表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

名亡しの亡霊さんメモ

作者: カラカラ

タイトルあまり関係ないです

ちょっと百合表現あり。可愛い程度のグロあり。申し訳程度のホラーあり

綺麗な人だ。美しい人だ、あのように見目麗しい御仁を見た事が今までにあっただろうか

あの方に会えるなら何でもしてやろう。僕をその目に移してくださるなら何だってしてやろう


私は死んでからその素晴らしさに気づき、亡霊として蘇った自分を褒め称えてやった。





*******




ねぇねぇ知ってる?この学校、「出る」らしいのよ。

ひそひそと口元を手で覆いながら囀り合っている学生たちはまたも生まれた怪奇に恐怖、というより興味を示し合わせ形ばかりにこわいこわいと言い身を震わせた。

言いだしのおさげにした髪型の女学生が「本当に怖いんだぞ」と言わんばかりに机に身を乗り出し、可愛らしい面に無理やり眉を寄せて人差し指を宙に向け熱烈に怪談をアピールする。

「首なしの軍兵さんですって」「アコーディオン弾きのおじさんとも聞いたわ」「絵本の中に閉じ込めてしまうって」「眼を見たら人形にされてしまうとか」「蛇みたいな見た目なんですって」


怖い、と歓声が上がる教室には何時までも廃れないこっくりさんをしたとおぼしき後のプリントにそれぞれ自由に描いた落書きが無邪気に描かれている。

黄昏時に話したのが不味かったのだろう、一人の興味深々な—――――――――普段は家鳴りすらすくみ上がってしまう臆病な子が「探検しよう」など言いだしたのは。

言いだしのおさげ髪の女学生、夢川織江が即座に止めた。黄昏時が過ぎると暗くなる。何が出るかわからない。

「それは止めるべきだわ、そもそもあなた一人でいけるの?」

「一人なんて誰も言ってないじゃない!皆…あいちゃんは来るでしょ?」

「そうだね!テンション上がってきたしここ丁度おあつらえ向き?って奴な場所があるじゃん!」

グループの中の言えば勇敢、言ってしまえば無計画なあいちゃんが反応してしまった。こうなっては止めるのに骨を折る。

「学校内に神出鬼没に現れる妖怪だったっけ?校舎の裏に潜む…なんだっけ?」臆病な子は存外七不思議の内容を覚えていないようだ、と夢川は思った。ここで語られる七不思議など所詮そんなものだが。

「校舎裏は蛇の幽霊が出るんでしょ!先生に怒られる前に一周くらいはしとこうよ!」

学生たちがきゃあきゃあと騒ぎながら薄暗い教室を立ち去る時、この時夢川は何が何でも止めるべきだったのだ。


*******


ひっきりなしに静かな怒りのメールが届く。

夢川も最初こそは強く止めていた。本当に出たらどうするのかと、または集団ヒステリーになったり別の事件沙汰になったらどうすると興味の虜になった同級生たちをとどめていたが。

好奇心は猫を殺す…

こうなっては仕方ない、同級生たちの興味を煽りすぎた自分も悪い。「彼」に怒られるのは私の役目かと暗くなりはじめた廊下を俯き歩く。少し前からは同級生たちの無邪気な笑い声が響いている。

それに紛れてまたもや怒りの説教メールが届いていた。今いる面子よりも距離が近い、言うなれば親友だ――――からの身を案じているもしくは別件の内容がびっしりと書かれている。素っ気ないながらも辛辣な言葉が並んでいる。

―――本当に何かあったらどうするの?あの人も本当だって言ってたでしょ?取り返しのつかない大事になったら、織江さんどうするの?校内だからって――――

「…………」

分かっている、とても危険な事をしている。こんな学校で人気のない時間帯に肝試し、もとい怪異にわざと遭遇したいなど。

暗くなってきた。もう帰ろう、と先頭の子に声をかけようとした時、目前の教室が勢いよく開かればぁんと乱暴な音がなった。学生たちが声を飲んで立ちすくんだ。

その扉を開いた人と対面しようと固まったが、待っても暮れてもその人は姿を見せず、勇敢な子が恐る恐る教室を覗いてみると人っ子一人いない空間がぽっかりと彼女らを待っていた時、いよいよ臆病な子がヒステリックな悲鳴を上げた。


