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1ー4


突然渡された若葉色の巾着。


中身は通帳が入っていると言った後あの人は突然立ち上がって後方に行ってしまった。


窓の外に流れる景色のように一瞬の出来事だったけどコレを渡す時の酷く悲しそうな傷ついたような顔が目に焼き付いている。


私と離れることで清々しているはずのあの人が何であんな顔をしているのだろう?



巾着を開けば私名義の通帳と印鑑。

それからマメなあの人らしくお手製の小さなアルバム、家族4人で撮った写真と2人になってからの写真が其処にはあった。


「これなんてブレてるし…」


写真を撮るセンスは壊滅的なあの人が2人になって初めての運動会で撮ってくれた写真はどれもこれもブレていていっぱい文句を言って困らせたっけ?


あの後手ぶれ補正のしっかりとしたカメラとかなんとか言って新しいカメラで写真を撮る練習に明け暮れてご飯を食べるにも、歯を磨くにもカメラで追いかけ回されたっけ…


ページを捲っていけば最後の写真に辿り着いた。


「高校の入学式のときの…」


真新しい制服の私とスーツでビシッと決めてるあの人


「私以上に嬉しそうな顔してるし…」


気持ちが大きく揺さぶられたような不思議な感覚から逃れるためにそっとアルバムを閉じて巾着にしまう。


思い出に浸るのは今じゃなくても良いんだから。


手元に残った通帳と印鑑を見て父と母が残してくれたものだと気づいた。

母がよく"お嫁さん貯金してるから素敵な人と恋をしてね"と言っていたのを覚えている。その度に父が"まだ早い"なんて言いながら私を抱き締めその度に母に怒られていたっけ。

もっともそんな時には必ず父が"お前もまだ早いぞ"なんてあの人に言ってたっけ…



何気無しに通帳を開き始めのページを開けば私が産まれた年のその月から毎月のように金額は異なるが貯金されている。


と言うことは10歳の歳までは…


ページを捲り進めれば1冊目は終わり2冊目に進んだ。


そして


「何で…」


両親が他界して半年が経った頃からまた貯金がされていた。


月々の額はやはりまばらで両親の額に比べると幾らか少ないが毎月必ず振り込まれている。

最後は…今月だ。


果たして只の邪魔者の為に此処まですることができるのだろうか?


そもそも家を出る事を伝えた後にまで振り込むだろうか?



考えてもあの人の事は分からない。



運動会の写真の事でいっぱい文句を言った日の夜、1人で泣いていたのも知っている。なのに次の日にはケロッと笑っていた。きっと頼るものもなく彼女なりの虚勢だったのかも知れない。



そんな事を考えながら通帳も大切にしまった所で長野駅に着いた。



東京駅での喧騒が嘘のように人が少なく何だか少し寂しく感じる。



景色を見ながら感傷に浸っていると発車ベルがなり出発を知らせている。

隣を見てもあの人は戻ってこない…


もしかして長野で降りた?

そんなはずは…


けど巾着を渡してそのまま荷物を持って立ち上がったきり戻ってこない


胸がザワザワする。


別れを切り出してから散々な態度を取っていたのだ、呆れたり嫌気がさして降りていてもおかしくない。切符だって其々で持ってるし、駅まで叔父さんが迎えに来てくれるし私は小さな子供でもないし1人で新幹線に乗っててもおかしくない


ドクンドクンと鼓動が速くなって

手にじっとりと汗をかく


強がって突っ撥ねて意地を張ってみたけど結局私は姉から離れる覚悟が出来ていないのだ。


目の前の視界が滲んでくる。


下を向けば零れ落ちそうな涙を堪えていたら隣にその人が戻ってきた。


良かった…


ただ安心して窓の外を見ればまたアテンダントさんが来て色々話していてこの人が戻ってくるのが遅かった理由がわかった。


そして私達に飲み物の注文を聞いた後直ぐに飲み物とパウンドケーキを出してくれた。


さっきも貰ったのに?


と思ったところで"素敵なお二人でしたのでこちらもう一つずつどうぞ"と差し出すと去っていった。



なんか毒を抜かれた気分。



「あのさ」


と私が言ったのが早いか


「あのね」


と姉が言ったのが早いか分からないくらいのタイミングで2人で話し始めた。



私が話しかけた事に余程驚いたのか目が大きく開かれている。

そして其方に気を取られたのか話を続ける様子がないのでそのまま話し続ける。


「私、お姉ちゃんにとってのお荷物だって気づいたの。普通だったらもう結婚してもおかしくない歳なのに休日も殆ど私と過ごしちゃって全然恋愛とかしてる様子ないんだもん。私がいたらお姉ちゃん全然自由に過ごせないし幸せを掴み損ねちゃうって思って…だから、叔父さんの所に行こうって…」


本音で話す事は何だか少し気恥ずかしくて語尾がどんどん小さくなる


「だけど今になって離れる覚悟が出来てないって気づいて…」


必死に話せばしっかりと話を聞こうと此方をしっかりと見つめる瞳と目があった。

その後視線を外してすぅっと息を吐くと"なんでそんな事思うかなぁ"と小さい声で呟いたと思ったら此方に向き直り私の手を握って話し始めた。


「私が、双葉がいた事でどれだけ救われてどれだけ幸せだったか分かる?」


と聞かれるも言葉が出てこない。


「両親が亡くなって、それでも頑張ろうって前を向いて進んで来れたのは双葉が居たからなんだよ。双葉が居なかったら後を追ってしまったかもしれない、そう思う事なんて何度もあったよ。」


視界が滲む


「それに不幸だなんて思った事も不自由に感じた事もない。双葉の笑顔に何時も救われていて、叔父さんの元に行きたいって言われた時はそれがなくなるかもしれないと思って何時も不安だったのは私の方なのに…」


私は姉の何を見ていたんだろう。


「双葉、やっぱりさあの家で一緒に暮そう?」







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