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今のお話

作者: 矢光翼

走り書き。何も起こらないのが好きです。いろいろ起こるのも好きです。

今回は、何も起こらないけどいろいろ起こってる系。


 人気のない道。

 と書いて、ふと指が止まる。

 人気(ひとけ)のない道と僕は伝えたいのに、人気(にんき)のない道と読まれてしまわないだろうか。

 

 いつの間にか、物書きを自称するタイミングを見失った。それもそうだ。一応小説を出版したものの、鳴かず飛ばずで箸にも棒にもかからずで、ひどく自己嫌悪によって自分を痛めつけたものだ。

 こんな自分が物書きなわけがない。偶然出版できただけの一般人だ。

 実際、僕の身内は小説を買って読んで感想をくれたけれど、そこから波紋は広がらなかった。諦めるにはいいタイミングだった。そもそも出版したのだって、小説を書き始めて八年経ったころだった。あの小説が八年の集大成だった、そう思うのが一番傷を浅く済ます方法だった。

 なのに僕は今でも小説を書いている。また自分の文章が多くの人に読まれることを夢見て。

 あの時と違うのは、「今何やってるんですか?」と聞かれた時の返答。

 初の出版前後は「小説を書いてます」「物書きをやっています」などと自信を持って言えたが、今では「フリーターです」「派遣の社員です」と後者に至っては嘘を吐く始末。

 結局、自信を持てていないんだ。今の自分に。

 そもそも僕は自分自身を「小説家」だと自称できない。一番自信があった時ですら「物書き」。その二つに何か違うものがあるかと聞かれれば答えに詰まるが、それでもきっと決定的な違いがあると僕は思っている。

 きっと僕が小説で生活を営めるようになれば、小説家を自称できる日がやってくる。当時の僕はまだ小説で生活だなんて嘘でも言えないほどの環境に居たため、とりあえず仕事として小説を書いている物書きを自称していた。


 何が楽しいんだろう。

 ふと、思ってしまった。身を削って文字を綴って。初めて小説を書いたとき感じた「謎に思ってもない言葉が出てくる高揚感」はもう当たり前となって。何を、楽しみにして小説を書いているんだろう。

 今もほら、人気がひとけなのかにんきなのか、自分の中では答えが決まりきってることを客観視して悩んでいる。そんなもの、ルビを振ってしまえばいいんだ。簡単な対処法がある。

 それでも、立ち止まってしまう。この文章は、果たして本当に人を楽しませられるものなのかどうか。

 自分が楽しいから書いていたはずの小説が、誰かが楽しいと思うために書く小説になっている。

 自分のためのものが、誰かのためのものになる。

 気付けば僕は、玄関から飛び出していた。


 これは僕の今のお話。どうか、どうか。事実として受け取らないように。これはあくまで「お話」なんだ。僕なんて存在しないし、小説家だ物書きだなんて細かいことにうじうじする事実も存在しない。

 玄関から飛び出した末、偶然見つけた夜景に少しだけ心が安らぐなんてこともないし、実は玄関を飛び出したりもしてない。けれどこれは「お話」なんだ。「今」を「お話」押し込めて押し込めて、「今のお話」にしたんだ。

 これは、誰のためでもない、僕のための小説だ。

走り書きでした。

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