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「アレーンの奏でる音は聞く者を魅了して引き寄せ眠らせてしまうんだよ。
それだけならまだ大丈夫なんだけど、アレーンは観客がいると嬉しくて興奮してしまってね。
興奮すると鼻息が炎に変わって引き寄せられて眠ってる観客を燃やしてしまうんだ。
アレーン自身もせっかくの観客を燃やしてしまったと嘆き悲しむんだけどどうしようもないよね。」
なかなか難儀な精霊のようだ。
悪意はないから倒さず無視するに限るんだよとルシウスが言うがつくづく世の中は上手くいかないらしい。
「でも…綺麗ですね。」
触れてはいけないと思う程美しいその姿をもう一度見てキャロルは呟く。
「精霊だからね。
きっともっと綺麗な生き物に沢山会えるよ。
楽しみだね。」
ルシウスの言葉にキャロルは素直に頷いた。
「あっあそこにも何かいる!」
レオンの言葉に顔を向けると今度は牛の様な大きさの犬がいた。
デカい上に控えめに言ってブサイクである。
色も深緑色で少々薄汚い。
そんな巨大犬が寝転んで欠伸をしていた。
「あれはクーシー。
妖精の番犬だよ。
妖精に手を出さなかったら何もしてこないから大丈夫。」
「へー、妖精の番犬なのになんだか不細工だな。」
「まぁ所謂ブサカワってやつらしいよ?
でもクーシーがいるって事は妖精が多いって事だから2人共夜を楽しみにしておくと良いよ。」
「夜何があるんだ?」
夜になれば分かるよとルシウスは微笑む。
一体何があるんだろうとキャロルは柄にもなく胸を踊らせながら道を進む。
最初は不満だったがガイドだと思えばこいつらと一緒なのも悪くないかもしれない。
どこかの冒険者から盗んだであろう酒を呑んで寝転がっている子供にしか見えない小人のケンダー。
ドラゴンの赤ちゃんにしか見えないのに実は全く違う種族の魔物スードゥードラゴン。
アザラシかと思い晩御飯にしようかと近付くと突然皮を脱いで人間の姿になったセルキー。
通り過ぎようとしたら通せんぼして枝のコブを見せ付け筋肉(枝コブ)自慢をしてくるツリーフォーク。
その全てが初めてで珍しくてキャロルとレオンは何度も目を合わせ首を傾げる。
戦闘になるような種族はもっと奥地かはたまた街のすぐ側にしかいないらしい。
「こんな楽しい生き物を燃やしちゃうなんて勿体ないでしょう?」
ルシウスに言われキャロルは渋々頷く。
「確かに…勿体ないかもしれません。」