悲鳴を上げながら散り散りになって帰った彼女たちの中、次の日登校しなかった子がいてもおかしくはないだろう。彼女たちは臆病だからだ。

七不思議を本気にした子もいるだろう。この学校は昔からそういった類の噂が多い。


臆病な子の行方不明届が出されたのはそれから二日経った頃だった。



*******


灰とも赤ともつかない禍々しい夕暮れ色の空が広がる廃校舎に乱雑に詰まれた机、壊れかけた椅子の中使えそうなものを発掘し、それに腰かけた少女はその時の肝試しに参加などしていなかった。

だから言ったじゃないか、と抗議の声を上げたのは参加しなかった、夢川にこんこんと説教メールを送り続けた古木つゆりだ。背中まである長く色素の薄い髪を二つに束ねている。普段何を考えているのか分からない幻想的な瞳は目前の二人に怒りを灯している。

「…私のせいだわ」

しょんぼりと頭垂れる夢川はいつもより小さく見える。153㎝より小さく見える。

対して、夢川の隣に――――軋む机の上に、偉そうに足を組み、別の壊れかけた机に乱雑に腕を放り投げている青年はどこ吹く風と今時ないだろう煙管をふかしている。古木の説教など聞きもしない風体だ。実際聞いていない。

夢川と古木が通う学校は七不思議、怪奇現象などいわゆるオカルトが有名だ。それ以外はごく普通だというのに、この青年は、この青年の周りは全て常軌を逸していた。

先ず、軍服とも学校の制服ともとれない上半身は学校指定の制服の上にまた大きな羽織をしている。これまた軍服じみた制服だ。下はゲタに袴と、初対面の時は随分なハイカラさんだこと。と皮肉に近い感想を抱いたものだが慣れてしまうとそれが「彼」の普通に思えた。

青年もとい「彼」の普通とはばさばさの長い一つに縛った髪が自在に動くことであったり、お気に入りの帽子がよくどこかに言ってしまうことであったり、夢川と古木の通う学校の裏世界に自由気まま(と言うと本人は断じて否定するが)に棲みついていたりする。

彼は怪異の存在で、夢川と古木の変わったお友達とも知り合いともとれない、素っ気ないが、どうしてか興味をそそられる七不思議のひとつなのだった。


「学生がまた一人消えただけで煩わしい。また僕がなんとかすりゃ良いんでしょう?」


二人が何か言う前に「お二人の大事なクラスメイトをぉ」と付け加える。

奇妙な風体の彼は、煙管を片手に語り始める。

「まぁ、気を落とさんで下さい。半分は僕の責任ですからぁ。お二人にそれとなぁく怪異の存在を有象無象さんらにちらつかせて近寄らせない様に仕向けてるの僕ですからねえ、ちゃんと効果は出てるんですからあんまり気を落とさないで。…あー、こほん。

奴が学校内にいるのは確かなんですけどねぇ、何分僕は探知能力とかないもんでねぇ。えぇ、そんな目で睨まないで。ケケケッ

だっていつも確かに僕は此処にいますよ。でもねぇ、僕は忙しいんですよ!偉い人にパシられてこき使われて、休憩室に入ったら学校内のお片付け…!おおひどい、もう少し労災くれても良いと思いますよ。ちょっとくらいゆっくりしたって罰はあたらんでしょう?お釈迦さまはとっくに僕を見限ってくださってますけど。

見つけ次第片づけてあげますから」

ねッと人差し指を、夢川が学生たちに怪談を披露した時になぞらえてぴしっと立てる。違う点は顔はニヤニヤと爬虫類のような眼で見下した様に笑っている所か。

何時もなら噂を流した数日後には「もう片付けました」と噂の元はいなくなっており、好奇心にかられた人が「危険地帯」に行っても大丈夫の筈なのだが、今回の怪異はよくよくまあ逃げるらしい。未だに彼から目をくらませているとは大したものだ。よく分からないけど。


「あの子の他にもその怪異に…えっと…行方不明にされた人達はいるんでしょう?私、その時は一緒にいる、から。」

行方をくらませた臆病な子に対する罪悪感からか、最悪の形は考えたくないようだ。古木も眉を苦し気に寄せて俯いているが、夢川の声に驚いたように顔をあげた。夢川と古木はごく普通の高校生だ。少しだけ変わった学校に通っているだけの。

