ファーストコンタクト
時空転移直後、思わぬ戦闘を行った五十六たちだったが、3機ともその後は何事もなく、ビーコンの誘導によって飛行場に降りることが出来た。
飛行場はもとは牧場だったようで、格納庫や倉庫は牛舎や豚舎等からの転用であった。指揮所と待機所、そして兵舎は平成世界から持ってきたプレハブ小屋となっていた、
着陸し、機体を畑少佐以下の整備員たちに任せると、五十六たちはやはりプレハブで出来た指揮所に移動した。
今後しばらくは沢村大佐が基地司令兼戦闘機隊隊長を務める事になっていた。
指揮所に移動すると、30代ぐらいの一人の男が待っていた。その男は随分と古めかしい軍服を着ていることから、五十六も直ぐにこっちの世界の軍人だとわかった。ただ、何故か異世界人とのファーストコンタクトをしているという感じは全くしなかった。
「お待ちしていました。自分は旭日皇国陸軍中尉の佐々木裕一です。みなさんと我が軍の間の連絡士官として派遣されました。以後よろしくお願いします。」
それに対し、沢村大佐が答えた。
「御苦労。自分は基地司令兼戦闘機隊隊長に任じられた沢村大佐だ。よろしくお願いする。」
2人はお互いに敬礼をした。
「佐々木中尉、紹介しよう。副隊長の藤沢少佐と、3番機搭乗員の高野兵曹長だ。」
佐々木は2人の方を向き、敬礼した。
「よろしくお願いします。」
五十六たちも返礼する。
「全員取り敢えず飛行服から制服に着替えろ。30分後までに再びここに集まれ。解散。」
沢村は2人に命令すると、一端解散命令を出した。
五十六も荷物を抱えて指揮所から出て、兵舎に移動した。すでにその一室には彼のネームプレートがはめられていた。
彼にあてがわれた部屋は凡そ4畳ほどの空間にベッドと机が置かれているだけの質素な物だった。それでも、ここが戦場であることを考えればこれでも贅沢な物である。
彼は飛行服から制服に着替えて、再び指揮所に向かった。
こちらの世界の季節は既に初夏に入っているので、今回着るのは旧海軍の第2種軍装に似せた、といよりそのままの純白の夏季用制服だ。
彼が指揮所に行くと、既に他の2人が着替え終えて待っていた。さすがに元軍人(自衛隊員)だけある。
「遅いぞ。」
「申し訳ありません。」
時間内にやってきたが、一応五十六は沢村に謝っておく。
「よし。では全員・・・といっても4人だが、これより今後の我が隊の方針について話しておく。我が隊はこちらでは仮称、皇国義勇戦闘機隊として戦闘に参加する。国籍マークは現在の日の丸をそのまま使用する。なお、基地には皇国軍に所属しているのを示すため、皇国旗を掲げておくことになっている。」
と、ここで五十六が発言した。
「司令、仮称ということは正式な隊名ではないのですか?」
「そうだ。あくまで正式名が決まるまでの繋ぎの呼称だ。だから隊旗も暫定的に日の丸を使用する。話を続けるぞ。我々は明日から早速出撃する。」
その言葉に、五十六は仰天してしまった。
「あ、明日ですか!?早すぎませんか!!」
まだこちらの世界に来たばかりだというのに。
(戦局はそこまで悪化しているのか?)
まじめにそう考えてしまう五十六。これではソロモン諸島における旧日本海軍と同じ状況である。
「それについては俺も良くわかっている。しかしだ、事情が変わったんだ。佐々木中尉、説明してくれ。」
沢村に変わって藤沢が話しはじめた。
「実は、今日まで小康状態だった敵軍の動きが突然活発化したんです。既に防衛線の幾つかを突破され、中には一気に30km近くも進撃した部隊もありあました。このままではここに来るのも時間の問題です。」
まさか今日になって戦局が変わるとは。戦場では何でも起きるという事を、五十六は改めて認識する事となった。
「そういうわけだ。」
「じゃあ我々はどこを攻撃するのですか?」
そう質問したのは藤沢少佐だ。
これは非常に重要である。なにせこっちは3機しかないのだ。少数で効果的な目標を選ぶ必要がある。
「飛燕」は改造を加えてあり、熱線探知式の小型ミサイル4発と、60kg爆弾4発を爆装出来るようになっていた。しかしいくら強化してもやはり出来る事には限度がある。
だから、3機でも効果的な戦果を上げる事が出来るターゲットを選ばなければいけない。
「となると、敵の司令部中枢か、補給線を叩くしかないのでは?」
五十六が意見を言ってみた。すると、沢村が頷いた。
「その通りだ。そこで、俺は敵の補給基地を叩く事にした。佐々木中尉。」
「はい。我々の情報機関の調べにより、この基地から西に200km地点に敵の大規模な補給基地があります。」
彼は机の上に地図を敷き、指を指した。
「我々の攻撃目標はここだ。出撃は明朝06:30だ。」
こうして、異空間における彼らの戦闘が始まろうとしていた。
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