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迎撃戦 上

「なんで彼女が?」


 唖然としている五十六の前に、彼女がやってきて敬礼をした。


「申告いたします。姫神真理奈ニ等飛行兵曹、本日付を持って練習航空隊より、神海基地戦闘機隊へ転属となりました。」


 その言葉に再び驚く五十六。


「君・・・もう卒業したの!?」


「はい。沢村司令代行のお墨付きです。」


 義勇航空隊では、パイロットの不足からこちらの世界での人間の登用を始めていた。そのため、練習機をこちらにもちこんで訓練にあたっているが、沢村の言では投入までに最低4ヶ月はかかると報告されていた。


 しかし、真理奈はまだ2ヶ月経っていないはずである。これは五十六の3ヶ月よりも早い。


「君の飲み込みが早くて、操縦も上手いとは思っていたけど、もう前線に出てこられる程の腕になっているなんて、信じられないよ。」


 そうぼやきつつ、彼は返礼をして彼女の着任を認めた。


 翌日から、新たに真理奈を含めた編成での訓練が始まった。こちらの世界でも、規模こそ小さいが、ガソリンの精製は始まっていたので、彼らが燃料に苦労するという事はなかった。


 そしてこの飛行訓練で五十六を含む隊員達は、真理奈の腕に舌を巻いた。飛行機に乗り始めて1ヵ月半。飛行時間にして200時間ほどしかない彼女は、零戦であらゆる動作を行なう事が出来た。さらに、対戦闘機訓練でも抜群の成績を記録した。


 部下の1人である児玉一飛曹に至っては。


「彼女は女の皮を被った化け物です。」


 と言って彼女を評した。ちなみに、この言葉は数時間後に真理奈の耳に入り、彼はボコボコにされている。


 まさに口は災いの元であった。


 そんな穏やかな日常の中でも時は動いていく。真理奈が着任した1週間後、基地にレーダーが取り付けられた。アルメディア軍が航空戦力を持ったことへの対抗である。


 あまり知られていないが、第一次大戦中すでにドイツやイギリス、ロシアはすでにt単位での爆弾搭載を可能にした重爆撃機を作り上げている。この内、ドイツは後の第二次大戦と同じくロンドン空襲に投入している。


 この世界で戦闘機が出現したという事は、それら重爆撃機が早々と出現する可能性もなくはなかった。


 もちろん、それらを撃墜するのは零戦を使わなくても、T6テキサン改造の偵察機でも可能である。しかし、それは悪魔で空中における話だ。


 地上に置かれている飛行機ほど弱い存在は無い。もし夜間に奇襲爆撃でも受けたらそれこそ破壊されかねない。


 これまで義勇空軍では、敵が飛行機を持っていなかったことから、レーダーも対空火器も持っていなかったが、今回早々と整備されたのである。


 レーダーは初歩的な物であるが、それでもこの世界でなら充分すぎるほどの性能を持っている。


 また対空火器は、携帯式の地対空ミサイルと対空機銃を配備している。


 地対空ミサイルは本来、現代の空を飛んでいる戦闘ヘリやジェット機を落とすように作られている。そのため、この時代の初歩的な航空機では布で出来ているので、反射電波を拾えない可能性がある。


 そのため今回配置されたミサイルは熱線探知式である。ただし、感知温度を下げた特製品である。


 そうした変化があったが、しばらくは哨戒任務に出撃しても接敵することはなかった。


 平穏が破られたのは真理奈が来て2週間たった日であった。その日の朝、レーダーが国境線方向から接近する30機あまりの編隊を捉えた。


 ただちに基地中に空襲警報が出され、五十六を始めとするパイロット達が愛機に走った。


「コンターック!!」


 各機はエンジンを掛けると、暖機運転もそこそこに滑走を開始した。五十六も直ぐに機体を発進させた。


 現在神海基地に配備されている、零戦4機、テキサン2機の全機が緊急発進した。


「こちら高野。レーダ室。敵の位置、速度、機数を知らせ!」


 五十六は無線でレーダー室に問い掛けた。


「レーダー室より上空の全機へ、敵機は旧国境線方向約40km。対地速度100km。機数は大小30機。」


 約40kmの距離で、100kmで迫っているという事は20分ちょっとで到達する事となる。飛行機は全機発進したが、まだ基地には燃料や修理用部品など破壊されてはならない物資が山積みにされている。空襲を許すわけには行かない。


「高野より全機へ、高度3000まで上昇して敵機へ迎撃を行なう!!」


「「「了解!!」」」


 6機は敵編隊へ向かった。そして数分もすると、高度1500m程に大小の飛行機が編隊を組んで飛んでいるのが見えてきた。


「大型機10に、小型機20って所だな。」


 編隊を見て概算する五十六。小型機は先日戦ったニューポールのようだ。そして、大型機は、写真でしか見たことないが、ドイツのツェッペリン・シュターケンそっくりであった。


 敵機はまだこちらを発見できていない様で、編隊に動きは見られない。


「全機へ、敵はまだこちらに気付いていない。小隊ごとで、大型機に集中攻撃だ!!」


「「「了解!!」」」


 小隊は五十六と松内一飛曹が率いる戦闘機小隊と、大河率いる偵察機小隊の3つである。そして五十六の小隊の2番機は。


「姫神二飛曹、行くぞ!機銃の装填がしてあるか確認せよ!!」


「わかっています!!」


 真理奈であった。今回初陣の彼女であるが、彼女の声に戦闘に対する怯えなどは聞こえなかった。


「ようし、全機突撃!!」

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― 新着の感想 ―
先行きが楽しみなところで完結とは残念ですがやむなしですね。 楽しめる作品を有り難うございました。
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