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RIDE THE IRON HORSE  作者: 凡骨のヤマダ
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4.始めるぜ(著:凡骨)

 出稼ぎ坑夫達が騒がす酒場の一角。見知った数人の悪童と席に着いていた俺は、堪えきれず喉を鳴らすように笑みをこぼした。


「いけないなあ兄さん達、こんな場末の酒場でンな話しちゃ。どこに悪人が潜んでいるか分かんないんだから」


 呟くような俺の言葉に、仲間達もにやにやと笑う。

 さて、ここで上手い具合にカモを見つけて接触しなくちゃならないが……

 見回せば、良い感じに酒の回ってる奴がちらほら見える。その中でも特に、カウンターに座って一人酒に暮れる細身の男。その雰囲気は孤高なんて高尚なもんじゃない、しみったれた負け犬のオーラ。

 俺はそいつに近づき、口を付けてない酒瓶を目の前に置いてやる。


「よう、景気良さそうじゃん」

「あん? 何だお前?」

「いや、ちょっと坑夫ってのに興味あってよ。話聞かせてくんねえかな。こいつはそのお代ってわけだ」


 男は俺の顔と瓶に視線を往復させた後、仏頂面ながらもこの酒に手を着けることにしたらしい。

 本題に移るまでに、俺はしばらく他愛のない話で場を盛り上げようとしたんだが、なるほど、こいつが一人で酒を飲んでた理由がよく分かるよ。プライドが高いくせして無能、話の中身は愚痴ばかり。酒を不味くすることに関しちゃ一級品の雑菌みてえな野郎だ。

 ただまあ、そんな性質のせいもあって(それと酒のせいか)、こっちが聞いてもいない情報をポロポロと零す。

 それによると、ここ最近の好景気は、たった一人のガキによるものらしい。体格から何までおおよそ坑夫としては使い物にならないはずなのに、正確に魔石を掘り当てる天賦の才のようなものを持っているという。


「へえ、そいつは是非とも会ってみたいな。ここには来てないのか?」

「ああ、あいつ弱いくせに調子乗ったからな、今は病室でお寝んねだろう。その直前に見つけてた魔石帯のおかげでこっちは大儲けだ。馬鹿な奴だぜ」


 こいつの語り口から察するに、どうやらそのガキをあまり良く思っていないようだ。

 少しそこをつついてみる。


「なんだ、あんたそいつのこと気に入らねえのか?」

「そりゃそうだとも、あんな無愛想なクソガキ! あいつは俺の後に入ってきた。面倒見るように言われたからそうしてやったのに、あいつは俺を全く気にもしないで、しかもそれで結果を出し続けた。今じゃ俺は無能扱いだ! 金が必要だから今は何もしないでやるが、いつか酷い目に遭わせてやる!」


 もはや後半は俺に言ったわけでもない、単なる劣等感からくる怒りの吐露だ。

 声が大きくなったので周囲を見回すが、周りは歌え踊れやの乱痴気騒ぎで、俺たちに注目している奴なんて一人もいない。

 それを確認して、俺は声量を落として本題に入る。


「そのいつかってよ、今日これからにしちまわないかい?」

「は? 何言ってんだあんた……」

「あんたはどうやら坑夫って仕事自体に愛着無いみたいだし、適任だ。今の職を辞める事にもなるだろうから」

「おい、訳が分からないぞ。ちゃんと一から話せ」

「話してもいいが、ここから先は他言無用、後戻りもできない。でも成功すりゃ、俺もあんたもこの先十年は遊んで暮らせるだけの金が手に入るぞ。どうだ?」


 男の目には一瞬、躊躇いのようなものが浮かんだように見えた。しかし一口酒を呷ると、腹を決めたように呟く。


「詳しく、聞かせてくれ」


 やっぱこいつ見込み通り、とことん屑野郎だ。親近感沸くね。




 町から少し離れた小さな林の奥、『アリヅカ』の麓。粗末な掘っ建て小屋のような抗夫用の宿泊施設はそこにあった。とても金子に困った者が忍び入るような様相ではないとは言え、何の警備も無しという訳にもいかない。他にも幾つかの必要な施設を一つに詰め込んだその敷地は、馬車二台分はある、内容の割に立派な門が閉ざしていた。

 夜も更けきったその時間、2人の警備員の片方が大きな欠伸をするのも仕方がないと言うもの。少なくともこの場に彼を責める者はいなかった。


「今日もスラムの不良共はブンブンうるさかったな。だいぶ近くを走ったみたいだ」

「ああ全く。全員事故って死んじまえばいいのに」


 その時、森を抜ける道の先から何者かが歩んで来るのが見え、2人は立ち上がって少し姿勢を正すが、それが好景気に浮かれて町へ酒を下しに行った連中と分かると、すぐに元のだらけた雰囲気に戻った。


「よう、なんだ今日は誰も戻って来ないもんと思って……ん? 誰だよそいつ」


 肩を組んで歩み寄る2人組の片方には見覚えがあった。しかしもう一方の半分眠りこけている酔っぱらいは、どう警備員の2人が記憶を探ろうと、炭坑夫の中には見かけたこともない顔だ。

