予想外の仕事 終結編
「目標敵艦5!!」
先頭を飛ぶ沢村機から無線連絡が入る。確かに、海面に見える航跡は計5つだ。内3つはかなり小さいから駆逐艦か水雷艇のようだ。この時代はまだ水雷艇と駆逐艦の区別はあいまいであった。
そして残り二つはどうやら巡洋艦か戦艦のようだ。今までに艦艇の航跡を見たことがない五十六にはそれ以上の識別は不可能だった。
「全機高度を1000まで降下!」
3機は綺麗に単縦陣を作って降下していく。そして降下すると敵の姿がより一層鮮明になる。
5隻の敵艦は横1列となって進んでいるが、内両端の船はやはり小型艦艇だ。そして中央の大型艦2隻は1隻が少し大きいから戦艦のようだ。
「全機へ、1回敵艦隊上空を通過する。ただし対空火器を持っている可能性もなくはないので注意せよ!!」
一応日露戦争時の日本戦艦も機関銃を積んでいた。ただし、その目的は水雷艇を掃射するためであった。しかし、もしそれが空に向けて撃たれたらやはり脅威となる。慎重に慎重をきさなければいけない。
そして敵艦上空を最大速度で通過する。幸い反撃はなかった。
敵艦の形式を見て、少しばかり五十六は違和感を覚えた。確かに古めかしい戦艦ではあるが、日露戦争時の物ではなく、その少しあとに竣工した「筑波」級戦艦に似ている印象を受けたのだ。
(まさか、こちらも科学の進歩が進んでいるのか?)
もし船舶工学の面でも科学の進歩が進んでいるなら、これまた厄介である。なにせ、日露戦争時代は戦艦の主砲は口径は30cm砲で、4門程度しか載せていなかった。ところがこれが第一次大戦になると口径は最大で38cmになり、門数も2〜3倍に増えている。
(ま、そんな詮索は後だ、今は目の前の敵を叩かないと。)
「こちら沢村。これより攻撃を開始する。目標は中央の戦艦だ。沈められなくても、損傷を与えるだけで充分だ。よって攻撃は緩降下で行う。」
緩降下爆撃は、通常急降下爆撃が30度から45度の角度行うのに対し、それよりも遥かに緩い角度で行う爆撃方法である。急降下爆撃に比べて降下速度が遅くなるため、発射するロケットの装甲貫徹力も減少する。しかし、戦闘機である「飛燕」は過重状態で急降下すると空中分解するかもしれない、であるからこの攻撃方法は正論である。
「全機、ロケット弾の安全装置を解除!機銃も撃てるようにしておけ!」
五十六はロケット弾と機銃の安全装置を解除にする。
「ようし、攻撃開始だ!!」
3機は降下に移った。
すると、向こうもこちらを脅威と見たのか、一斉に回頭する。どうやら回避運動を始めたようだ。だが、この時代の船はいずれも石炭焚きのボイラー艦だ。五十六たち平成の軍艦に比べれば遥かに加速、減速性能は劣っている。おまけに最高速度も20ノットが関の山だ。逃げ切れる筈がない。
そしてまず隊長の沢村機が攻撃を開始した。
彼はロケット弾を4発一斉発射した。ロケット弾は撃ちっぱなしの直進式ではなく、簡易ながら熱探知方式だ。そのため、ロケット弾は見事にその戦艦に命中した。
「やった!!」
五十六は喝采した。しかし、戦艦は火災を起こしたようではあるが、今だ走り続けている。
「やっぱこんな小さなロケット弾じゃだめか?」
つづいて、藤沢機が攻撃を開始した。彼も同様に4発のロケット弾を一斉発射した。このロケット弾も全て命中し、戦艦の甲板に閃光が走った。
しかし、火災をより一層酷くしながらも戦艦は平然としている。
「やっぱ沈めるのは高望みかな?」
そう言いつつも、彼は攻撃態勢に入った。ロケット弾の発射を4発同時モードに設定し、一気に降下する。
「恨むなよ。これが戦争だ。速度650km。距離800!ようし、照準機のセンターに捉えた。容易、撃て!!」
発射ボタンを押すと、ロケット弾が発射された。しかし、その内の1基は故障したのか、点火しなかった。そのため、戦艦に向けて飛んでいったのは3発だけであった。
それを見た五十六は「ち!」と舌打ちした。
しかし、次の瞬間彼は信じられない物を見た。
ズドーン!!
突如として戦艦が大爆発を起こしたのだ。そして行き足を止めた。
「ええ!!」
彼は知らなかったが、艦砲射撃中に空襲を受けた敵艦は弾薬を弾薬庫から上げて、砲に装填していた状態だった。そのため、副砲や速射砲の弾薬ケースが甲板上に並び、主砲には弾と装薬が砲身に入っている状態だった。
先の2機の攻撃では、被弾したのは煙突や副砲甲板であった。副砲の弾薬が小爆発を起こした物の、幸いにも艦の機関や艦体自身に致命傷となる傷ではなかった。
しかし、五十六のロケット弾は後部主砲塔の砲身に命中し、そこで炸裂した。そのため、砲身内に残っていた装薬と弾が誘爆し、それによって大爆発が起きたのだ。
また、先に命中した2機のロケット弾の煙突への命中も、機関室への煙の逆流を招き、それが元で機関兵がバタバタと倒れ制御できなく、爆発と同時に止まってしまったのであった。
「嘘だろう!?」
彼自身信じられなかった。わずか3機のちっぽけなロケット弾で戦艦が大破するなんて、通常ありえない。
「隊長、どうします?」
藤沢が沢村に指示を求めた。
「これ以上は攻撃不可能だ。機銃じゃさすがに効果ない。それに、あの戦艦は大破だ。もはや戦闘不能だろう。我々の攻撃意図は消失した。これより我が隊は小摩木飛行場へ帰還する。」
「「了解!!」」
3機は翼を翻して帰途に着いた。余談だが、この戦艦結局その後航行不能になったため、皇国に拿捕されぬよう自沈処分されている。つまり、彼らはたった3機で戦艦1隻を撃沈したわけであるが、彼らがその戦果を知るのは随分後の話だ。
それよりも、帰還した3人は小摩木に戻るなり再び大歓迎を受けた。敵戦艦を大破させた光景は沿岸監視所から見えていたので、その報告がすでにもたらされていたからだ。
こうして彼らは英雄として扱いを受け、この後丸一夜宴会に付き合わされる羽目になった。
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