第五話 ドロップアウト
視点が切り替わりますので、ご注意ください。
この時代に生きる全ての者たちは、それぞれの分限で懸命に過ごしている。
そんな白磁のような時代の流れに、一滴の墨汁を垂らすが如きことが発生した。
ただ白のみであった所へ、僅かなりと言えども黒が入り込めば最早、白へ戻ることは有り得ない。
与える影響は滴下された箇所のみに留まらず、広がり続ける。
信濃国佐久郡周辺を舞台に繰り広げられる暗闘は、まもなく一つの区切りを迎える。
本来は別の形になる筈であった流れは、既に変わってしまった。
変化の始点は信濃国、その影響は全国へ。
しかし、今後如何な流れになるかは未だ定まっていないのであった。
………。
……。
…。
* * *
どうやら私は選択を誤ったようだ。
眼前の不審者は、最早完全に私を殺しにかかっている。
腰の刃を抜き放ち斬撃を繰り出す。
それは見事な早業で、気付いた時には既に手遅れだった。
左足が、無い。
痛みがどうのとか、そんな気持ちにもならない。
只々、無念であると。
片足を犠牲に、辛うじて一撃を躱したものの二度目はないだろう。
失血はどうしようもないし、右肩・腕と左足を失ってしまってはどうしようもない。
意地でも諦めないとかそういう問題ですらない。
ああ、潔く認めよう。
私の心は折れた。
生き延びることを、諦めた。
せめて情報が漏れることがないよう、何も言わず土に帰ろう。
そうすることしか出来ない我が身の不甲斐なさを呪う。
やがて不審者は刃をこちらに突き付けて、今にも止めを刺さんと動く。
その様子を他人事のように眺めながら、私は意識を手放した。
………。
……。
…。
* * *
一撃目は躱した、と思ったら足を一本持ってってしまったようだ。
ちょっとやり過ぎたかなー?
なんて思いつつ、一応流れで小太刀を突き付けたらアッサリ気絶してしまった。
貧血かな?
死んでない、とは思うが。
……おっと、何やら気配を感知。
何時の間にか四方を囲まれとるがな。
コイツを助けに来た奴か?
先手を打ってもいいんだが、ここはひとつ初手は譲ってみよう。
プレイヤーじゃなさそうだし。
「……貴殿が、これをやったのか?」
おや。
囲まれたはいいが、殺気を飛ばさずに話しかけて来るとは意外な。
しかし、なかなかダンディな声してんな。
「我らは出浦が手勢。貴殿は、……望月や真田の者ではないな。」
ちゃんと目を見て話してくれるダンディさん。
良い奴な予感。
なので、頷いておく。
俺は望月でも真田でもない。
所謂その他の勢力と言う奴だと思うしな。
「貴殿の足元に倒れているのは、恐らく望月の者だ。知り合いか?」
首を振る。
望月も何も、知らない子だ。
「ならば、周囲に倒れていた者たちは?」
知らん。
同じく首を振る。
「ふむ。……奴らは禰津の者らよ。」
そう言われても分らんので黙っておく。
いや、別に喋ってもいいんだけどね。
何となく、最初にそうしたせいで喋り出し辛いんだ。
それに、意思疎通は出来てるし問題ない。
おっと、これはクエストのちょっとしたトリガーな可能性があるぞ?
クエストで大切な、ユニークNPCかも知れない。
その可能性に思い至った今、俺は彼を重要人物と位置づけた。
もし違ったら、その時どーにかすりゃいいさ。
「宜しければ、我らが屋敷に御足労願いたい。如何?」
間髪入れずに頷く。
すると、ダンディさんは瞠目してた。
そんなビックリせんでも。
「いや、有り難い。ならば、ついて来て頂きたい。」
はいよー。
っと、気絶した奴はどうしようかな?
そう思って視線を投げると、ダンディさんはすぐに気付いてくれた。
「望月の者も同道させよう。自由には出来ぬが、治療はさせる。宜しいか?」
頷く。
腕と足に一見致命的な損傷があるけど、俺の忍術を使えば十分回復可能な範囲だ。
するかしないかは、まあ流れで決まるだろう。
ひとまずは、情報収集も兼ねて重要NPCであろう、ダンディさんの屋敷へ行くとしよう。
コメディ風のタグを外すべきか悩み中。
もうそろそろ、プロローグ(風)も終わります。