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ハウンド活動記録  作者: 鳩鳥純
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4章 ④

 二日後。まだ身体が本調子では無いものの、真白にそう言われた空奏は彩那と共に支部の敷地内にある屋外訓練場へと足を運んでいた。

 彩那の方は問診の結果も問題はなく、残す調査は幻獣の力についてのみとなっている。あれ以来彩那の前に姿を現さないという幻獣との対話と姿を現さない理由を知るため、琴絵とモカと共に不測の事態に備えて広い場所へ来ていたのだった。


「別に私まで来る必要なかったのでは? 雨降りでは役立たずですよ、私」

「俺に言われてもな。真白さんからの指令だし。それにほら、この前のモカアタックが効いてて俺もまだ本調子じゃないから」

「あー、そういうこと言っちゃうんですね。可愛い後輩に抱きつかれて嬉しかったくせにぃ」

「抱きつき?」


 吹き飛ばされた気がするのだが、記憶違いだろうか。

 彩那が正気を保っているため滅多なことは起こらないというのが真白と空奏の判断だ。しかし万が一というものがあるため、役割のある琴絵の他にモカにも付いてもらうことになったのだった。


「まあ、雨を降らすっていう力でもないことがわかったから、大丈夫だろ」

「え、じゃああの豪雨は副次的なものだったんですか?」

「そういうことになるな」

「ほえ~。とんでもない潜在能力を持ってるんですね、あの子」


 異能に目覚めた人間は、どういう力を得たのかというのが自然と自分でわかるようになる。

 彩那の場合は『雨を降らす』ことではなく、『水の生成・操作』であることが本人の言から判明していた。

 水のある場所でこそ、その本領を発揮すると思われる能力。しかし、空気中の水分から自身でも水を生成することができるようだ。

 異能の暴走によって力が大幅に増幅されていたとはいえ、あれだけの雨を降らすことができたのは彩那の潜在能力がそれだけ高いということを示している。

 もし今後彩那が獣化できるようになった場合、雨を降らしながらその水を操るという芸当ができるようになると考えられる。末恐ろしい将来性を持つ子がいたものだとモカは唸った。


 適当な広さと障害物のある場所を選び、空奏たちは足を止めた。

 窺うように振り返った彩那に空奏は笑みを返す。

 彩那もまた笑い返し、そして力強く頷いた。

 回復した『彼女』は彩那の前に姿を現そうとはせず、何かに怯えているように感じられた。空奏に訊いてみたが、彼にもわからないということだった。

 空奏は言っていた。自分の力を怖がらないでほしい、と。そして彩那は自身の内で目覚めた『彼女』が怖いものではないことを感じ取っていた。そのため彩那は、昨日のうちに今日話しをすることを考えておいた。

 彩那は空奏たちから離れて深呼吸をし、目を閉じて自らの内にいる『彼女』に話しかけた。


「えっと、こんにちは」

「……」

「自己紹介するね。わたしは北野彩那。小学三年生。まだ読めない字が多いけど、本を読むのが好き。運動は……いっぱい走ってたから、苦手ではないかも」

「……」

「とりあえずわたしのことはこんな感じ。それでね、空奏さんから聞いたんだけど、生まれたばかりの幻獣は名前が無いんだって。だから、わたし部屋にあった本を見て考えたの」

「……」

「あなたの名前は、ラナ」

「……ラ、ナ?」

「そう。静かな水面っていう意味もあるんだって。彩那と、ラナ。ちょっと似てるでしょ?」

「彩那と、ラナ」


 気がつくと彩那は不思議な空間に立っていた。

 周りを見ても何もない。空奏たちの姿も見えない。思わず不安になったが、彩那は目の前に暖かな光が現れたことに気づいた。

 目の前で浮いているその光を見ていると、不思議と安心できた。

 光は徐々に形を変え、やがて一つの形を取った。狐の姿を取ったそれは、柔らかな光を灯す瞳で彩那を見つめていた。


「あなたが、わたしの幻獣?」

「わたしはあなたの力が具現化した存在、あなたたちの言う幻獣で合っています」

「じゃあ、あなたがラナだね!」

「ラナ……。そうですね、わたしがラナ。あなたの幻獣」

「ラナ、わたしあなたにお礼が言いたかったの」

「お礼? なぜです」

「あの時ラナが出てきたのは、どうにかなりそうだったわたしを守ろうとしてくれたんだよね。生まれたばかりのあなたが、力を振り絞ってわたしを守ろうとしてくれた。それを聞いた時、わたし嬉しかったの。遅くなっちゃったけど、あの時はわたしを守ってくれてありがとう」

「……彩那」

「なあに、ラナ?」

「彩那は、わたしが怖くないのですか? 急にこんな力を持ってしまって、怖くない?」

「怖くないよ。だって、ラナはわたしのために頑張ってくれたんだもん。不思議なんだけどね。ラナが起きてから、わたしの中にいてくれることがわかって安心するの。一人じゃないんだって思うからかな?」


 照れたようにはにかむ彩那を、ラナは不思議なものを見るような目で見つめた。

 ラナは、異能が目覚めるまでの彩那の記憶を共有している。その記憶の中でも、このような彩那の表情を見たことは随分と長い間無かったはずだ。

 だからこそ、ラナは自身の抱いている感情を吐露した。


「……また、暴走してしまうかもしれない。あの時わたしは力を抑えられなかったから」

「もしかしたら、そうかもしれない」

「また、力を使おうとして、今度はわたしの意志とは関係なく暴走するかもしれない。誰かを傷つけるかもしれない。あなたが最も嫌がることを、わたしはしてしまうかもしれない」