「織江さん、まさかとは思うけど、おとりになるなんて言ったらもっと怒るからね」

「怒って良い」

「…駄目」

「だって、私のせいであの子が、皆もあれから凄く怖がって度々休んでいるじゃない。いくら怪談を広めて脅かしてもこういう事が起こるってわかってても、私何もできないんだわ…」

ならせめて、と呟く夢川を見て古木は癇癪を起したくなった。何が何もできないか、それならば私だって。その時私が居合わせたなら彼女一人に罪悪感を着せる事は無かったのに。あの子たちを怖がらせることも防げたかもしれないのに。

そもそもちゃんと人に害を与える怪奇を排除する仕事をしない「名亡しさん」がいけないのではないか!


夢川と古木は仲良しだ。仲良しすぎるかもしれない。二人でなら何処にだって行ける気がした。幼少から、卒業してもずっと一緒。アクセサリーは色違いの御揃い、文通は欠かさない。携帯を渡される前から手紙のやり取りをしている二人は電子よりも手書きのアナログを好んだ。思いが丸っこい文字に綺麗な走り書きに空白の落書きに宿っている気がしたからだ。

そんな二人は何時からか幼馴染と呼ばれたが、当人たちはそれは少し間違った名称だと思うようになった。


兎に角そんな仲良しな二人は当然の如く高校先は同じ学校を選んだ。理由の一つとしては、夢川の父が怪奇小説家で、その学校が丁度そんなおどろおどろしい噂に満ち溢れていたから「なんとなく興味が湧いたからそこにした」だけである。それから制服が可愛かったからかもしれない。

学校初日、七つ以上ある不思議を数えて二人で探検しに行ったのは必然だったのかもしれない。

学校に棲みつく亡霊、「名亡しさん」と出会ってしまったのは必然なのかもしれない。


「おとり作戦実行してくれるなら僕は大変ありがたいのですが、どうするんですか?」


情もへったくれもない亡霊「名亡しさん」が面倒くさげに言い放った。

名亡しさんがいつの間にか読んでいたくたびれた小さな小説にしおりを挟んだ。


*******



古ぼけたシルクハット、手袋に隠された魔の手、暗い渡り廊下に突然現れては絵本を読み聞かせる怪異。


そう噂される最近できた七不思議「語り部」

七不思議、噂の域は確実に超えている怪異であった。


*******



某日放課後、夢川は長い長い渡り廊下を一人歩いていた。心なしか表情は堅く強張っている。

生贄に捧げられた生娘のように渡り廊下の真ん中を一人寂しく歩く。肌寒い。

こういった経験は初めてではなかった。

名亡しさんは学校や、その付近に潜む人に害を成す怪異を片っ端から片付けるお仕事をしている、らしい。

夢川と古木が偶然名亡しさんと接触した事で、名亡しさんから(厳密に言えば名亡しさんの上司の様なひとから)怪異を拒む協力をしてほしいと申しだされた以来、こういった危険事には慣れている。

大丈夫、大丈夫、危険になったら名亡しさんがやっつけてくれるから


早くも暗闇が支配する渡り廊下の正面を、バカでかい紙のようなもの――――絵本と分かったのはその男が近づいてきたからだ――――――が声をかけてきた。怪異が、夢川の前に早くも姿を現した。

150の背丈の夢川よりも小さい、さながら小人の様だ。シルクハットを深く被って顔は伺えないが、首回りが異常に太い。爬虫類のようなごわついた皮膚から見える浅黒い肌に嫌悪感を覚えた。

