第四話 フリーズ
視点が切り替わりますので、ご注意ください。
望月氏は、信濃の名門とされる滋野氏に連なる一族である。
真田や禰津なども同族で、少なからず誇りと連帯感を持って生きていた。
しかし、世は既に戦国も最中。
己が生き残るためには、同族と言えど蹴落とすのも已む無し。
例えそれが名門とされる同族同士、尚且つ同じ主君を頂く同輩だとしても……。
………。
……。
…。
* * *
突然奇声を発しながら現れた男は、襲撃者たちの命を容易く刈り取ってしまった。
助けられた形になったが、奴が私の味方だとは到底思えない。
なぜなら、私の知る限り里の一族や同盟衆にはこのような者は居ない。
これほどの手練れ。
近くに居れば、直接知らないまでも話くらいは聞いているはず。
つまり、紛うこと無き不審者と言う訳だ。
他国衆。
それも、越後や甲斐ではない。
その可能性が頭を過る。
──不味い。
己は既に死に体。
利き手は動かすこともままならず、そも起き上がることも困難だ。
それでも諦めることは出来ない。
刃を握りしめる。
肩に激痛が走るが、そのお陰で気を散らせずに済む。
まずは、情報だ。
「貴様、何者だ?」
まっとうな答えが返ってくることは期待してない。
それでも何らかの反応があれば、糸口くらいは掴めるかも知れない。
さあ、どうでるっ?
………。
……。
…。
* * *
まあ、いきなり友好的な態度を取られるとは流石に思ってなかったよ。
警戒されるのも当然だと思う。
NPCじゃなくても当たり前に警戒するだろう。
俺だってそーする。
しかしまあ、刃を握りしめて誰何してくるとはね。
激痛が走ってるのだろうことは表情を見ればわかる。
しかし何者か、かー。
こっちが知りたいわ(笑)
なんせ俺、信州某所の隠れ里を拠点とする凄腕ニンジャとしか設定ないからな。
プレイヤーネームも、あんま名乗りたくない。
このゲーム、クエスト中に偽名を名乗っても余裕で進行する。
そのままクリアすることも出来る。
自由度が高いと言うべきか、適当と言うべきか。
まあ実際ゲームを楽しむに当たり、本名である必要はないな。
偽名であっても、自分と判別出来れば問題ない。
てか、NPCさんは多分俺の名前が知りたい訳じゃないよな。
うーん?
……。
……止めたっ!
止め止め、考えるだけ時間の無駄だ。
迷ったら、とりあえず猪突猛進。
これで大体どうにかなるっ。
今までもそうしてきたし、多分これからも変わるまい。
プレイヤーの実力は、少なくともNPCに対しては絶対の優位性がある。
そのせいで、この狂った方針でもなんとかなるのさー。
その結果、デストロイになっちまうかならないかはその時次第だわな。
さてそれじゃ、ヤろうかね。
腰の小太刀に手を掛けると、NPCさんの目が見開いた。
同時に、無事な腕と脚を無理矢理動かそうとしてる。
おーおー、頑張てんなー。
その意気に免じて、少しばかり手加減してやろう。
「龍鋭塵ッ」
イケボで叫んで武技を発動。
小太刀を抜き放ちざまに、刀影軌道の形をした気弾を飛ばす。
その形には、龍の顔がうっすらと見えたり見えなかったり。
込める気の量によって変わると言われてるが、実際のところは不明。
変なところマスクデータにしよってからに。
あとこれな、通常は敵の首から胴体にかけてをザックリやっちゃうものなんだ。
でも敢えて手加減して、少し斜め下に向けて発射してみた。
それでも上手く避けなきゃ、胴体は泣き別れになるかもな。
肩とか負傷してる奴には厳しいかも知らんが……。
なに、弾速も遅めに設定した。
上手く動けば、きっと避けれるさ!
コメディ風よりも、残酷風が強く出てしまったかもしれません。
次回の更新は一週間後くらいを予定しています。