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1ー2


アテンダントの準備室の前から聞こえる足音に他の車両のお客様が見学にきたのだと思い榛名望美は準備室の扉を開きデッキの様子を確認した。


扉の前にはこちらを見て目を丸くする少女が居る。


この人は確か…


6Cの席のお客様だ。



さっき、デッキのパネルの話をしたから写真でも撮りに来たのだろう。とすぐに思った。

この北陸新幹線は東北新幹線に比べるとデッキの装飾に凝っていて内装が美しいので写真に撮るのはオススメである。


「宜しかったらお写真お撮りしましょうか?」


と聞けばブンブンと頭を振り大丈夫だと伝えてくる少女に先程、席で見せた憂いはなく年相応の様子が見て取れた。


少し気まずそうにする少女に


「宜しかったらお飲物のお代わりは如何ですか」


と尋ねれば少し考えながら


「温かいもの貰えますか?」


と尋ねられた。温かい飲み物ならコーヒーにハーブティー、緑茶がある事と冬季限定で紅茶がある事を伝えれば


「紅茶お願いします」


と小さな声で言われた。



何とも可愛らしい。



だがそれは6Bの座席に居るお連れ様に対する態度とは異なるもののように感じた。

お二人は少し年が離れているだろうと言うことは見た目や持ち物からわかったが面影は似ている。

お連れ様に対して甘えられている証拠なのかな?


と頭の中でクエッションマークを飛ばしながらも


「畏まりました。出来立てをご用意致しますので少しお時間を頂きますが宜しいですか?」


と伺いを立てれば"はい"と頷き席に戻っていった。



ここグランクラスでは多くのお客様が利用される為大体の年齢は予想がつくようになった。

コレも職業病なのかもしれない。



ガラスのポットを温めてから紅茶を作っていく。

一杯分の紅茶は時間を計りながらしっかりと色と味を出して行く。


あの二人はきっと…



と考えたところで紅茶が出来上がる時間になり試飲して問題がない事を確認してグランクラスを用意する。



詮索はやめよう。

そうは思うもののグランクラスは人間関係が如実に出る人が多くやはり好奇心からか少し気になってしまう。



よく見かけるのはビジネスの先輩後輩で折角のグランクラスなのに先輩に気を使うあまりゆっくりと過ごせない後輩を見ると少し同情を覚える。


それから定年を迎えたり、孫子供からのプレゼントでの夫婦の旅行なんて方も多い。


後は訳ありの男女である。乗り込んでから客室ではずっとイチャイチャと突きあっているのにいざ終着駅に付くとピタリと先程までの桃色の空気はどこへいったと言わんばかりの変わり身で前と後ろの扉から別れて出て行く…


なんて姿も幾度となく見かけている。



ただあの二人はそのどれでもない。



紅トレーにコースターとグラスとレモンポーション、ミルクポーション、砂糖、マドラーを乗せ右手に持つ。左手には出来上がった紅茶の入ったガラスポットだ。


新幹線の揺れの中を器用に歩き先程のお客様の元に進めば"お待たせしました"と言って紅茶をその場でグラスに注ぐパフォーマンスをする。

熱い紅茶は湯気を立てながら芳醇な香りを立てる。


「お手数ではございますが熱いので此方の取っ手をお取りいただけますか?」


と伺いを立ててグラスを取ってもらいすぐコースターを渡す。

紙のようにペラペラとしたコースターだがコレは滑り止めとしての性能が高くてコレを引く事で揺れからグラスが滑るのを防ぐことができるようになった。


先程確認しそびれてしまったので砂糖、ミルク、レモンがご入用か伺えば砂糖とミルクを頼まれた。


私と少女のやり取りを見ながらお連れ様が不思議そうにされていたのでデッキでお会いした際にオーダーを受けた事を伝えたら同じものを頼まれた。


先程と同じようにお時間を頂く旨を伝え紅茶作りお出しすれば少女と同じように砂糖とミルクを入れた紅茶を美味しそうに口に運んでいる。



その姿は少女の姿とそっくりで確信に近いものとなる。



二人は年は離れていそうだけど姉妹なのだと。



ただ妹に対しての態度としては些か気を遣いすぎている気がする。

旅行に行く前に喧嘩でもしたのかな?



と考えつつ準備室に戻ろうとしたところで1Cの席のビジネスのお客様から声をかけられた。

彼は常連のお客様で週に1、2度グランクラスを利用されるお客様である。


「アメリカンお願いできる?」


「畏まりました。」


グランクラスではアメリカンコーヒーと言うメニューはないがご希望のお客様にはコーヒーをお湯で薄めてアメリカンとしてお出ししている。


「本日もブラックでよろしかったですか?」


「ああ。よろしく」


一例して準備室に戻りアメリカンコーヒーを用意してカップに蓋をつけてお持ちすれば慣れた手つきでグラスを受け取り一口、口に含み"うん"と満足そうに頷く。


コーヒーの濃さに不満があっても文句を言うお客様ではないが頷いてくださる時はご満足頂けている時なので嬉しくなる。

準備室に戻ってからお客様のメモの中に今日のコーヒーの割合を記入して行く。以前の物よりも今日の方が気に入っていただけたようなので情報は更新しなくてはならない。


あくまでもコレは望美が勝手にやっている事だ。


ただ望美にとってはシフト制で乗る列車が定まっていないにも構わず顔を覚えるほどお会いするお客様に自分自身を覚えて欲しい気持ちと多くの先輩達がいる中で如何に最高のサービスができるかを考えていた。


コレは望美の負けず嫌いな性格が関わってきてるのだろう。


準備室で楽しそうにノートを取る望美を不思議そうに見ながら後輩はうへーと言った顔をしていたが何ら気にならなかった。



そう言えば彼女は元々CA志望だったな…



グランクラスのアテンダントの中にはCAを志したが夢破れたものも多い。またグランクラスのアテンダントとして数年働いてからCAを再び志すものも多い。



ただ入社半年くらいしか経っていないのに彼女の仕事に対する意識は低いと常々思ってはいたが此処までとは…と少し憂鬱になった。

今日から3日彼女と一緒なのだ。


基本的にグランクラスではアテンダントが二人体制でサービスや準備を行い円滑に回るようにするのが形となっていて本来なら先程の紅茶もコーヒーも彼女が準備してその間にグラスやマドラー、砂糖などを望美が準備といった方が効率が良いのだ。


ただ彼女は先輩である望美が動いていても何をするでもなく立っていただけ、


相方は定期的に変わる。馴れ親しみ仕事が蔑ろにならないようにと言う配慮もあるのだろう。

ただ望美がこの後輩と一緒に乗務する少し前に望美の同期が一緒に乗務した際はお客様の前です不満気な顔を見せてしまいクレームを貰う程の事をやらかしているらしい。


そして多くの先輩から反感を買っている彼女は仕事をやり難いと感じることはないのだろうかと心配していたがそんな心配は杞憂だと感じた。



この3日間彼女が問題を起こさないことを願って準備室を片付けることにした。





11/22 誤字の修正をしました。

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