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RIDE THE IRON HORSE  作者: 凡骨のヤマダ
5/9

5.(著:ヤマダ)

 目が覚めた時に襲い掛かって来る疲労と倦怠。体に力が入らずまるで未だに眠りの中に微睡んでしまっているようだ。はて?何故、不確かに意識が戻ったのだったか。そうだ、体を揺さぶられ、頬を張られて声を掛けられたからだったか。

 目を開くと視界一杯に広がる不機嫌そうな赤ら顔。この顔には覚えが有る。確か前に金をせびって来た男だ。鉱夫の給金は保障されていて、訴えさへすれば奪われた金を犯人から返金して貰える制度になっている。この法だけが鉱夫を人気の職業たらしめる唯一の存在と言って良い。しかし男はその法を煩わしいとこき下ろし、貴族の陰口を聴き、皇帝への不満を愚痴って来て賛同する様に畳み掛けて来た。そしてその後にだから金を貸してくれなどと会話の内容に脈絡のない要求をして来たから覚えていた。

 男の顔は怒っている物だが、その目に浮かぶ色は笑い。それもべったりとした嗜虐のほくそ笑みだ。嗚呼、知っている。此れは卑怯者が自分に罪が掛からないで相手に危害を加えられる時に浮かべる顔だ。しかし何故?此処で殴れば男は咎を受ける筈なのに。

 直近の事情が整理し終わった事で出来た意識の空白に、今迄無意識だった音が滑り込んで来た。怒声じみた歓喜の咆哮、そう、バイクのエンジン音だ。それも一台や二台じゃない。寝起きの回り切らない頭が一気にフルスロットルになる。バイクだ!凄い、こんなに沢山が近くに!見たい、見たい!大きいのか小さいのか、フレームはネイキッドかカバーか、馬力は幾つなのか!

 興奮で普段より頭がよく回る。そうか、今この鉱山は襲撃を受けているのだろう。バイクの中の魔石が弱い。きっと粗悪品を詰めているのだろう。だから狙いはきっと魔石、ついでに金品もと言った寸法だろう。そうなるとこの男が逃げていないところが気になる。こいつは口先も頭も悪いが悪知恵はそこそこ良い奴だ。襲撃された時点で他の奴等の金をかっぱらって逃げ出す筈だ。こんなところで暴力を振るって無闇に時間を浪費するなんておかしい。いや、そうだ一つこの状況に説明がつく可能性がある。この男、向こうに着いたのだろう。裏切ったのだ、この鉱山をここの所有者たる貴族を。愚かな男だ。他所の盗っ人に荒らされるのと飼い犬に手を噛まれるのでは屈辱が雲泥の差だ。この男は何時もそうだ、自分が奪う側に居ると無条件にその地位に居続けられると考えているのだ。だからその浅はかさに付け込まれる。きっとこいつに待っているのは襲撃の責任を押し付けられる生贄だろう。この襲撃を計画したのは冷酷で頭の良い最も危険な類の人間であろう。

 そんな事を考えていたらいきなり男が殴り倒された。相手を見ると、悪童と言った風体に悪魔の様な笑みをニヤリと浮かべている。薄汚れた顔と服装から性別が分かりにくいが肌と髪質を見るに女の様だ。そいつは恭しく無事を確認して来る。その自然な所作からつい警戒が緩むのを感じるが、きっとこいつは助けた事を演出したかったのだろう、だがタイミングが良過ぎた。男の裏切りに気付かなければころっと騙されそうだが、男が有る程度殴り、そろそろ命の危機を感じ始めるという時に颯爽と助けた。きっと恩を売ったと思っているだろう。否、ばれていても助けた事実が得られれば結果は同じか。実際今この人に対する敵意を抱けないでいるのだから。

 寝床から立ち上がる。殴られた腹や腕が引き攣る様で立ち難い。だが問題は無い、今更こんな痛みで動けないなどあり得ない。無理に動かすからカクカクとした不気味な動作に成るのはご愛嬌だ。怖がらせてしまったかな、助けてくれた人が少し引いてる。どうにか挽回しなくては。この人はどうして助けてくれたのか、襲撃なのだからモノをさっさと盗れば良い。彼奴を利用してまで此処に来た理由、鉱山の警備体制。嗚呼、そういえば倒れるほど掘ってしまったから今日の魔石は未だ輸送されて居ないのか。往復する護衛料より粗雑な馬車の貸し賃の方が安く済むから、貴族様は今頃商人の馬車の借り上げに奔走している頃だろう。こういう時、魔石は何時もと違う場所に隠される。そして襲撃の取り分は初めに見つけた者に色が付くのが常識。成る程、魔石の場所が分かる奴に案内して貰うのが一番確実だ。

 これが役に立てる喜びなのだろうか?それともバイクに乗れるかもしれない喜びだろうか?硬い表情筋が引き攣ったけど、心から笑えている気がする。さあ行こうか、アリの巣の秘密の横穴、女王の部屋へ。


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