第六話 始点
ダンディさんに先導されて辿りついた先は、中々立派な屋敷だった。
もっとみすぼらしい、あばら家とか寺みたいなの想像してたよ。
メンゴ!
移動中は、ダンディさんの周りで忍者たちがずっと警戒してた。
周囲に向けてのみでなく、俺に対する警戒も続けてたな。
御苦労さん。
俺は特に警戒するでもなく、淡々とついてった。
先に気絶した子は、後ろの方で誰かに背負われてることを確認。
生きてるなら後でどーとでもなる。
だから今はどうでもいい。
「こちらに。」
ダンディさんが戸を開け、中に入る。
俺も躊躇なく続く。
そしたら周囲の気配が波打った。
軽くざわついてる。
そんなにビックリすることかいな。
ってまあ、良く考えたらそうかも。
俺だって、もしここが見知らぬプレイヤーの陣地だとしたら最大限警戒する。
むしろ入らんわ。
相手がNPCであると言う、自分の優位性があって初めて出来る態度だな。
ダンディさんはそんな俺を見て軽く頷くと、先へ進む。
うおーっ
ダンディさんマジかっけぇー。
流石重要NPC(当確)なだけはあるな!
俺はダンディさんの後ろを、いっそ暢気にテクテクとついて行った。
* * *
「お座り下され。」
ダンディさんに促されて座ったここは、板張りの広間。
胡坐をかいて座るとひんやりして気持ちいい。
俺と向き合うように座るダンディさん。
その左右に、眼光鋭い壮年の男たちが陣取る。
きっと俺も、見た目は同じように鋭い眼差しをしてるんだろう。
なんせ、キャラをセッティングした時に【鷹の目】を選択したからな。
【鷹の目】
鋭い眼差しで全てを見通す。
パッシブで視力向上が付いてて大変お得。
但し、強面になるので好みが別れる。
話が逸れた。
気が付いたら忍者の皆さんに囲まれてる。
問題ないけど、居心地は良くない。
しゃーない。
ちょっと落ち着かせるかー
「喝ッ!」
唐突にイケボで叫ぶ。
ダンディさんを始め、周囲がビックリするのを尻目に俺は落ち着いた。
「喝」は、大声で叫ぶことで自分の昂った精神を抑制する。
また、精神異常にも耐性効果があったりする。
こんなんでも立派な武技だ。
武技であるから当然イケボで叫ぶ。
例外は無い。
場の空気読まないにも程があるが、仕方が無かったんだ……。
「済まなかったな。……話してくれ。」
なんでもない風を取り繕い、敢えてこっちから話を振る。
実際に俺はとても落ち着いてる。
しかし冷静に考えると、流石にちょっとと思わなくもない。
いや冷静なんだけどね。
これはゲームだ。
相手はNPCだ。
俺は冷静だ。
……。
よし、問題ない。
さあ、と改めてダンディさんを促す。
冷静だけど冷静になってはいけない。
そんな矛盾を振り払うには、入り込んでロールに没頭するのが一番だ!
呆気に取られてたダンディさんが、漸く我を取り戻した。
マジごめん。
コホンと咳払いを一つ。
話し始めた。
「貴殿の力量を見込んで、頼みがある。」
* * *
俺が今居るのは当然信州。
設定では信州出身としてるが、敢えて暈かしといた。
具体的にどこと言われても困るからな!
で、この信州は今何かと騒がしいらしい。
基本的にこの辺りは甲斐の武田に臣従しているが、北部はそうでもない。
そして北部と繋がりの強い者たちが、色々策動していると。
更に越後から長尾の手が伸びて来つつあるとか。
へぇー。
甲斐武田って言うと武田信玄か。
越後の長尾は多分、上杉謙信のことだろうね。
やっと有名な名前が出た。
そんな時代設定なんだなー。
で、肝心の頼みってのは?
敵情視察、だってさ。
視点切り替えスタイルを止めてみました。
次回の更新は、二週間後くらいを予定しています。