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RIDE THE IRON HORSE  作者: 凡骨のヤマダ
9/9

9.(著:ヤマダ)

 嘗てこの坑道で14人の死者を出す事故が起きた事があった。山の中にあった石灰層を長い間かけて雨水が削り取った鍾乳洞、そこにそのまま雨水が溜まり出来上がった地底湖の、その中腹を抜いてしまった為に起こった水害。水を食い止めていた堅い岩盤は蟻の一穴たる堀口から大人2人が余裕で出入り出来る穴を開けてしまったと言う所からいかに水の勢いが凄まじかったかが分かるだろう。

 昔の惨事を土壇場の今に考えているのは、頭の中からあの聞きなれた声が突然湧き出して飛べ、飛べ、と囁き掛けて来るのでそこから着想を得て、掘削機を高所から突き落としてしまえば良いと思ったからだ。いかにキャタピラーを履いた高馬力の掘削機といえども滑りやすい石灰が澱と溜まった湖を登り上がる事は難しいだろう。

 目の前には壁が迫っていた。貴族が死者の出る事故を起こした元凶など見たくないと怒り、さっさと直させたせいで瓦礫を無理矢理積み上げた為にゴツゴツと固そうに見えるがその実は強く押すだけで崩れ落ちる雑な作りとなった壁。だからこそ今は有難い。ブレーキなんて要らない、スピードを上げてこのまま行け、行けるんだ。壁は破れる。

 バゴッという些か爽快感に欠ける破壊音と共に壁を突き破った勢いそのままバイクは宙へ踊り出す。興奮からか、まるで時間が引き伸ばされているような感覚で滞空する。そうだ、この重力を引き千切った臓腑の浮遊感、空気に乗るような不安定な疾走感、此れだ!此れこそが飛翔だ!地を這うのではない、大地の軛から解き放たれた自由の証だ!雄叫びの様な歓声が喉を震わせる。

 同時にヘッドライトに照らされた正面だけしか見えていなかった鍾乳洞が蒼い光で照らし出された。蒼い光を出す光源なんてあっただろうか?

 しかし光のお陰で着地は問題無く行えた。

 なんという事だ。今更にこの蒼い光が自分から発せられている事に気が付いた。否、自分には体から発せられるあの声が光っている様に見えている。どうやら口に含んだあの石が溶けて消えたときにもしやと思った通りの事が自分の体に起きているらしい。

 壁の穴へ飛び込んで行くという頭のネジが飛んだ諸行だというのに流石に此処まで逃げ切って来た猛者達は難なくトップスピードで地底湖を飛び越えて見せた。だが、やはり光る自分を見てはギョッと目を剥いてくるのは仕方がない事なのだろう。鍾乳洞全体を照らせる光源が有るのはいい事なので甘んじて好奇の眼差しは受けるとしよう。

 続いて入って来た追っ手達は恐れたのか勢いが足りず次々と地底湖へと沈んで行った。中には此方へ届く者も居たが着地を狙って殴り飛ばされていた。空中では回避行動は取れないのだ。湖に落ちた者もバイクを捨てて這い上がってきたが蹴飛ばされて水へ帰って行った。水中では回避行動は取れないのだ。

 正に一網打尽としていたら、遂に掘削機が入り口を広げながら飛び込んで来た。しかしやはり重く速度が足りない上に表面積が広い掘削機は狙い通り湖の底へと沈んでくれた。目論見通りに大物を撃破できた喜びから皆で拳を突き上げ勝鬨を上げる。ざまみろ!

 勝利の余韻に浸っていると不意にギョリギョリとくぐもった不吉な金属の擦れる音が鍾乳洞一杯に鳴り響いた。嗚呼、そうか、なんという事だ、此れは勢いが足りずに湖へ落ちたバイクの発している音だ。此れは積み重なったバイクを踏み潰して滑りやすい湖底を登ってくる音だ。此れは掘削機の脅威が無くなっていない証だ。

 急いでバイクを降りて湖畔へ駆け寄ると、もうすぐ掘削機の頭が水面へ出てくる所だった。なんとかしなくては。手段は不確か、だが有る。正直使いたくないけど選り好みをしている暇もない。さっきから発している光は魔石を動力として使用した時に発する光とよく似ている。否、回りくどい考えは止そう。そうとも、この光は、この声は、この波動こそは魔力だ。自分は今魔力を放出している。そして魔石の様に蓄積しただけではない。体の奥から絶えず声が生まれている感覚からして自分は魔力を生み出している。そしてこの声が魔力だと言うのなら自分はずっとこの声を聞いてきた。発音は知っている。そして今声を出すための喉を手に入れた。

 発光を止めて胸一杯に波動を集める。熱いモノが胸から喉へせり上がって来て堪らない所を無理矢理押し溜めて鼻で深呼吸して勢いをめい一杯付けて解き放つ。


「ぅっぶぉぉぇえええええええええええ!」


 口から放たれた魔力の奔流は水を掻き分け掘削機のカッターフェイスへと叩き込まれる。物体に触れた純エネルギーは最も変換し易い熱へと変わり、あっという間に金属を赤熱させ熱膨張で弾けるように溶かし散らした。狙いの掘削機を焼滅させても魔力の勢いは止まらず、斜め下へ打ち出された事も有って湖底を穿ち抜いた。

 魔力を吐き出し終わった後、濛々と立ち昇る水蒸気に視界を奪われていると、水の流れる音が響き、視界が戻ると湖はすっかりと干上がってしまっていた。嗚呼、我ながら何と恐ろしい力だ。自分がまた人間から遠ざかった事を嫌でも理解する。今度は妙な声が聞こえるなんて無害な差異に止まらない悍ましい変質だ。これからはより一層人らしく振る舞うよう心掛けなければ。

 無言のままガランの後ろに乗る。今喋ればお互い碌な言葉は出ないだろうから。きっとガランともこれでお別れだ。こんな化け物と関わり合いになりたい者など居ないだろう。今なら魔石が無くてもバイクを動かせるだろうから、約束を果たして貰ってから今後どうするか決めよう。取り敢えず目に見える最大の障害は排除したんだ。自棄っぱちに盗人猛々しく、この坑道を凱旋しようじゃないか。



口からビーム出せた満足。ビームのアイディアをくれた相方に感謝。 ヤマダ

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