戦いの始まり
「やはり信じられないかな?こんな話。」
河口が苦笑いしながら言った。しかし、五十六は真剣な表情のまま返した。
「いいえ。今更何を言われても驚きませんよ。・・・しかし、新たな疑問が湧きます。」
「何かな?」
「飛行機をどうやって持っていくかです。さっき見た神の路の幅では飛行機を直接持っていくのは無理でしょ?分解していくんですか?」
ちゃんと図ったわけではないが、先ほど見た神の路の開口部はどうみてもトラックが通るのが精一杯に見えた。Yakがいくら小型機といえど、全幅は8mはある筈だ。
「良い質問だ。実は我々が持っている秘密は何も神の路だけではない。」
「というと?」
「君の言うとおり、神の路の大きさには限界がある。よって運べる物も制限される。それは我が一族にとっても大きな課題だった。そこで、これを克服できないか研究者を雇い、研究を重ねてきた。その結果だ。我々は向こうと行き来出来る装置の開発に成功した。」
さすがにそれには五十六も驚きだった。
「それはつまり、一種の次元移動マシーンということですか?」
「マシーンではない。良いかね、本来次元、つまり歴史は平行に流れている。それぞれの流れは決して交わる事がない。これが所謂パラレルワールドだ。だから神の路はこのパラレルワールド同士をつなぐ連絡路ということになる。」
この説明には五十六も納得できた。というよりは平行世界を使うことは、架空戦記ではある意味王道の考え方だったからだ。
「今雇っている研究者、飛島博士というのだが、彼は独自の理論を持っている。まあそのせいで学会から追放されてしまったそうだが、それを駆使して特殊な電磁波を起こすことによって向こうとの移動を可能にしたのだ。」
まるでSFの様な話だ。
「ではその電磁波を起こす装置を?」
「そうだ。既にこの島に設置が終わっている。後は向こうに送る飛行機や資材の準備を済ませるだけだ。」
どう移動するかはわかった。しかしまだ疑問はある。
「一体飛行機何機を送るつもりなんですか?」
「30機は欲しい所だが、君を含めてパイロットが3人しかおらんからな。今ありとあらゆる方法を使って人材を集めておる。飛行機はさっき見せたロシア製のYakが5機に、アメリカ製のT6改造零戦4機を入手している。」
「計9機ですか。」
「そう言うことだ。」
そうして会話を続けているうちに、朝食は終わった。
「さ、行こう。君の教官を紹介せねばな。」
「はい。」
一体どんな人間が教官なのか五十六には気になった。
(鬼教官だったら嫌だな・・・)
と思いつつ、飛行場の片隅にある格納庫まで歩いていく。河口は格納庫に付属するようについた小さな詰め所に五十六を案内した。
河口が扉を開けると、中には椅子と机が2つあり、その内の一つに男が腰掛けていた。
「おい沢村君。君の生徒を連れてきたぞ。」
河口が声を掛けると、椅子に腰掛けていた男が立ち上がった。
「河口さん。その若いのですか?」
五十六を指差しながら、沢村と言われたその男が言った。見るからに体格が良さそうだ。もしかしたら退役自衛官かもしれないと思った。
「そうだ。」
そして沢村は五十六の側に近づいた。
「私が教官となる沢村だ。君の名前は?」
「高野五十六です。」
「ふん。連合艦隊司令長官みたいな名前だな。」
ずばりその通りだった。
「体格は十分なようだが、スポーツの経験は?」
「高校ではバレーボール部に所属していました。あと、昔少しだけですがグライダーの操縦をしたことがあります。」
「そうか・・・河口さんが連れてきたのだから視力などは大丈夫だろうな。よし。今日から3ヶ月間、しっかりがんばってもらうぞ。」
沢村が見事な敬礼をする。すぐに五十六も返礼する。
「はい。よろしくお願いします。」
「では付いて来い。」
その後五十六は沢村に格納庫を案内され、どこに何が置いてあるかを教えられた。さらに外へ出て飛行場を一周し、施設の位置なども教わる。
それが終わると飛行場から少し離れた場所にある宿舎に向かった。
宿舎は3,40人は楽々収容できそうな大きな建物だ。
「今の所はお前や整備員を含めても5人しかいないがな。」
そう言って沢村は笑った。そしてそこの食堂で昼食をとると、制服が支給された。
沢村が言うには、向こうでは義勇軍という組織で戦うために一応こう言うものも必要だそうだ。
今回支給されたのは制服と飛行服を2セットずつだ。制服も飛行服もほぼ旧海軍の物だった。どうやら現在も製造されているレプリカを流用したらしい。それら制服につけられている階級章は銀一本線だった。
「それは練習生の階級章だ。」
制服を貰い、それを着ると沢村が今後の予定について話した。それによると、明日からまず座学に入り、計器の読み方や天測の方法を習う。それと平行するようにシュミレーター訓練、初等飛行訓練、そして実物を使った高度飛行訓練に入るそうだ。
これらを3ヶ月で終わらせ、実戦に配備される予定だ。こうして、彼の戦いは始まった。
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