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運命の離陸

「出撃してもらう日が決まった。」


 五十六たちの前で、河口は静かに言った。


「それはいつですか?」


 沢村が訊ねる。


「3日後だ。」


 五十六は、いよいよ来るべき物が来たと思った。


 その後、計画の詳細が話された。予定では、彼ら3人はyakで一端飛び上がる。そして、島に設けられた次元転移装置を使って別次元へと向かう。向こうでは既に神の路を通って派遣された基地設営班と整備兵が特設の飛行場を設置しており、彼らはその飛行場の西50km地点に出ることとなっていた。そこからは、飛行場からのビーコンを頼りにして飛ぶ。


「計画は以上の通りだ。なお、向こうの詳細情報については各自に渡すファイルにとじてあるから良く目を通して置いてくれ。それと、向こうでの司令官代理は沢村君にやってもらうが良いかな?」


 河口が五十六と藤沢に聞いてきた。


「異議なし。」


「右に同じです。」


 こうして、沢村の仮司令官就任が決まり、3人は解散した。


 五十六は自室に戻ると、渡されたファイルに目を通した。ファイルの中には、向こうの世界の状況が事細かに記されていた。五十六はそれらを即興で頭に叩き込んだ。


 そして翌日には、新しい制服と飛行服が渡された。むこうで彼らは旭日皇国に加わって戦うこととなっているが、そのためには軍事組織としての体裁をまがりなりにも整えておく必要があった。むこうの軍隊に組み入れられてはたまらないからだ。


 階級章や飛行服は旧日本帝国海軍に準じた物を使うこととなった。五十六の階級は飛曹長(准尉)だった。


 ちなみに司令官を兼ねる沢村は大佐。藤沢は少佐に任命された。五十六が准士官で2人は佐官であるから、尉官がいないこととなる。おまけにやたら階級が離れている。これに対して沢村が言うには「お前はまだ若いから尉官には直ぐにすることは出来ん。戦果を上げて自分で成し遂げるんだな。」


 こうして出撃の準備は整えられて言った。五十六たちは心の準備をする。整備兵たちもYakを最高の状態に整備する。


 3日後、運命の朝を迎えた。五十六は飛行服に着替え、日常生活必需品を背嚢に纏め、出撃の時を待った。


 そして、いよいよ出撃予定時間になる。五十六は格納庫へと向かった。


 格納庫の前では彼の愛機のyakが念入りな整備を受け、出撃の時を待っていた。なお、向こうの世界ではyakという名を使うことは旭日皇国側の不快感を買う怖れがあったため、新たに「飛燕」の名称が与えられていた。


 「飛燕」とは同じ水冷式の戦闘機であった旧日本陸軍三式戦闘機にあやかってつけたものである。


 彼の愛機には、操縦席横に蓮の花を描き込んでいた。これは彼が以前読んだ漫画に影響されて描いた物であるが、彼オリジナルの意味あいを含んでいた。


 蓮とは冥界を指すものであるが、今回の場合は冥界ではなく、異界を表す意味で、彼は描き込んでいた。


 操縦席に入り、計器をチェックする。計器に異常がないか確認すると、ペダルと操縦桿を動かし動作するか確認する。どちらとも異常はない。


 それが終わると整備員が声を掛けてきた。


「燃料満タン。エンジンもしっかり整備しておきました。御武運を。」


「ありがとう。」


 短く言葉を交わすと、整備員は機体から降りた。そして、無線に沢村の声が入る。


「よし。エンジン始動だ。」


 命令と共に、五十六は始動ボタンを押した。搭載されたアリソン・エンジンは快調に回り始めた。


 五十六はエンジンの回転数と温度を示す針を注視する。どちらとも異常はない。それを確認すると、両手を振って整備員に車輪止めを外すよう知らせる。


 車輪止めが外され、これでブレーキを解除すればいつでも動けるようになった。


 最初に一番機の沢村大佐機が滑走路へ入る。続いて藤沢少佐機が進む。2機が相次いで離陸していく。


 いよいよ五十六の番になった。


「管制塔。こちら3番機、離陸の許可願います。」


「こちら管制塔。離陸を許可します。」


 五十六は許可が出ると、エンジンの出力を上げ、滑走に入った。


 プロペラ機である飛燕は800m程滑走して空中に浮き上がった。機体、エンジン共に異常はない。


「よし。」


 五十六は脚を収納し、先に離陸した2機に合流した。3機は編隊を組み、次元転移装置の上空へと向かった。


 と、そこで無線が入った。


「こちら地上作業班。まもなく転移装置を作動させる。万が一に備えよ。」


 実験では特に問題は起きなかったと、五十六は聞いていた。しかし、あくまで実験の話だ。今回は飛行機を使っているのだ。万が一にエンジンや機体に異常が出ることだってありえる。


 五十六はパラシュートの金具をいつでも引けるようにしておく。


 そして、転移装置が作動した。地上に設置された4つの鉄塔が、光の壁を作り上げた。


「いくぞ!!」


 沢村の声が無線に入り、3機は編隊を組んだままその光の壁へと突入した。


 それはほんの一瞬だった。光の壁に突入したと思った次の瞬間には、彼らは見知らぬ大地の上を飛んでいた。


 そして物語は始まる。


 御意見などをお待ちしています。

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