【第3話】地に舞い降りた災厄
この世界は科学の世界だ
個人個人が携帯用端末を所持しており ほぼ世界のどこにいてもネットに繋がることが出来る
科学とは神の起こす奇跡を理解する為に始まり 人々の生活を豊かにする為に発達していった
生活に戦争に政治に宗教に 科学が広がるに連れ世界からは魔法や奇跡そういった
【オカルト】系のものは衰退 今では話のネタぐらいにまで落ちていた
そう落ちていた筈だった
あの日 ビルの屋上で目覚め 何も記憶が無い状態で見た あの黒い空を見るまでは
ドス黒く濁り雲なんて無いのに 太陽が登っているけれど光は地表に届かず太陽を直視することも出来る 夜のような 黒い空
夜の海を空に丸々浮かべているように
ドロりと粘り気がありそうな空
太陽は空の黒さに染められている
私はその日確信した
この世界は科学の世界では無かったのだと ただ人々が忘れていただけなのだと
私はこの世界に過去を思い出させてしまう存在なのだと
「対象を確認 直ちに確保せよ!」
ザッザッザッザッザッザッザッザッザッ
上空からライトが当てられる
思わず目を瞑ってしまうほどの光量
照らし出された重武装の特殊部隊がこちらに銃口を向け迫ってくる
人数は6人 全員が黒一色で装備を整えており 顔はメットとガスマスクのせいで見えない そしてその手にはアサルトライフル
一目見ただけで分かる
明らかに異常な殺気 いや怯え?
銃口が小刻みに震え 装備がカチカチと金属音を上げている
空には1機ヘリが飛びこちらにライトを当ててくる
思わず気が動転しそうになるも
必死に脳を回転させる 我ながらよくこんな状況に叩き込まれて 考えることが出来たと
自分を褒めてやりたい
「あの すみません 私 自分の事思い出せなくて 今どうしてこうなっているのかわか」
「こちらガルム02 捕獲対象と接触 対象に交戦の意思見られず されど印を確認
<マーカー>と断定 送れ」
先頭に立つ人間が銃を片手に無線に呼びかける
「こちら本部 了解 <マーカー>のナンバーは確認出来るか 送れ」
特殊部隊の視線が私の右手に集まる
「<マーカー>のナンバーはアハト 繰り返す
<マーカー>のナンバーはアハト 送れ 」
「了解 <マーカー>は能力を解放しているか? 送れ」
一瞬にしてその場の空気が凍りつくのが分かる 装備の擦れる音が一層大きくなり
目の前の特殊部隊員からはぜぇーぜぇーと息苦しそうな音がハッキリと聞こえてくる
仮にも特殊部隊なのだ 作戦中にそんな心が乱され まるで親に怒られた子供のように震えるなんていうことは無い
だが理由はあるのだ
訓練された部隊員が目の前の 異様な光景を見て心から震え上がらせるほどの理由が
その理由が分からず地面に座り込んでしまっている私 脚は震え 肩からはチカラが抜けガタガタと震えている もう涙が出てしまいそうで息苦しくて声も出せない
腕を動かそうとしても動かず……
ふと腕を横に振り払った感覚が脳内を支配する こんな状況でも腕は動くのかと ほんの少し笑いたくなる気持ちを 私は自分自身で踏みにじることになる
そう腕は動いていなかったのだ
少女は地面に座り込み 肩からは力が抜け
ガタガタと震え 腕は垂れ下がっている
そう垂れ下がっているのだ
さっきの感覚の正体 それは腕ではなかった 少女の背中から現れた黒い翼
黒ながらも若干透け中から紫色の光が漏れている その翼が6枚 闇夜に広げられていた
「<マーカー>は能力を解放中 解放時の黒の霧も確認 」
「了解 プランDで対象を無力化せよ 確保後 即時離脱 所定のルートで基地へと帰還せよ 目撃者はこちらで始末する」
「ガルム02 了解」
「あの! ちょっとまって!」
全精神を振り絞って声を出す
しかし少女の思いなど誰にも届かない
「んっ」
肩に違和感 チクリとした痛みが走り目線を自分の肩に落とす
ダーツの様なでももっと大きな矢が刺さっていた
(麻酔?)
段々と意識が失われていく 視界がぼやけ始め周りから聴こえる音もどんどんと遠のいてゆく 身体の感覚が無くなっていき
横に倒れる
黒い靴がこちらに近づいてくる
それが私の見た最後の光景だった
震えが収まった部隊員達は深い呼吸を繰り返し落ち着くと 倒れている少女の周りに集まる
「隊長 対象の無力化を確認 脈拍は正常」
少女に近づき腕を掴み 脈を測る
「しかしこんな幼い子が<マーカー>とは世界も残酷なもんだな」
小さく呟く隊長にその場にいた隊員全員が頷く
身長は144cmほど 肉付きも至って普通
髪は黒く 腰にまで届きそうな長髪 肌は白く透き通っており 歳は14ぐらいだろうか
一見すればただの少女 先程まで広がっていた翼は消え 少女の周りを包んでいた黒い霧も掻き消えている
しかし先程の光景は脳裏に焼き付き脳が未だに危険信号を送ってきている
この娘は間違いなく
<マーカー>
なのだと
「撤収急げ 作戦を完遂するぞ」
隊長の掛け声と同時に 部隊員は各自行動を開始した