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ハウンド活動記録  作者: 鳩鳥純
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4章 ②

 彩那が寝入ってからしばらくの間、空奏はその小さな頭を撫で続けていた。

 やがてそっと手を離し、椅子に深く身を沈める。


「これで、少しは安心してくれるといいんだけど」


 その呟きに答える声は無い。まだルウもバルドも休眠中だ。

 あの後、意識を失った空奏は支部の医務室で目を覚ました。琴絵が事件処理後からずっと彩那に付き添っていたのだが、深夜に目を覚ました空奏がそれを引き継ぐことにしたのだった。

 しかし、夜からずっとこの場で業務を片付けていたせいか、少し休憩するつもりで寝てしまっていたらしい。

 起きた時に知らない場所で一人なのは可哀想だと思ったのだが、彩那に起こされる形になってしまった。結局少し不安にさせてしまったかもしれない。

 寝ている彩那のために空奏は再びカーテンを閉じた。

 陽射しを浴びたおかげか身体が目を覚まそうとしているのがわかる。目覚めついでに珈琲でも貰ってこようと思い、空奏は部屋の外に出た。


「……琴絵。何してんだ?」

「いやあ、彩那ちゃん起こさないように入ろうと思ったら、空奏くんが良いお父さんしてたから。なんか入りにくくて。……えへへ」


 扉の横で琴絵が屈みこんでいた。見られていたのかと思うと少し恥ずかしい。そして少しでも扉が開いたことに気づけなかった自分が情けなく思う。

 気を抜くとすぐこれだ、と自嘲した。


「お父さんて。……珈琲淹れてくる。何かいるか?」

「うーん。じゃあ私も珈琲で。お砂糖三つ!」

「わかった。じゃあ少し頼む」


 空奏は欠伸をしながら給湯室へ向かった。

 異能事案管理局の第六号棟はハウンドのための施設であり、事務室などの仕事スペースだけでなく、仮眠・宿泊できる場所も兼ねている。空奏も仕事上ここで寝泊まりしなければならない時や、疲労で帰るのが面倒になった時はこちらに泊るが、基本的に使いたくないのが正直なところだ。

ずっと職場にいるというのはどうにも気が休まらない。

 プラスチックの容器に二人分の珈琲を淹れ、誰かが持ち込んでいたチョコ菓子をいくつか拝借する。そろそろルウとバルドも休眠から回復してくれるだろう。起きた時に自分たちだけお菓子を食べてたら煩くなりそうだと思い、多めに貰っていくことにした。

トレイに載せて戻ると、琴絵が眠気を堪えながら彩那の傍で座っていた。空奏が戻ったことに気づいていないのか、閉じそうな瞼を何とか押し上げている。声をかけるとビクリとして照れたように笑った。


「あ、チョコも持ってきてくれたんだ。ありがとう」

「たぶん鳴海さん辺りが持って来たんだろ。適当に貰って来た。……もしかして琴絵、寝てないのか?」

「え!? い、いや、そんなことはないよ?」

「……そうか。ならいいけど」


 明らかな動揺と共にそう言われても信じろという方が無理がある。だが空奏は深く問い詰めるようなことはしなかった。

 空奏はもう一つ椅子を引っ張ってきて机の近くに座った。

「昨日、ごめんね」

「……幼女誘拐発言についてか?」

「その節はすみませんでした。……いや、そうじゃなくて」


 突然の謝罪。

 特に思い当たるものが無く、空奏は不思議そうな顔で琴絵を見た。


「熊井って人との戦闘。私、何もしなかった」

「何もしなかったわけじゃないだろ。琴絵の仕事は彩那ちゃんを守ることだった」

「でも、サポートぐらいできたかもしれないのに!」

「しただろ。モカが来るまでの時間稼ぎ。あれで熊井は一度足を止めた。あの時間を稼いだのは琴絵でもあるんだ」

「もっと、何かできることはあったはず。そうすれば二人とも大怪我しなくて済んだのに」

「寝不足なのはそれのせいか」


 言葉を詰まらせた琴絵を見て、空奏は嘆息した。

 一人反省会のせいで眠れなかったのだろう。昨日の件で琴絵に落ち度は無い。それぞれに役割があり、そして琴絵もその役割を果たしていた。しかし、そんな正論を述べたところで納得はしないだろうことは空奏もわかっている。


「謝らなきゃいけないのは俺の方だ。ぶっ倒れて迷惑かけたしな」

「そんなの。あんな状態で二回も獣化して倒れない方がおかしいよ。それに、空奏くんがやらなきゃ、どうなってたか」

「そもそも俺が完全な獣化をできていれば、あの状態にはならなかった」

「それは……。わかんないじゃん」

「琴絵のそれも同じことだろ。可能性を考え続けても、わからないものはわからない」

「……それを引き合いに出すのはずるいと思う。空奏くんが獣化についてずっと何とかしようとしてること、私だって知ってるもの」

「結果が出てない以上、それを言い訳にはできない。そして熊井に会ったことで、もうこの問題をこのままにすることもできなくなった。次負けるわけにはいかないしな」


 敢えて茶化すようにして言う空奏を見て今度は琴絵が嘆息した。

 もう四年の付き合いだ。空奏が話を逸らそうとしているのはバレているだろう。

 琴絵は切り替えるように頭を振って珈琲を口にした。そして空奏に尋ねる。


「それで、三年取り組んでいる問題を解決する糸口は見つかったの?」

「どうだろうな?」


 何か思うところはあるらしい。空奏の様子を見て話す気配は無さそうだと判断した琴絵は、それ以上訊くのをやめた。適当にはぐらかし始めたら聞いても答えは返ってこない。

 空奏はお菓子を開けて糖分を補給しながら、自分が獣化を持続できなくなった時のことを思い返していた。

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