1.(著:ヤマダ)
今まで見向きもされて居なかった鉱石、通称魔石からエネルギーを抽出する方法が確立され、人々の暮らしは格段に豊かに成った。魔石は正しく万能、どんな現象にも変幻するエネルギー塊だ。使い方は街灯から爆弾まで様々。そんな魔石が輸送機関の動力に利用されるのもまた当然の帰結であった。
従来の馬車に魔石動力を合わせた四輪駆動車、通称自動車とケッタマシーンに魔石動力を合わせた二輪駆動車、通称バイクが生み出された。当初は引くものも無く動く様が面妖だと敬遠されていたが、今では馬車にちらほら混ざるように自動車が貴族街を疾駆するようになってきた。
そんな技術革命の時代だからこそ新しい雇用も生まれて来る。そう、鉱山だ。魔石が出る山を持っている貴族は挙って鉱山を開き鉱夫を集めた。屈強な男達は歩合制に惹かれ一攫千金を夢見て集まった。
そんな職場だからこそ否が応でも目立ってしまうのだろう。周りと比べれば幹と枝ほどに貧弱な体なのだから。
正直、鉱夫を取り巻く環境は劣悪の限りを尽くしているだろう。坑道は薄暗く虫や鼠が跋扈し、奥に進めば空気は淀んで呼吸がし難くなる。おまけに崩落や浸水と言う死神が常に肩を組んでくる。景色の変化も乏しいのも合わさって精神を病む者も絶えない。まぁ、だから賃金が高いのだが。
これ程の環境だ。本来ならばこの軟弱な体では戦力外の筈だが、他人には無いとある奇妙な一芸を持っているが故に無事雇用が許された。と言うのも不気味と分かってしまうのだ、何処に魔石が埋まって居るのか。的中率は信頼の100%、勿論根拠の無い胡散臭い勘などでは断じて無い。
ただ、聞こえてくるだけなのだ。
音が、声が、魔石の波動が。あの胸をむかつかせる悍ましい怨嗟を含んだ意味にならないざわめきが。
暗く冷たい地の中から染み出して来るあの声が。
引き摺り込んで来るような呼び声が。
嗚呼嫌だ、本当なら関わりたくもない。
今この瞬間にもその声が頭を侵し、その悪意に取り憑かれてしまいそうで、暗い闇に融け混ざってしまいそうで、仲間になったらもう独りじゃ無い。みんな一緒だ。頭が掻き回される。あの声だ怨嗟の囁きだ。胸の灼ける甘ったるい囀りだ。世界が曖昧になっていく。みんな一緒の筈だ、違いなんて無い。なのに何であれらはあんなに楽しそうなんだ。ずるい、妬ましい、呪わしい、あれは個性だ、欲しい欲しい?そうだ個性だ欲しいものだ。何のためにこんな仕事をしている。
夢がある。いつか金を貯めてバイクを買うのだ。自動車のように膨れていないあの美しく風を切るマシーンを買うのだ。
毎晩聞こえた魔石のあの歓喜の嘶きをずっと聞くために。それだけが此処で働く理由だ。こんな所で夢に堕ちている訳にはいかないのだ!黙れ化け物共め!お前共など全て出荷してやる!一欠片たりとも逃すものか、逃すものか。
今日も中々に稼げた。周りの鉱夫は互いに稼ぎを自慢し合い、今夜の酒を話し合っていたが、生憎と誰からもお呼びは掛からない。目標の為に無駄遣いは出来ないのだから寧ろ好都合だとも。
さあ、また今夜も轟くであろうバイクの駆動音を楽しみに寝るとしよう。