パイロットへの道
高野五十六がそのホームページに出会ったのは18歳の4月であった。
彼はこの年の1月に両親と兄弟を事故で亡くし、叔父の家で世話になっていた。しかし、事故のショックで大学受験に失敗し、所謂浪人になっていた。もっとも、ショックから大学を再受験するかもまだ定まっていなかった。
彼にとっての唯一の楽しみはネットサーフィンであったが、ただブラブラしているのも気が引けるので、最近は何か自分にあったアルバイトがないか探していた。
そんな折見つけたある求人サイトの適合テストに、なにげなく彼は挑戦してみた。最初は年齢や身長、体重などを書き込む欄だった。そしてそれが終わるとアンケートのような欄になった。しかし、やっていく内に気付いた。
「軍事に興味はありますか?飛行機を操縦したいですか?なんか変な事ばっか聞いてくるな。」
不審に思っていたが、彼は次々とYESを押していった。実は彼、親の影響で大のミリタリーマニアだった。五十六という名も、名字が旧姓と同じと言うことで、故山本連合艦隊司令長官にあやかってつけられた名だ。
そして最後の項目に進んだ。
「命を失う覚悟はありますか?」
彼はますますこのページを不審に思った。第一まずどのような職業であるのか、また給料も出来高制としか書いていなかった。
「まさか傭兵かヤクザの募集じゃないよな。」
などと言いつつ、彼は最後の項目もYESとした。今さら命を惜しんだってしょうがないとい軽く考えていた。
そしてその一週間後、彼の元に手紙が届いた。
「今日の深夜0時。東京港に来い?」
その手紙には採用通知と、その一文のみが記されていた。
彼は散々迷ったが、行ってみる事にした。やめたきゃ引き返せばいいのだ。
深夜叔父に内緒でこっそりと家を抜け出し東京港に向かった。0時、指定された埠頭に行くと、一人の男が立っていた。
「高野君かね?」
「はい。」
「付いてきたまえ。」
全身黒尽くめのその男は、ただそう言って歩き始めた。
「あの!」
慌てて声を掛ける。
「何かね?」
「僕まだやると決めたわけでは・・・」
「安心したまえ、まだやってもらうとこちらも決めたわけではない。とりあえず、ある物を見てもらってからだ。」
その言葉に、ますますおかしいと思う五十六。
(まさか、麻薬の運び屋とかやれって言うんじゃ!?)
そんな考えが頭を巡る、だが、彼は不思議と恐怖という物を感じなかった。何故か自然とその男の後を追った。
100m程歩くと、一台の車が止まっていた。
「あれに乗りたまえ。ただし、乗ったら目隠しをしてもらう。」
そういうと男は目隠しを彼に渡した。
もし逃げ出すとしたらこの一瞬だっただろう。だが、彼は素直に従った。車に乗り込み、目隠しをした。
彼が乗り込むと同時に車が動き始めた。どこをどう走っているかはわからない。1時間ぐらい走って、ようやく止まった。
「目隠しを外して降りなさい。」
言われたとおりにした。車から降りると、そこにはもう一人別な男が立っていた。
スーツをピシッと着こなした、40代後半ぐらいの男だ。
「ようこそ。私があのサイトの雇い主だ。今はわけあって本名は明かせん。だが君がここまで来てくれた事を歓迎するよ。」
男はにこやかに笑いながら握手してきた。
五十六は表情を変えず、確信を突いた。
「で、目隠ししてまで連れてきて何をしろって言うんです。まさかヤバイ仕事じゃないでしょうね?」
その言葉に、男は笑いながら言った。
「何、こちらで法を犯すような事ではない。君には飛行機を操縦してもらいたいんだ。」
「飛行機!!??」
彼にとって、飛行機を操縦できるのは夢のまた夢と思っていた。飛行機を飛ばす上で必須である英語の素養があまりなかったからだ。
「あの、俺は大学も出ていないし、英語も出来ませんが。」
その言葉に、その男は再び笑った。
「それは関係ないことだ。付いて来なさい。君に乗ってもらう機体を紹介しよう。」
そこでようやく彼はきずいた、自分が山の中にいるのと、目の前に格納庫のような物があるのを。
とりあえず男に付いて行く。二人はそのまま格納庫の中に入った。
そして、そこで彼は息を飲んだ。そこにあったのは、緑色に塗られたレシプロ式の戦闘機だったからだ。
「これは・・・」
彼は記憶を探る。目の前の機体は液冷エンジン独特の尖った機首を持っている。ペイントは旧日本軍と同じで、濃い緑に胴体と翼の日の丸という典型的な物だった。しかし、彼の記憶にある日本の戦闘機とは違っていた。
「「飛燕」、いや違う。こいつはソ連のyakだ。」
彼の記憶が正しければそれは旧ソ連軍のyak9型戦闘機だった。
「そう、yakだ。もっとも、エンジンはオリジナルとは違うし、その他も色々と手が加えてある。そして君にいずれ乗ってもらうかもしれない戦闘機だ。」
男は先ほどとは打って変わって、真剣な表情で彼に言った。
「え!!??」
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