因みにこの、最近街を騒がせている元凶たる『語り部』を間近で見て嫌悪感だけで済んでいるのは日頃の危ない体験のお蔭でもある。普通なら卒倒してしまうだろう。

「お嬢さん、絵本を読み聞かせてあげようか?」

男であるとは判別がつくが、しわがれた声は男とも女とも例えようがない。夢川が知れず身震いをして、後ずさった。

「読み聞かせてあげようか?」「怖がらなくても良いんだよ」「私は皆を怖がらせてなんかいないよ」

前へ、前へ、歩を進めてくる人の形をした異形は夢川を餌食にしようとしているのは明らかだ。

これは、因果応報、自業自得、どうともとれない。ただ謝罪をしたかったから、自らを危険に晒している。

例えどんなに馬鹿馬鹿しい―――名亡しさんならそう言うだろうな――――


「貴方が『語り部』ですね」


どこか気取った声が聞こえたのはすっかり暗くなった窓硝子の向こう側からだった。


*********


「娘さんが一人寂しく歩いてたもんだから、読み聞かせをしてあげようとしていたんだよ。何だい、あんたは。出てってくれないか」

「出ていくのは貴方の方でしょうがぁ。僕の事を存じないなんて貴方この街に来たばかりの新参さんですね?良いご迷惑ですぅ」

4階の窓の向こうから鮮明に聞こえてくる名亡しさんの声は頼もしくもあり、不気味でもあり。

「夢川さんありがとうございますぅ、ここからは僕の仕事だからすっこんでてください」

梨院さんは既に呼んでいますので。

『語り部』からすかさず距離を取って一目散に走り出す。廊下を突っ切れば梨院さんがいるはずだ。名亡しさんの上司たる色々と不明だが頼りになる彼(彼女)が傍にいたらもう安心だからだ。

「これで、解決するんだよね…?」

暗い校舎で泡のように呟かれた不安は瞬く間に消え去った。


********



「貴方が消した生徒さん達を早く返してくださいよ。貴方のせいで僕は過労死寸前なんですよぉ」

『語り部』はあるのか無いのか分からない首を傾げて名亡しさんを見やる。

「わたしゃぁね、子供に夢を与えたいだけなんだよ。この学校の子供たちはどこか虚ろな目をしているから、私が夢の中に入れてあげたっていうのに。何だい、あんたは子供から夢を奪おうってのかい」

「はっ。夢ェ?」

名亡しさんが鼻で笑う。お前の魂胆など御見通しと言わんばかりに。

「貴方は見た所。その絵本とゆーか紙芝居の中に人の魂を取り込む事ができる様で?それのどこが夢を与えるってんでしょうねぇ?お綺麗な事は言いますけど自分の力を蓄えたいだけでしょお?

面倒になる前に貴方を極楽浄土の地獄へ案内してあげますよ」


名亡しさんの顔がぐにゃりと曲がった。刹那、顔が首が変形し――――――首が取れた。取れた首がめくれた。血管が、脳が骨が露出したと思えばどんどん変形していく。変形した形は内臓やら人の中身をつぎはぎして作られた大鎌だ。巨大な目をギョロリと動かして大鎌が喋る。

「貴方、邪魔なんですよ。この『名亡しさん』の存在すら知らない馬鹿な妖魔が、一丁前に怪異なんざ起こしてるんじゃあないですよ」

首の無くなった名亡しさんの手に構えた大鎌が牙をむき出しにして言う。

「さっさと死ね」

首だった鎌が舞い、語り部を頭上から真っ二つにした。




********



聞いた?聞いた?ねぇねぇ聞いた?語り部…?なぁにそれ?

「違うわよ、語り部なんてもう古いわよぉ。校舎の裏に現れる…なんだっけ?」

「蛇の妖怪でしょ?もうあんたってば忘れっぽいんだから!」

「そうそう!じゃあ今日は探検…」


「駄目」

「そう…駄目」


間髪入れず夢川と古木がシークレットを出す。行方不明だった臆病な娘が戻ってきて数日経った頃だった。

最初こそ皆怯えていたものの、喉元すぎれば何とやら。この学校には怪異が日常的すぎて、オカルトには無意識に慣れ事になってしまっているらしい。

この前の事件、語り部事件はあっけなく皆から忘れ去られて、新しい怪談を探すのに躍起になっている生徒たちは行方不明やら事件に直面した生徒たちもあの時の恐怖などどこ吹く風だ。

やれやれ、と古木と夢川が肩を竦める。これではまた新しい怪談を名亡しさんから提供してもらわないと、勝手に作られる怪談で無駄な被害を被ってしまう。

「織江さん、今日の放課後…」

「ええ、行きましょ。名亡しさんのとこ」


名亡しさんの棲みつく学校は、今日も怪異に満ち溢れている。


ジャ○プの読み切りを目指しました。撃沈しました

登場人物は異常な程いるので気まぐれに更新していきたいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