「ラナ……。確かに、誰かを傷つけちゃうことは嫌。でも、わたしは大丈夫だと思うの」

「……どうして?」

「一人じゃないから。ラナがいてくれるから、わたしこの力を使えるように頑張るから。だから、怖くない」

「……」

「一緒に、頑張ろう。わたしと一緒に誰かを守れるようになろう」

「……。はい、彩那。わたしはあなたと共に」


 彩那は意を決してラナに両手を伸ばす。

 その手がラナに触れた瞬間、光が溢れて彩那は思わず目を瞑った。

 目を開けると、彩那は元の場所に戻ってきていた。そして目の前ではラナが実体化して地面に降り立ったところだった。表に出ているからといって、自分の中からその存在が消えてなくなるというわけではないようだ。今は外にいる、というだけで確かな繋がりが自分とラナにあることがわかる。

 こちらを見上げるラナに笑いながら手を伸ばすと、一跳びで腕の中に飛び込んできた。

 優しい温もりがそこにはあった。苦しくならないように、でもしっかりと抱きしめる。

 家族はいなくなった。施設では家族と呼べる存在はいなかった。

 自分といては離れて行くことになってしまう。そう考えて距離を取らなければと思っていた。

 でも、ラナは一緒にいてくれる。わたしと一緒にいると言ってくれる。

 空奏と話をした時も嬉しかった。ラナの温もりを感じるにつれてあの時のような気持ちが溢れてくるようだった。


「よろしくね、ラナ」

「こちらこそ、彩那」


 振り返ると、空奏が心配そうな顔で彩那を見ていた。

 大丈夫だと伝えるようにラナを掲げながら笑って見せる。

 飛び出してきたルウとバルド、そして琴絵に揉みくちゃにされながら、彩那はラナを抱いたまま温かな気持ちで笑っていた。



 空奏はモカと共に少し下がった場所で彩那たちの様子を見つめていた。

 モカも彩那の元へ行くのではないかと思ったのだが、何やら感心したように向こうの様子を眺めている。


「幻獣との対話って大変なんですね。アニマの覚醒は見たことありますけど、ああやってお互いを受け入れるところから始めないといけないんですか?」

「人によるんじゃないかな。少なくとも俺はお互いの対話とかしてないし」

「空奏さんの最初はどんな感じだったんですか?」

「気を失ってたら目の前にいたな。身体の傷が無くなったことに違和感を覚えて混乱してたんだけど、ちょうど親とかがいたから慌てずに日常に戻った形だった」

「傷が無くなる……。ああ、アニマは覚醒の時に幻獣の身に宿す関係で身体が創り変えられるんですよね」

「そういうこと」


 今日果たさなければならないことの一つは無事終わった。

 彩那とラナはすぐに打ち解けてお互いが唯一無二の存在になるだろう。

 空奏もルウとバルドとの間ではお互いが無くてはならない存在となっている自負はある。しかし、十年以上一緒にいる自分たちよりも彼女らの方がお互いを大切に思う気持ちが溢れている様にも見える。


「そらさん、そらさん」

「ん?」

「もしかして、彩那ちゃんたちの仲の良さが羨ましいんですかぁ?」


 ニヤニヤとモカが笑みを浮かべている。

 彩那たちのことを眩しいなと思いながら見ていたのであまり強く否定もできない。


「バルドに言っておきますね。空奏さんが寂しそうにしてたって」

「やめておけ。お前は鼻で笑われるし、俺はいたたまれないしで良いことが何もないぞ」

「……うっ。そんなつまらない展開は嫌です。あ、そうだ。そんな場合じゃなかった。空奏さんに聞きたいことがあったんですよ」 


 モカはしかめ面から一転、何やらワクワクした様子へと変わった。

 好奇心の目を向けられた空奏は思わず後ずさる。

 そんな空奏にモカもまた一歩詰め寄り口を開いた。


「空奏さん獣化できたんですか。なんですかあの力、バルドと獣化したってことはルウともできるんですよね。二体と獣化できるとか反則じゃないですか。何らかの制限があるから使ってなかったんでしょうけど、隠してたなんてずるいですよ。かっこよすぎます!!」

「落ち着け、ちょっと落ち着け!」


 早口に喋りながら徐々に身を乗り出すようにしてにじり寄って来るモカの肩を押し留めて、空奏は無理やり距離を取った。

 落ち着いた話し方のできるルウがいた方が良かったかもしれない。そう考えながら、飛び掛かって来そうな気配すらあるモカを手で制し、空奏は落ち着かせるようにゆったりとした口調で話す。


「別に隠していたわけじゃない。モカの言った通り制限があることと、それを押してでも使わなければいけないという機会が無かったからだ。説明するからまずは落ち着け」

「わかりました。落ち着くために説明をお願いします」

「それでは話が逆だ。向こうも落ち着くころだ。お前もとっとと落ち着け。話してる時間無くなるぞ。というか、無くなったな」

「えっ!?」

「モカちゃんそんな悲しそうな顔してどうしたの? 空奏くんの後輩いじめ?」

「いじめてない。それにどちらかと言えば、モカの表情の原因は琴絵だけどな」

「え、私!?」


 気落ちしているモカを見て琴絵が疑惑の眼差しを向ける。

 モカには悪いが、元々長時間話をする時間は無かったのだ。後で話をすることにしてまずは彩那について次の工程を始めることにする。


「モカ、後で話してやるから元気だせ。まずは仕事してもらわないと」

「はぁい。うぅ、もっと早く思い出さなかったばっかりに……」

「ねえ、なんで私!? 私何をしたの、ねえってば!」

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