1ー1
今日は私達にとって最期の旅行になる。
隣に居るその人を見上げれば私より頭半分程大きなその人は私の視線に気づき小さく笑う。
コレで終わると安心してるのだろう。
最後までずるい人だ。
ここ東京駅のホームは多くの人で溢れかえっている。
21番線に新幹線が来るようで駅員が入線のアナウンスと共に黄色い線からはみ出る人々に注意し安全を呼びかけている。
ホームの駅弁屋で楽しそうに駅弁を選ぶ家族連れ、きっと彼らはこれから帰省、もしくは楽しい旅行に行くのだろう。
それからその向こうに見える男女は土産を沢山持っていることから旅行帰り、若しくは実家に挨拶と言った感じだろうか?
多くの人で賑わっているのだから色んな人間、色んな思惑、そして旅路がある事は分かっている。
そして私達のように…
プオオオーーー
と音を立てながら入線した新幹線は白をベースに正面から青いラインと金色のラインで色付けられた北陸新幹線。隣の20番線に停車している緑にピンクのラインの入った新幹線に比べると大分丸いフォルムをしている。
同じ新幹線でもこうも違うのかと一人納得していれば、隣から2015年3月に開通した新幹線で最高速度は時速260キロも出るのだとだと教えてくれる。
この人は新幹線が好きなのかもしれない。
初めて知った。
ただそれと同時にどうでもいい事だと思う。
知ってもまるで意味がない。
ふいっと目をそらし到着した新幹線を見ればプシューと音を立てながら扉が開き乗り慣れているのであろビジネススーツを着たおじ様や降りるや否や慌ててエスカレーターを駆け下りる若い男性、駅で迎えの人に荷物を手渡し優雅に微笑む女性。
色々な人達が降りてくる。
この人達はまた同じ新幹線に乗りあわせる事はあるのだろうか?とふと疑問に思った。
が、私には関係ない事だ。
私にはきっと二度と会うことのない人達だろうから。
そうこう考えているうちに全ての人が新幹線から降りたようで駅員のアナウンスで清掃作業に入る事が告げられ清掃員の人達が乗り込んでいく。
そのキビキビとした様子を眺めながら彼らがその仕事に自信を持っている事が伺えた。
ボソリと
「掃除とか大変そう」
と呟けば、彼らが鉄道清掃員、略して鉄清という職業でその中でも新幹線の清掃は時間が短時間で大変なことから優れた人が集められるのだと態々説明してくれる。
それに返事も返さず、視線も送らずにただ前を向く。
いつもは喋りもしないくせに、最後だと思って喋りやがって…
黒い気持ちが溢れそうになる。
「コンビニに行ってくる」
それだけ告げて後ろを振り返らずにホーム上にあるコンビニを目指しお菓子を買い漁る。
食べなきゃやってらんない。
そもそもあいつは飲み物も何も買わないわけ?
心配してやる義理は無いのに何となく、そう。ただ何となくあいつの分の飲み物も買う。
ただそれを悟られたくなくて買ったものは全てリュックの中に詰め込んだ。
買い忘れたってなったら渡してやればいい。
一人納得してあいつのいる12号車の前に向かえば既に扉は開き乗車できるようで先程までごった返していたホームは人が少なくなっていた。
そして私を見つけたあの人はこっちこっちと手を振りながら私を呼びすぐ側まで行くと良かったと呟き乗ろっかと新幹線に足を踏み入れた。
先頭車両に乗り込むとグレーをベースとしてピンクのラインの入った制服に黄色いスカーフを巻いたお姉さんが出迎えてくれてデッキには赤を基調とした和柄?のパネルが埋め込まれていてかなりお洒落な作りになっている。
新幹線ってオシャレなんだな
と納得して更に扉を超えて座席に向かえば左に1席、右に2席と横3席、更には縦に6席の18席しかない座席がそこには合った。
一車両ってこれしか乗れないんだ。新幹線って贅沢だななんて思っていたら一番手前の席を指差して通路側が良いか窓側がいいか聞いてきたので窓側を選んで席に着き座席をリクライニングしてみればかなり快適な角度まで倒れる。
何も話すこともないし着くまで寝るのも手かもしれない。
そうは思うが車内販売が来るかもしれない。どうせなら最後にいっぱい買わせればいい。
と思い席を起こす。
窓からホームを除きぼーっとしていれば発車ベルが鳴り新幹線が動き始めた。
ホームを過ぎ少し走ったところであっという間にトンネルに入って5分と経たない間に上野に着き次は大宮だとアナウンスが流れる。
東京とはお別れか。
そんな気持ちになっているところで先程出迎えてくれたお姉さんが何やらカゴを持ち挨拶を始める
「本日もグランクラスをご利用いただきありがとうございます、皆さまの旅のお手伝いをさせていただきますハルノと申します。只今よりおしぼりをお配りいたします。どうぞご利用ください、また皆様のお座席の肘掛内側ポケットにはグランクラスサービスメニューがございます。後程お飲物のご注文を伺いに参りますのでそちらもご覧ください」
と何やら仰々しい挨拶の後おしぼりを配っていた。
暖かいおしぼりで手を拭きつつ席を立ち後ろを振り向けば私達のほかビジネスと思われるおじさんと如何にもオタクって感じの太った男性しか見当たらずたった4人の為にあの挨拶をしたのだと知った。
そして先程の言葉通り紅トレーとメニュー表を持ったお姉さんが再びこちらに来て飲み物と軽食のオーダーを取り更にはおつまみとパウンドケーキも出てくるというのだ。
こんなにサービスをして新幹線は採算が取れるのだろうか?