 門の近くまで二人が来ると、見覚えのある方が締まらない呂律で言う。


「なぁにぃ~? こいつが分かンないってんですか~? 仲間の顔思い出せないってどーゆうことスか~?」

「いやお前、そいつ誰だよ一体……」

「おい起きろ、おーい」


 眠りこけている酔っぱらいを、警備員の一人が頬を軽く叩き起こそうとするが、よほど深酒であったのか全く目を覚ます気配もない。

 警備員達は目を合わせて溜め息を吐く。


「大方、酒場で気のあった奴を引っ張ってきたんだろ」

「それか、こいつそういう趣味があんのか? なかなか整った寝顔じゃねーか。所謂お持ち帰り……」

「やめろやめろ、想像させるな。取り敢えず待機所にでも寝かしとくか」 


 警備員の一人はそう言って振り返り、門の鍵を開け、少しばかりの隙間を作ろうと鉄格子の門を押し始めた。

 その瞬間、彼の背後で何かがどしゃりと地に崩れる音がした。咄嗟に振り返ってみれば、先程まで酔い潰れていた筈のあの顔が、猟奇的な笑みを浮かべて、彼の視界を埋め尽くすほど眼前に浮かんでいた。

 何かを叫ぶ事もできず、恐怖を感じる暇すら与えられず、腹に何かを押し当てられた感触と共に、彼の視界は暗転した。




「おい大丈夫か? まさか殺したんじゃないだろうな」

「今更殺しくらいでビビんじゃねーよ、まあ殺してねーけど。気絶してるだけ。それよりもさあ、急ぐぜ」


 俺は懐中魔石灯を点け、暗がりに沈む森の先へとその明かりを向け、ぐるぐると回す。すると間髪置かずにエンジンの起動音が無数に聞こえ、俺は門を全開にして奴らの到着を待つ。

 やがて、道の先からギラつく光球達が爆音と共に近づき、その目映さに俺はいくらか目を細める。

 

「さあ、こっからはノンストップだ! 止まんないで全部奪え! 気が向きゃ壊せ! 貧乏にお別れしたいんならなぁ!」


 俺の鼓舞に呼応するように、アドレナリンの高なりのまま奇声を上げる貧乏不良バイク野郎集団。スラムの端っこでしみったれていたこいつらを計画に乗せるのはこの上なく簡単だった。

 俺達の目の前を走り抜けていく数多のバイクを横目に、見知った顔のバイクが俺の元に届けられる。


「持ってきてやったぜ。こんなの乗ってくるなんて割に合わねえよ。今度修理出すときゃまけてくれ」

「あんがとよ、中々やるじゃねえか! やっぱお前に任せて正解だったぜ。今度暇なとき店に来いよ」


 そう言ってやるとそいつは嬉しそうに鼻をかき、近くで停まっていた仲間のバイクの後部座席に飛び乗って、狂乱の中へと飛び込んで行った。俺は合わせて30台近くの小型・中型バイクが門の中へ飛び込むのを見届けると、そんな小物共とは比較にもならない自らの大型バイクに跨がり、唖然としている共犯者に言う。


「さあ乗れよ。まだ乗り心地がちょいと悪いけど、なに、今から改善しに行こうや」


 そいつがはっとして座席に跨がるのを確認すると、俺はアクセルを全開に捻って後輪を空転させる。

 小型の魔石同士を無理矢理直結させ、僅かな時間であるが走行可能になった愛車は、しかし未だ不満げにそのパワーの全てを晒してはくれていない。それでも、そんじょそこらのバイクとは潜在的なスペックが違う。

 凄まじい高音と共に大量の砂塵を巻き上げた後、ガッチリと地面を噛んだタイヤがボディごと俺達を前方へとぶっ飛ばした。 ああ、アドレナリンを抑えきれないのは俺も同じだなあ。この瞬間、堪らねえよホントに!

 敷地内へと突入すると、何事かと慌てふためく警備員が、バイク野郎の擦れ違い際に振るった角材で吹っ飛ばされる光景が俺達を出迎えた。仲間が待機所を制圧しようとしているのか、二階の窓を突き破って地面に落下した警備員が、血塗れの体を激痛に痙攣させている。既にそこは暴力と略奪、血と混乱で渦巻く地獄絵図と化していた。

 それらを横目に走り抜けながら、俺は後方に座す共犯者に聞く。


「おら、お前の探してるガキってのどこだ!? 約束通りまずそこ行くぞ!」

「は、へへ、こうなりゃやるしかねえ! この先の右に見えてくる建物だ、行けぇ!」


 どうやらプッツンしたらしい。行けぇ、じゃねえよこの屑。このまま適当にこいつに付き合って魔石をぶん盗って帰るのも良いけど、今回の目的の半分はそのガキにある。

 さあ、「恩着せマッチポンプ作戦」状況開始だ。


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