかな」

「真白に文句言いに行くか?」

「そんなことしたら一か月は歩けなくなる可能性があるから、やめて?」


 仕事を分配しているのは真白だが、今現在の忙しさは真白のせいというわけではないだろう。

 ただでさえハウンドは人手不足になりがちなのだ。空奏と修司が抜けていた分が回ってきていてもおかしくは無い。空奏は自分たちの仕事をするだけだとバルドに言い聞かせた。


「何度も逃げられている連中なんです。一人が瞬間移動のような能力を持っているため、こちらとしてもここで一度に終わらせてしまいたいところです」


 現場についた時、空奏よりもかなり年上の担当者は腰を低くしてそう言った。

 自分よりも年上の人にこうした態度を取られるのはなんだが居心地が悪い。自分は使われる側の立場であり、相手は人の上に立つ人間だ。部署が違うとはいえ、少しぎこちなくなる。

 そんな空奏の心情を知らない担当者は訝し気な目を向けつつ、間取りや作戦の説明を細かく行ってくれた。

「空奏は変なところで年上に遠慮する。私としてはよくわからないのだが、何故だ?」


「別に理由というほどのことはないんだけど。何となくかな。それに年上だったら誰でも遠慮、というか敬意を示すわけじゃないしね。強いて言えば、経験というのはそれだけでも大きな力になる。それを活かすことのできる人は立派だと思うし、そんな人に口調だけとはいえ同じ目線に立たれると何だか委縮しちゃって」

「むしろ堂々と構えてふんぞり返ってやればいいんじゃないか。そしたら相手も次第に対応が雑になっていくかもしれないぜ?」

「やめろよ。バルド絶対やるんじゃないぞ。俺は絶対そんなことしないし、仮にバルドやルウがやっただけでも俺が真白さんからこってり絞られるようになるんだからな?」


 バルドの恐ろしい考えを戒めていると、ルウが呆れたように溜め息をついた。その溜め息の行き先はバルドだとわかっているが、何故か自分も入れられているような気がする。


「空奏には真白も越えられるように早く立派になってもらいたいものだ」


 ルウの小さな呟きは空奏とバルドの耳には入らず虚空へと消えていった。




 作戦通りグループの隠れ家へと複数人で乗り込み、メンバー全員の確保に成功した。

 山中にあった打ち捨てられた廃墟を隠れ家にしていたグループの三人は瞬間移動と擬態の異能によってこれまで逃げおおせていたようだが、ルウの鼻によってあっさり見つかり、吸い込むと身体が痺れる霧を発生させる能力の持ち主は空奏たちの風で払うことによって事なきを得た。


「建物の外におびき出せれば一番だったけど、今回は仕方ないか」

「空奏一人ならそれでもいいだろうが今回は集団戦だったのだ、仕方あるまい。どちらにせよ、危なげなく終わらせることができた。作戦通り進んだな」


 作戦が見事ハマり、周囲の空気も緊張が緩んでいる。

 片づけや状況証拠を取っている人たちの邪魔にならないよう、空奏はガラスの無くなった窓の近くに背中を預けていた。


「もう夕方だな。これじゃあ練習に付き合うような時間は取れそうにないか」

「彩那は残念がるだろうな。空奏がここら一帯吹き飛ばしちまえば良かったんだ」

「無茶言うな」


 バルドの物言いに思わず笑う。バルドもわかっていて言っているので、すぐに窓枠から外に目を向けてキョロキョロと周りを見渡し始めた。空奏よりも山に興味があるらしい。

 その時、空奏の端末が支部からの緊急連絡を告げた。


「彩那ちゃんが支部からいなくなりました」


 すぐに応答した空奏の耳に届いたのは、真白の淡々とした声だった。

 空奏は窓から飛び出した。空中で実体化したバルドと共に風で衝撃を相殺して着地。ルウも現れ、着地と同時に走り出す。驚いて近寄ってきた担当者に簡単に説明をし、追って連絡が入るはずだと伝えて後の処理を任せる。

 続く連絡で今は琴絵とモカが追っているということが伝えられる。しかし、複数人による足止めを喰らっており、もし位置を把握するために彩那が身に着けている装置が外されれば追うことは難しくなるということだった。

 この点、空奏たちであれば追跡に問題はない。急いで琴絵たちと合流し、友魂同盟のメンバーと見られる者たちの鎮圧。

 すぐさま彩那を追い、状況を掴むよう指令が下された。


「一人にした途端これって。狙われてたってことか。今の彩那ちゃんに無関係の人間が近づけるわけないのに」

「とにかく、じき陽が沈む。下手に奇襲をかけられるようなことは避けなければならない。急ぐぞ」

「わかってる。でも、なんで彩那ちゃんが勝手にいなくなるようなことが起こるんだ。スターチスが何かしたってことか?」

「もしくは友魂同盟の連中が何か仕込んだ。どっちも現実的じゃあねえな。遅延性の能力にしても数日経ってる。それができるのはさすがにソウルイーターぐらいだろうが、スターチスに人を操る様な能力は無いはず。となれば」

「別なソウルイーターがいるっていうのか!?」


 ただでさえ厄介な友魂同盟の相手に加え、今まで存在を知ることができなかったソウルイーターが別にいるとすれば、それは脅威に他ならない。苦虫を潰したような顔をする空奏に向かってバルドが言う。


「俺が言ってるのは可能性の話だ。局員の中に相手側のスパイがいたって可能性だって考えられる」

「……それは余計に考えたくない」


 下手すればソウルイーターが二体いることよりも内部に敵が潜んでいたことを把握できていなかったことの方が問題になるかもしれない。

 友魂同盟は最近この区域で活動を始めた者たちだ。それが既に内部に潜入されていたとなれば異能事案管理局の面子に関わる。空奏からすれば管理局の面子など知ったことではないが、日常業務すら活動しにくくなるような相互監視体制を取られるのは面倒なことこの上ない。実力行使が多いハウンドに対し、何かと難癖をつけて行動を規制させようとする輩も多いのだ。そのような輩にスパイが混じった結果で先手を取られるようなことは避けたい。


「何にせよ、彩那を確保すれば相手が動く。それで答えがわかるはずだ」

「バルドもそうだけど、ルウも余裕あるよな」

「空奏も大概だろう。全員似たり寄ったりだ」

「まあ俺とルウの元は空奏だしな。そりゃあそうもなるわな」


 ケラケラと笑うバルドと、冷静なルウの様子に安心する。

 特別なことは無い。普段どおり仕事をこなし、彩那を元の通り保護して帰る。それだけの話。

 空奏は獣化について答えを得たことで、余計な力がストンと抜け落ちているのを感じた。

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