新しい仲間
五十六は真理奈を宿舎の部屋まで案内した。そこは、一番奥の部屋だった。なるべく男たちから離しておく事にしたのだ。
「はい、ここがあなたの部屋です。」
「ありがとう。」
「これが鍵。と・・・便所は女用は廊下の真ん中にあるから。風呂は別の建物にあるからまた案内するよ。」
一応島では女性は少ないながら訓練中である。そのため、宿舎には女性用の部屋とトイレが用意されていた。
「わかった。」
「で、これが女性用の制服。君はあくまで仮採用だから、まだ階級章はついてないけどね。それと、もしかしたら大きいかもしれないけど、それは服を合わせてくれ。」
五十六は鍵と制服を彼女に渡した。
「俺は5つ先の部屋だから、着替え終わったら呼んでくれ。」
「わかった。ありがとう。」
「それじゃあまた後で。」
真理奈は部屋に入った。それを見届け、五十六も自室へと向かった。出撃した時の格好、すなわち飛行服のままであったので、着替える必要があったのだ。
部屋に戻った五十六は手早く飛行服から、制服へと着替えた。
五十六は持ち込んだ鏡で自分の姿を見る。
「本当に今は軍人してるんだよな。」
鏡には、軍服をピシッと着込んだ青年が映っていた。心なしかその姿は3ヶ月前とは見違えている気がする。
「4ヶ月前にはこんなことになるとは思えなかったよな。まあ常人だったら異世界で戦闘機に乗るなんて考えられないか。」
思えばあっという間の3ヶ月だった。海鷲島での激しい訓練。そして戦い。
戦いといっても、こちら側の一方的な攻撃だったが。こうやって冷静になって考えると、自分はなんと楽な戦争をしているのだろうと思った。
ミリタリーマニアの彼は随分と色々な文献を読んできた。その中には厳しい戦争を乗り切った生き残り達の伝記もあった。
その多くは、戦争が如何に過酷な物かを伝えていた。それを考えると、彼の戦いなど足元にも及ばない。
「俺・・・生き残れるのかな。」
命を捨てても良いと思ってこの組織に入り、戦闘機パイロットとなったが、いざ考えてみると、そんな事を感じてしまう。
しかし、五十六が感傷に浸っている時間は唐突に中断された。
トントン。
ドアがノックされた。
「あ、着替え終わったのかな?」
五十六はドアを開けた。
「お待たせ、着替えたわよ。」
そこには、制服に着替えた真理奈が立っていた。
女子用の制服も、男性用と同じく旧海軍の物を模している。ただし、旧海軍には女子用の制服はなかったから、どちらかというと海上自衛隊の服に似ている。
洋服である制服を彼女が着こなせるか少し心配していたが、それは杞憂だったようだ。
多少制服は大きいようだが、彼女は見事着こなしていた。似合っていると言って良い。
「へえ。似合ってるじゃん。」
「そう?ありがとう。」
まんざらでもなさそうである。
「けど、こっちの世界の人間は和服を多用しているって聞いたから着こなせるか心配してたけど、きっちり着られたね。洋服を着た経験があるの?」
「え?まあね。」
彼女が一瞬視線をずらしたのを、五十六は見逃さなかった。
(なんだろう?)
しかし、今追及するのは止めとくことにした。
「それじゃあ基地を案内するよ。」
五十六は彼女に基地を案内する。
案内するとは言っても、やっぱり時代ギャップは大きかった。彼女自身まったく基礎知識すら知らない単語を五十六は連発したため、そのたびに一から説明しなければいけなかった。
兵舎を一通り見て、そして今度は滑走路や格納庫を見て回った。
格納庫に来て、彼女は目を輝かせた。
「うわあ!!これが飛行機!?」
「そう。俺が乗ってる「飛燕」だよ。」
「へえ、近くでみると案外大きいのね。」
興味深々で「飛燕」を見る真理奈。
まるで子供のように見て回る真理奈を見て、五十六は提案した。
「乗ってみる?」
この提案に、真理奈は素っ頓狂な声を上げた。
「え!?いいの?」
「ああ。」
五十六は彼女の手をとって主翼の上に乗った。
「そこ、フムナって書かれている部分に気をつけて。」
「わかったわ。」
フムナと書かれているのはフラップだ。
「さ、ここが操縦席。どうぞ。」
五十六に促され、彼女は操縦席に入る。スカートを履いているので、最初は少し入りにくそうにしていたが、なんとか操縦席に座った。
「うわああ。」
彼女の瞳は輝いていた。
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