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不安と希望

 敵戦艦撃沈という、思いがけない戦果を上げた五十六たちは、その翌日基地に帰還してきた。隊長の沢村は戦闘で燃料を消耗したため、当初は帰還できるか不安視していたが、なんとか3機とも辿り着くことが出来た。


 しかし、帰る早々代理指揮官の橘から昨日の攻撃で起きた頭の痛い問題を聞かされた。なんと未帰還機を1機出してしまったのである。これは大きな痛手であった。なにせ飛行機自体が20機もないのだ。1機を損失すると、すぐ大きな戦力ダウンに繋がってしまう。


 そしてさらに頭の痛い問題となったのが、この未帰還の理由が戦闘によるものではなかったことだ。なんと事故であった。若いパイロットが低空攻撃後に引き起こしに失敗してそのまま地面に激突したのがことの真相であった。


「申し訳ありません。自分がついていながらこのような事態を引き起こしてしまいました。」


 橘は深々と沢村に頭を下げた。


「いや、君の所為ばかりではない。練度に不安があるとわかっていながら、出撃を強行した自分にも責任がある。死んでしまった者は生き返らんのだ。今後は再発防止に全力を尽くすしかない。」


 とは言うものの、その場に付き添った五十六は大きな不安を口にした。


「しかし隊長。これで隊員の士気を考えるうえでマズイ事態を起こしかねないのでは?」


「俺もそれを考えていた。」


 五十六の言うマズイ事態とは、隊員の士気の問題であった。この部隊は一応一人一人階級が決められ、隊長などの役職も定められた軍隊としての体裁を取っている。しかしながらその実体は傭兵集団に近い。


 傭兵は金で雇い、直ぐに数を揃えられるのがメリットといえる。しかし、その分本来の軍隊が供える筈の忠誠心などは低い。かつて中華民国が共産党軍と戦った際も、数あわせのためだけに軍に編入した兵士が、いざ戦いとなると遁走した例もある。この部隊でも同様の事が起きないとも限らない。


 おまけに、ここは異世界の世界である分忠誠心や愛着心が湧かない事に加えて、ホームシックの心配もある。隊の士気の低下に拍車を掛け兼ねない。


 軍隊はただ戦えば良いのではない、それを支える兵たちの士気も重要な要素である。


「とにかく、死亡したパイロットについては向こうの世界に残った家族に対してなんらかの通知を送らねば成らないし、出来る限りの遺品も届けよう。それと葬式も挙げてなければな。隊員の士気については、追々考えていくしかあるまい。」


 結局そうした指針が決まり、その日のうちに隊による仮葬儀が行われた。五十六はその会場で、隊員の士気低下を肌で感じることとなった。


(こいつはやばいぞ。)


 翌日から訓練飛行は再開された。しかし、恐怖心が芽生えてしまったのかパイロットの中にノイローゼ者が続発した。一応部隊には医者がついていたが、そのカウンセリングも間に合わないぐらいの物となった。


 幸い昨日の補給線寸断と戦艦撃沈によって、皇国軍からの出撃要請はなかったが、もしこのまま状態が続けばいざという時戦えなくなる。


「やむえん。重症者は元の世界に送還しよう。」


 結局、3人が送還となった。これでパイロットはさらに減ってしまった。


 そんな状況下でありながら、藤沢や五十六といった中核パイロットはとにかく新米パイロットの練成に努めた。やはり実戦経験は大きな経験となったらしく、パイロットたちの練度向上はめざましい物があった。


 しかし、それだけでは問題の解決にはつながらなかった。この世界でパイロットに志願した真理奈を含めても、パイロットの抜けた穴を埋めるには程遠い。


 その真理奈は基地にやってきて1週間しかたっていないのに、すでに簡単な飛行訓練に入っている。とにかく物覚えがよく、飲み込みが早い。そんな彼女を基地の人間は天才と呼んでいた。


 そして基地に帰ってから4日目、五十六は他のパイロット4人とともに司令官室に呼ばれた。


「明日神の路を通って一端海鷲島に戻るぞ。そこで機体を受け取ってこちらに空輸する。」


 受けた命令はそれだけであった。


「先輩、新しい機体ってなんでしょうね?」


 五十六の元で教えを受けている松内一等飛行兵曹が司令官室から出るなりそう言った。彼は若干16歳。身長175cmの大男で隊内随一の体力を持っている。14の時に両親が借金をして失踪。その後親族をたらい回しにされたあげく孤児院で暮らしていたのだが、その類稀なる身体能力を河口に見出されスカウトされた経歴を持っている。


「さあわからん。けど河口さんがいくら宝石商の金持ちとはいえ、これだけの人数の飛行機を一気に揃えられるものかな?」


 五十六にはそんな疑問があった。一体どこから彼は飛行機を調達したのか。これまでの機体は払い下げや新規に建造された機体ばかりであったが、それを個人で20機近く揃えるのだって並大抵のことではない。今回さらに数を揃えたのだから、不思議と思わない方がどうかしている。


 翌朝、仲間達と共に五十六はトラックの荷台に乗って基地を出発。50km程離れたところにある、こちら側の神の路の入り口から中へと入り、そのまま海鷲島へと着いた。


「よう、待ちかねておったぞ。」


 トラックから降りると、そこには河口が待っていた。


「今回は一体どんな機体を集めてきたんですか?」


「まあ自分の目で確かめてくれ。こっちだ。」


 そうして案内された格納庫の中をみて、五十六は仰天してしまった。


「な!こいつは零戦の52型じゃないですか!!」


 なんとそこには、ピカピカに整備された零戦52型がつごう5機用意されていた。外見から見る限りオリジナルのようである。


 さらに、奥のほうには『赤とんぼ』の愛称で親しまれた複葉の93式中間練習機が2機置かれていた。


 そこで五十六はかつて河口が言った言葉を思い出した。


「もしかしてこれは過去から持ってきたんですか?」


 すると、河口はニヤッと笑い言った。


「その通りだ。ついに飛島博士が時空転移装置の改良に成功してね。時間旅行が可能になった。まあタイムパラドクスの心配もあるから、今の所集められたのはこれだけだ。」


 最初は半信半疑だったか、目の前の現実に五十六は内心驚き、そして歓喜したのであった。


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