003
五歳になった。
来年から訓練と思うと憂鬱が止まらない。
現実逃避を兼ねて、里の生活を紹介する。
まず、俺はヴァンパイアである。覚えているだろうか。
ヴァンパイアといえば、色々な能力を持っていたりするが。うちのヴァンパイアは一つだけ持っている。吸血することで人を超える筋力や体力を持つらしい。
霧になったりできないし。眷属のコウモリを操ったりもできない。というか、眷属そのものがいない。
そして、吸血しないとダメなので成人しかその能力を持ってない。
十三歳で成人し、牙が生えるのだ。それまで牙は無い。
…行き場の無い人を連れてきて吸血するみたいだ。
当然、口封じを兼ねて致死量を吸血されて死ぬ。
あぁ、やっぱり人の敵だよ…。
俺の異世界ライフがぁ。
それで、弱点の方はどうかというと…。
十字架・にんにく・銀は平気だ。まぁ、十字架とかは地球での話だからな。当然かな。
ただし、一つ。たった一つだけ弱点がある。
太陽を浴びると灼けてしまう。
村の集会所で実演されたよ。
あれは俺が三歳のときだったかな。集会所に泊まったと思ったら、朝早く起こされて夕焼けの太陽に手をかざす大人。
灼ける手。
瞬く間に灰になっていく手。
泣き出す子どもたち。
俺も真っ青になってたと思う。
吸血してると、より太陽に弱くなるらしい。
お陰で、生まれてこの方太陽なんてとんと見てませんな!
それで、ですね。
気が付いた人はいますか?
「朝早く起こされて夕焼け」です。
そう、俺たちは夜活動して昼間は眠っているのだっ!!
ま、太陽がダメだから当然だよね。
あぁ、もちろん夜目が利く。月が出てればほぼ昼間のように見える。
うん? じゃあどうして室内で明かりの魔術を使うのかって?
それはね。月が出てればほぼ昼間のようにと言ったように、本当に光が無かったらちょっと見えにくいんだ。そこにダメ押しするかのように、ヴァンパイアの家には窓は無い。うっかり太陽光が入ってきたら灼けて死んでしまうからね。だから隙間風も無いよ!
あとは…。あとは、普通の生活かな。生活に便利な魔術を使ってるくらいで、中世と現代の間みたいな生活だ。一部地球より便利だけどな。
強いて不満を言うなら風呂がないことだな。汚れを浄化する魔術があるせいで、風呂じゃなくて魔術なんだよね。そこだけちょっと不満かな。元日本人としてはやっぱりね。