そんな心配をしつつ先程聞いたグランクラスという響きが気になりスマホで調べたら飛行機で言うファーストクラスの事だと知った。
インターネットは便利だ。
知らない事を教えてくれる。
この人は厄介払い出来るからと最後に贅を凝らしたのだろうか?
隣にいる人物を横目で見るも当の人物は運ばれてきた軽食を開き楽しそうにしている。
単なる単に自分が使いたかっただけか、それか他の席が埋まってて仕方なくってところか…
またイライラと荒ぶる気持ちを抑えるよう出された飲み物に口をつけ洋軽食と言われた小さなお弁当を開きサンドイッチに手を伸ばす。
飲み物必要なかったな…
なんて思いつつも食べ進めれば残りは果物のみだ。
軽く食べる分にはこれくらいで十分なのだろう。
プラスチックのフォークで果物を指して口に運べば何やら隣から視線を感じる。
「なに?」
「え?いや、美味しそうだな…と」
この人の選んだ和軽食にはデザートは付いていないようだ。
本当にこの人は…
デザートをひとつ食べた後残りを"あげる"とぶっきらぼうに差し出せば"大丈夫"と初めこそは遠慮していたが最終的にはしっかり完食していた。
食べるなら始めから素直に受け取れば良いのにと思いながらも人の事を言えないと思った。
軽食を食べ終えると丁度大宮に到着する事を告げるアナウンスが流れ窓の外を眺めていると富士山が見えた。
ビルが立ち並ぶその向こうに山々が見えその中に悠然と佇むその山はココでも見えるのか、と柄にもなく感慨に浸ったりする。
そんな空気を払拭するように先程のアテンダントが
「お済みの物ございましたらおさげ致します」
と声をかけてくる。
どうぞと食べ終わった軽食と飲み物を渡すと私の視線に気付いた彼女が"お手数おかけいたします"と微笑んだ後
「今日は富士山が見えるのでお客様はラッキーですね、ここ数日は生憎の天気で富士山も隠れてしまっていたんですよ」
と続けた。
その後隣の人が初めてグランクラスに乗る事を告げると"それなら"とこの車両の楽しみ方を教えてくれた。
「まずはお客様が乗車されたデッキの他に後方の扉の先にグランクラスのお客様のデッキが御座います。後方には3枚のパネルがありまして奥から加賀春夏秋、そして前方のデッキに冬のパネルがあるんですよ、もし宜しかったらご覧になってみてください」
と人受けしそうな笑顔で教えてくれる。
私は曖昧に微笑みそうですねと相打ちを打つ。
二度と乗ることはないであろう車両だろうし後で写メでも撮るかと思いつつ隣の人と楽しそうに話をするアテンダントに少し感謝をする。
私とじゃこの人はこんなに楽しくこの列車に乗れなかっただろうし…
チラッと見ればとても楽しそうだ。
よかった。
お金を使うだけ使って楽しくないんじゃバツが悪い。
こんな風に気を使うのもきっと最後だろう。
気が付けば窓の外の風景はどんどんと緑に囲まれ気が付いた時にはトンネルをいくつか通り過ぎている。
トイレと告げ席を立ち後方に進みデッキに出たところ先程アテンダントが言っていたパネルが目に入った。
桜とウグイスだろうか?が描かれた春
桔梗と何かの魚が描かれた夏
松と月?が描かれた秋
「キレイ」
そして考える、冬はどんなパネルだったかと
だけどいくら考えても思い出せない。
考えるのを辞めてトイレに向かうことにした。
だって分からないのだ。
トイレの中でもパネルについて考える、だけど全く思い出せない。
トイレを出たところで思い出せるわけでもないがもう一度春のパネルから見ることにした。
折角だからと写真も撮ったりしていたら夏と秋の間の扉が開き先程のアテンダントが顔を出す。
アテンダント室の光はデッキや客室の暖色系の柔らかい照明と違い青白い照明が煌々と光っていた。
閲覧ありがとうございます。
北陸新幹線のグランクラスのデッキは北海道新幹線と違い華やかで乗り込むとウキウキします。
オムニバス形式で何処まで続けるか未定ですが
新幹線の中で起こるお話を書いていけたらと思ってます。