表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

「なになに? どうしたの?」


 詩織は私たち情報に疎い地味目グループの中では、外の情報を仕入れてきてくれる大切な役割を担っていた。


「加奈ちゃんの事なんだけど」


 詩織は目を伏せ、いつもの楽しい噂話を持ってきた時とは明らかに違う、戸惑った様子で話し始めた。


「なんだか、変な噂があって…………。武田君と…………やったって…………」


 …………言っている意味がつかめなかった。


「何? 何をやったの?」思わず大きな声で訊き返した。


 そんな私を詩織はあわてて引っ張り、教室の外に連れ出して人気のない化学実験室に押し込んだ。


「加奈ちゃん、武田君と…………その…………したんだって。それで愛華が怒って、いじめを始めたって」


 私はまだ意味がよくつかめていなかった。


 したって、なにを?そう聞き返そうとしたときに、詩織の言っていることの意味が分かり、思わず


「うそっ、そんなことあるわけないじゃん、だって、加奈子が、だよ⁉ 」と大声をあげてしまった。


 今度は周りに人がいないので、詩織もさっきの様に慌てふためいたりはしなかったが、詩織自身の声は注意深く小声にして、


「あたしだってそう思ったよ、だけど、愛華だけじゃなくて、武田君が言ってるって。武田君は愛華と別れて加奈ちゃんと付き合おうとまでしたのに、加奈ちゃんに振られたって」


 私は驚いて、息をするのも忘れていたと思う。


「誘ってきたのも加奈ちゃんの方だって武田君は言ってるらしい。そこまでしておいて、付き合う気はないっていうのは、『加奈子はただの淫乱だ』って噂流してるって」


 私は頭の中でガンガンと音が鳴っているように感じていた。


――――そんなこと。あの加奈子が? 加奈子、武田君の事好きだっけ? 武田君の事、何か言ってたことあったかなあ?


 次の授業のために教室に戻りながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。





「加奈子、話がある」その日の放課後、私は加奈子に、今日聞いた話を確かめることにした。


 あれからよくよく考えて、やっぱり、これは誰かが悪意を持って流した噂だと思えてきた。だって、加奈子に限ってありえない。三次元どころか、二次元の男子にだって興味を示さないのに。


 確かめて、噂を流した張本人を突き止めて、噂を撤回させないと、と私は意気込んでいた。





「加奈子、知ってる? 加奈子と武田君が…………その…………噂になってる」


 私は直接的な言葉を口に出せずそう聞いた。


「こんなうわさ、迷惑だよね、第一、すごく悪質。場合によっちゃ、法的措置も取らないと…………。大人に相談して…………」


 そこまで言ったときだった。


「したよ」


 加奈子が言ったのだ。


「したよ。武田君と。セックス。ホテルに入って」


 私は耳を疑った。


「ホテル代も私が出したの。だって、こっちから頼んだんだから。セックスしたことあるんでしょう、って聞いたら、うん、って言ったから、じゃあ、お願いって」


「待って、加奈子…………」


 私は、聞いた事の意味を理解するために、しばらくを要した。


 加奈子の声は耳には入ってくるが、その意味が私の頭には浮かばないという不思議な現象が起こっていた。…………たぶん、加奈子の言葉を、頭の方が拒否をして受け入れなかったのだ。


 そんな私の様子を眺めながら、


「人には言わないでって言ったのに。あてにならないね、男子って」


 加奈子は悪びれもせずに言った。


「加奈子、武田君の事好きだったの?今まで一度もそんなこと…………」


 私はその時、まったく自分の知らない、未知の人物に問いかけているような不思議な感覚にとらわれていた。


「ううん、別に。好きとか、そんなんじゃない」


 加奈子はしばらく黙った後、


「ねえ、そんな気になったことない?持ってるものを全部捨てたいって。価値観押し付けられて。それは大事なものですって。そんなもの、この世にあるのかな。守らなくちゃいけない物なんて。結局、だれかが勝手にそう言い出したことに縛られてるだけなんじゃないの?」


「………………誰でも、よかったってこと?」私は驚いて尋ねた。


「そうよ。だって、武田君、私の事、可愛いって言ってるって噂あったし、付き合ってるのが愛華なら、もうやってるだろうし。後腐れない方がいいから」


 この人は誰? 私の知ってる加奈子?


 私は加奈子の顔を穴の開くほど見つめながら、自分の中に、だんだんと怒りの感情が込み上げてくるのを感じていた。


 ――――加奈子は武田豪には愛華という相手がいるということを知っていて、豪と寝たのだ。そのことで愛華が傷つくことも考えずに。愛華がいくら派手目でも、誰とでも、というわけではないことは皆が知っている事だった。愛華は、『好きな人とでないと嫌』そう公言していた。もちろん、そんなこと、高校生の立場で、愛華の様に、堂々と、口にするようなことではない。親世代のいうところの不純異性交遊だ。だけど、この場合、愛華の方に誠がある。間違っているのは加奈子だ。


「加奈子」


 私は加奈子に言い放った。


「絶交!」



③へ続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