Welcome to the New World
暗い部屋の真ん中に二人の人物が向かい合って座って居る。一人はとても大柄な男、もう一人はそれとは対照的な小さな少年だった。
大柄な男が少年に話しかける。
「なんだ小僧、道にでも迷ったのか?ここは子供の来るところじゃない、とっとと帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな。」
少年は男の下品な挑発には聞く耳も持たない様子で言い返す、
「やる気があるなら早く始めなよ。」
「「生意気なガキが、一瞬で潰してやる。」
男が攻撃的な言葉を吐いた後二人はほぼ同時に口にする。
「dive on」
すると二人の上に大きなホログラムが現れる、そこには何もない円形のステージの上に二体の大きなロボットが立っていた。一体は肩から地面に届くような長い腕をしている。もう一体は、一回り小さな三度笠を被ったような頭をしている。二体は向かいあって座る二人のように対象的だった。
スピーカーを通した大きな声でアナウンスが流れる。
「それでは只今より試合を始めさせて頂きます。ルールは外部装備一切なし、先に相手のライフゲージを削りきった方が勝利、ドールのポテンシャルとプレイヤーのスキルだけで勝敗が決まるシンプルな勝負だ!」
「おい、なんだそのふざけたドールは。」
アナウンスの最中に男が少年に啖呵を切る。
「見ての通り俺のドールだよ。」
「なめやがってやっぱお前はこのエラスティックアームで一瞬で潰すことにするぜ」
「最初からそのつもりだったんじゃないの?」
男の気が立っているのも当然のこと、名称[ストロークロウ]この小さなロボットは無償で配られている練習用のドール、言うなればこのドールを使って勝負を挑むことを男が挑発して捉えたからだ。
「are you readily? fight!」
勝負を始める合図が部屋中に響く。
「生意気なガキが、二度とでかい口を叩けないように徹底的にシバキ倒してやる。」
男の操っているドールの腕が伸び鞭のように撓り少年のドールに迫る、しかし少年は寸でのところで躱しゆっくりと男の操るドールの方へと歩き出した。
「運が良かった様だが次は逃げられねーぞ。」
男は間髪入れずに攻撃を仕掛ける。しかし、攻撃は当たることなく全てが虚しく空を切った。
それでも少年の操るドールは止まることなく男の方へと近づいて行く、そこには迷いも恐怖も感じられない。
その常軌を逸した行動に男も恐怖を覚え始め攻撃が最初に比べ大振りになって行く。
「何なんだこのガキなんで攻撃が当たらねえんだ、何でこっちに近づいて来られるんだ。」
そしてとうとう少年のドールの攻撃の射程内まで接近を許してしまった。
「GAME OVER」
少年がそう言い捨てると今までとは打って変わって素早い動きで攻撃を始める。
「いったい何がどうなって」
男が状況を理解する前に男の操っていたドールは地面に叩きつけられライフゲージを全て失っていた。
「game end winner sora utsusemi」
「おいガキ!」
勝負が決まり二人の意識が戻ると男が少年に啖呵を切った。
「一体どんなチートを使いやがった。」
「チート?そんな物は使ってない、戦ったお前が一番分かっていることだろう。それとも自分の思い通りに行かない事は全てチートだとでも言うのかい?」
「クソが!」
男は立ち上がるとやり場のない怒りぶつけるように自分の座って居た椅子を蹴飛ばし少年の方を向く。
「ソラって言ったか、俺の名はフック覚えておけよ、次に会った時は完膚なきまでにねじ伏せてやる。」
男はそう言い残すと部屋の外へと歩いて行った。
「ファイトマネーだ。」
空は鉄格子越しにカードを受け取り裏に貼られたラベルを剥がしそこにあるバーコードを目で見つめる。
目で見たバーコードを首に付けた装置リンカーフォンで読み取ることができるからだ。
「2000クレジット ?勝利報酬は200000クレジットのはずだろ?」
空は鉄格子の向こう側にいる相手に文句を言う、当然だ勝負に勝った時に貰えるファイトマネーが最初に提示された額よりも少ない、少なすぎるのだから。
「貰えるだけでもありがたいと思え、だいたいおまえ未成年だろセキュリティに突き出されたくなかったら早く帰んな。」
「くたばっちまえピザ野郎。」
空は鉄格子の向こうにいる相手を睨み付け毒を吐いてその場を後にした。
「おーい、やっと見つけたぞ空。」
背の高いガッチリした少年が空に話し掛ける。
「土方か、首尾は?」
「バッチリ。」
「そうか、取り敢えず移動しよう。」
2人は簡単な遣り取りを終えると小さなマンションの一室へと移動した。
「それで俺に賭けて幾らになった?」
部屋に入り押し入れから食べ物の缶詰を取り出しながら空が尋ねる。
空はもらえるかどうか分からないファイトマネーは最初から期待しておらず自分にベットした金の配当金が本命だったのだ。
「210万。」
「そうか、それじゃあ半々で105万ずつでいいな。」
「良いのか? 賭け金だってお前が用意したのに。」
「かまわないよ、どうせ信頼できる相手がいなければ成立しない儲け話だったから。」
「そうか、そういえばダイブして直ぐに対戦相手と揉めていた様だったけどあれは何でなんだ?」
金の分け前の話が終わり、土方は自分の気になっていたことを質問する。
「それはそうだろ、仮にも腕に自信があるからあんな所にいたのに対戦相手の俺がオッズを上げるためとは言えハンデ全開で勝負を挑んだような物なのだから。」
「そういうことか、あっその人口肉の缶詰とってくれ。」
土方は空が並べた缶詰に一つに指を差し要求した。
「ほらよ。ソイレントバーもいる?」
「ああサンキューな。しかしお前全く動じる事無く向かって行ったよな。」
「腕に自信があるって言っても相手の動きが素人に毛が生えた程度のものだったからね。動きも単純で読みやすかったし。」
「それだけか? 普通あんなでかい腕が迫って来たら大きく避けるかガードの体性になるだろうに。何の肉だこれ。」
土方は自分の食べている人口肉の味が気になり缶詰のラベルを確認する。シマウマと書いてある、馬みたいなものだろうと考えながら土方は口の中へと運んでいく。
「ずっとずっと長い間そういう練習をしていたら段々と動じなくなってくる物だよ。」
「そういうものか。」
土方は口の中の物を飲み込みながら相づちを打つ。
「そういうものだよ、でも次があったとすればああはいかないかもね。あのフックって奴口は悪かったけど目は腐ってなかったから。」
「次があればもっと強くなっているって事か。」
「なあ空。......あのドールっていうのは俺でも動かせるのか?」